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精霊のカプリース  作者: 紗衣羅/みぃ
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離別

 あれから5日経ち、生まれ育った村を後にする。

穏やかで幸せだった何気ない日常が、精霊の儀式の日を境に激変してしまった。

”過去”を思い出し、王都からの襲撃で何人も傷つき、この村からも離れなければならならない。


「さあ、行こうか。」


ウイゲルの言葉を合図にみんな歩き出す。

希望は少なく、たくさんの苦難が待ち受けているかもしれない新しい未来へ。



大分歩いた後、フィアナとミーアはもうかすかにしか見えなくなった、自分たちの村だった場所を振り返り小さく「さようなら」と別れを告げたのだった。



 新しく移住する場所は同じ大森林の中にあるが、整備された道はなく、通常なら徒歩で10日程の距離にある。だが今回は人数が100人程おり、年老いた者、まだ幼い子を連れている者もいる為、おそらくその倍以上はかかるだろう事が予想された。


 村を出発してから18日後、野営の準備をしている時、フィアナは川に水を汲みに行くフリをして、ミーアについて来るように目線で合図した。 皆から少し離れた川のほとりに移動した2人は辺りを伺い、小声で話し始める。


「前を向いて、雑談してる風を装って。気づかれたらまずい。」

「…うん、フィーも気が付いていたんだね。」

「3…いや5人か。しばらく前からこっちを伺ってたね。 …どうする?殺る?」


何やら物騒な事を言うフィアナに溜息をつく。前世でVRゲームをやっていた時からこんな感じで、PKer(殺人者)には嬉々としてPKK(殺人者狩り)を仕掛けていた。フィアナもといナツミが言うには『殺られる覚悟の無いヤツが殺んじゃねぇわ。因果応報じゃボケ』と言う事らしい。  ゲームなので実際に死ぬわけではないが、VRの特徴を生かし、いかに恐怖を与えるかに特化した、精神的に追い詰めてからのPKKで、当時の仲間は『あいつはちょっと、いやかなりヤバい』が共通認識だった。その後始末をいつもさせられていたミーアことミアの気持ちは推して知るべし、溜息もつきたくなるというもの。


「‥‥相変わらずフィーは過激だねぇ。」


フィアナは口を尖らせ不満そうだ。

「だってー、うざくね?」


ミーアは右手人差し指を唇に当てて、う~んと考え

「それよりもいい考えがある。移住先を知られるのはまずいし、私達が囮になって注意を引き付けよう。」


「お~けぃ~~。ついでにあんな事やこんな事も教えてもらえるといいね。」まあ無理だと思うけど、それはそれでとフィアナは悪人顔でニヤリと笑った。


「父さん達に言わなくてもいいかな...?」

「うーん…こっそり行きたいところだけど… そうだ、偽装するか。」

「偽装って、なにするつもり?」


フィアナは右手人差し指を立て、ウインクをして得意げに宣言する。

「ずばり!し・ん・だ・ふ・り」

「はぁ…… で?」






「あなた!!ミーアが!ミーアが!!!ああ、どうしよう…どうしたら!!」


ウイゲルの元に妻のステラが震える手に布切れの様な物を持って駆け込んできた。 その顔は蒼白で目も赤い。一体何があったのか。 落ち着かせるためにウイゲルはステラの背をさすりながらやさしく問いかけた。


「落ち着きなさい。 一体何があった?」

「ミーアとフィアナがどこにも居なくて…探したら…これ、これが…!」


手渡されたものはべっとりと血の付いた破れた布切れだった。 それを見た途端ウイゲルは目を大きく見開き、尋ねる声は地を這うように低い。

「…‥‥ステラ…これをどこで…」



 ステラに案内された先は川のほとりより森に入ったところで、争った様な跡と、大型の生物のモノと思われる足跡が複数。 そして…飛び散った血痕と肉片だった。この森は確かに魔物が多く生息するが、この辺には出没しなかったはずである。熊のような大型の獣も生息している。 だが、あの2人がただの動物に負けるとは考えられなかった。 考えたくはないが、これははぐれて来た魔物のせいと考えるのが妥当と思われた。


「ああぁ‥‥ミーア…何でこんなことに…」

「そんな…なんて事…なんて事だ…ああ、ミーア…フィアナ…」







―――――― 1時間前 ――――――



 土を変化させて巨大な足跡を作り、周辺の樹や草を傷つけ、荒らして、乱闘の跡を演出する二人。血と肉を用意するのに適当な獲物としてイノシシ型の動物を狩り、それを周辺にバラまいていた。


フィアナは振り返らず「ねえ、いつまで見つめてんの? 恥ずかしいんだけど。」と言うと、ミーアが「恥ずかしいようには見えないけどねぇ。」と小声で呟く。


 鬱蒼とした木々しか無かった所に、音も無く一人の男が現れた。漆黒の上下に深紅のサッシュベルト。フードを目深に被りその顔は窺い知ることができない。まるでアサ〇ン・ク〇ードのようなテンプレ暗殺者スタイルに、フィアナは吹き出しそうになるのを堪え、若干声が裏返りながら楽し気に訊ねた。


「ンンッ! …で、お友達は出てこれないのかな?」

「…‥‥」

「そう、出てこれないならしょうがないね?」

「そうね、ちょっと強引だけど…どのみち同じだし。」


二人の目が同時に青く光る。『転移(テレポート)


気が付くと人の気配のしない集落に漆黒の男(シウス)は居た。

(ここはあいつら(魔法使い)の村か) 

振り返るとそこには呆然と佇む同じ漆黒の装備を纏った4人と、魔女二人が居る。


「さてさて、それじゃ…『麻痺(パラライズ)』」


「抵抗しようとしても無駄よ。首から下は麻痺させたからおとなしくしてね。」

仁王立ちするフィアナの隣で、ミーアが言い聞かせる様にそう言うと忌々し気にシウスは吐き捨てた。

「‥‥この化け物め。  ‥‥ぐっ」


フィアナはシウスのフードを剥ぎ、胸倉を掴んで睨みつける。

「あのさぁ~…慎ましやかに平穏な暮らしをしてた私達の村を、めちゃくちゃにしたのはあんた達だってこと、忘れてるんじゃないの? 一体どっちが化け物よ! 穏やかだった暮らしを!父さんを!みんなを守って死んだ村の人達を返してよ!」


胸倉を掴んだまま、激しくシウスを揺らして責めるフィアナを制してミーアが言う。

「とりあえず、あなた達に聞きたい事は2つ。あなた達は何者で、目的は何か。」


「‥‥‥」

5人は押し黙ったまま口を開こうとはしなかった。


「‥‥そう、何も言う気はないのね。 じゃあそこで仲良く寝てなさい。」


2人は5人を置いて歩き出した。




数歩進むと振り返りもせず


「あ、もしかしたら魔物が出るかもしれないけどがんばってねぇ~~」


そう言って手をひらひらさせて去っていった。




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