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精霊のカプリース  作者: 紗衣羅/みぃ
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魔女の逆鱗

「早く逃げろ!王都の兵士どもが来る!!」



まだ日が昇らぬ早朝、窓の外から悲痛な声が聞こえ、村全体が騒めきだす。



夕べは色々な事があり、疲れてすっかり熟睡していたはずのフィオナは周りの喧騒で飛び起きた。


(何…?何が起きたの?!…はっ、母さんは?!)


「母さん!!!母さんどこ!?」


叫びながらフィアナは母を探す。寝室、居間、台所…どこにも姿が見えなかった。

…すると家に併設された店の方から声が聞こえてきた。


「フィー!母さん今店にあるありったけの薬草と薬を集めてるから、あなたもすぐ逃げる準備してみんなの所へ行きなさい!大丈夫、母さんも後から行くから!」

「でも…!母さんを置いていけない!」


狼狽える娘に優しく微笑んで言い聞かす。

「聞いて頂戴フィー。父さんの作った薬がみんなの役に立つかもしれないでしょう? だからね、後で必ずみんなの所に行くわ。みんなにもそう伝えて頂戴。わかったわね?さあ、早く行きなさい。」


俯いて何かを堪える様にこぶしを握り締め、母の言葉に答える。

「わかっ…た…で、でも!早く来てね!!」


そう言って家を飛び出した。


(母さん…ああ、どうか無事で… 何か…何か母さんを守れるものがあればいいのに…)


 心の中で念じると家の方に何か異変を感じ、振り返えってみると家全体が何かに守られるように、透明な層のようなものが見えた。


その時突然理解した。


(魔法って…そういう事だったのか…)





 母を残して行くことに後ろ髪をひかれつつも、急ぎ村の中心の広場で皆と合流した。村長を見つけたフィアナは迷わずそちらへ向かう。


「村長!」

「おお、フィアナ無事だったか…良かった… ん、母さんはどうした、一緒じゃないのか?」

「母さんは、店にある薬草と薬を集めたらここに来るそうです…」

「そうか…お前の父さんはいい薬師だからな。ありがたい」

「一体何があったんですか? 今迄ここには村の人以外ほとんど出入りが無かったのに、なんで兵士なんて!」

「…詳しい説明は後だ。今は危ないから子供達と一緒にいなさい。」


そう言った村長の後方には女性と子供達が不安げに身を寄せ合っていた。中にはミーアの姿も見える。


「男の人達は今どこにいるんですか?」


そう尋ねると村長は顔を強張らせる。

「…男たちは村を守る為に戦いに行った。」


 今迄平和だった村の、穏やかに過ごして来た人達が果たして戦えるのだろうか? そう思ったらもうフィアナの体は動いていた。 

「…私行ってきます! ミーア!お願い、一緒に来て!」


成人になったばかりの我が子と、我が子同然に可愛がっている娘が、危険に晒されるのを善としない村長は強く諫める。

「駄目だ!!二人共行くことは許さない!!」


ミーアは一瞬戸惑ったものの、フィアナについていくことに決めた。

「ごめんなさい、父さん。」


「待ちなさい!フィアナ!ミーア!ミーア!!」


制止を振り切り2人は走り出す。



「ミーア聞いて。魔法の事なんだけど。」

「魔法の?どういう事…?」

「なんで私が無詠唱で魔法を使えるかわかったんだ。重要なのはイメージだよ。」

「え?」

「詠唱は具体的なイメージを補佐する意味合いしかなかったんだよ。 本来は頭の中でその()()()()()()()()()()()でいいんだ。 私達は前の人生でこの世界よりも進んだ文明を生きて、その利器を使ってきた。その光景を容易に思い浮かべることができるし、ましてOADで魔法も使ってきたでしょ? だからこの村の他の誰よりも私たちは魔法を使いこなすことができるはずなんだ。」

「それは…」

「とにかく!いろいろ考える時間がないの!行くよ!!」


有無を言わさずフィアナはミーアを連れて村の出口に向かう。嫌な予感はしていたが、目の前には最悪と呼べる光景が広がっていた。


「燃え盛る炎よわが……ぅぐああああ!」

「風よ起こりて……ふぐっ!」


詠唱に合わせて敵からは矢が飛んでくる。それを見て、怯んだ隙に間合いを詰めた剣士が村人を斬りつける。 辺りは血の匂いが充満し、さながら地獄絵のようだった。 その光景をみて――――――


―――――――フィアナはキレた。


「上等だ…その喧嘩、わたしが買ってやろうじゃないか…! ここまで好き放題やってくれたんだ、覚悟はできてるんだろうなぁ?!」


目が青く光り、妖しく美しいまでの笑顔でフィアナは魔法を使う。

 

「はーーっはっははは!しねぇええ!【メテオ】」


 メテオとは、某有名ゲームにも登場する究極魔法の一つで、彼女らのやっていたOADでも隕石を宇宙空間から呼び寄せ目的地に落とすというもの。その威力は凄まじく、周辺に半径1kmものクレーターができるほど。


あまりの悲惨な光景に呆然と立ち尽くしていたミーアだが、フィアナが魔法を使うと我に返えりあわてて止めた。

「わーー!!!フィー!だめ!メテオはだめーー!!落ち着いて!この辺全部吹き飛んじゃうからああ!」

「ちっ」

「村の人達まで吹き飛ばしてどうするの?!」

「…分かった、じゃあ個別撃破にする。ミーアは村の人達を守って!」

「う、うん…」


『守り』を任されたミーアであるが、彼女にはまだ自信がなかった。使える様になったとは言え、魔法自体に慣れていない自分が、果たしてフィアナの言うようにイメージだけで魔法を使えるのか。


「【アイスニードル】」

フィアナが自分の周辺に鋭く尖った氷の塊を複数出現させ、敵に向けて撃つと敵兵士がバタバタと倒れた。


こちらが優勢になってきたかと思ったその時、森に潜んでいた伏兵が飛び出し村人に向かっていく。


動かないミーアにフィアナが吼えた。「ミーア!!!」


(そうだ、出来るかどうかじゃない。やらなきゃいけないんだ!)


「【アイスウォール】」

村人たちを囲むように水のカーテンが出来、一瞬でそれが凍り分厚い氷の壁ができた。


「やるじゃん、ミーア!そんじゃ、こっちも終らせようか!【サンダーストーム】」

にわかに暗雲が立ち込み、その雲から敵一帯に雷が落ち、雲が晴れると辺りには焼け焦げた兵士の遺体が複数転がっている。


後方で指揮をしていたと思われる兵士が叫び出す。

「なん…どういう事だ!攻撃を回避する時間がないじゃないか!無詠唱なんて聞いてないぞ!!」

「くそっ!この化け物が!!! 撤収だ!引けっひけーーー!」


―――こんな話は聞いてなかった、もっと楽に捕獲できるはずなのに!


生き残ったわずかな兵達は逃げる様に去っていった。




「終わったね」

「うん、でも…」


負傷した村人たち、逃げて行った兵士…問題は山積みだった。





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