第2話「試験!?ファントムマスター」
僕は今、絶望の淵に立っている。それはもう、黒板を爪で引っ掻いた音が鳴り止まない時に匹敵する絶望だ。
目の前には背の低い少女が一人、余裕の表情を浮かべ立っている。
……ああ、なんでこんなことになってるんだ。
時は遡ること2時間前。
輝夜ちゃんに強引に引っ張られる形で、僕は外に出た。そこに広がっていたのは…………
ヨーロッパか?中世ヨーロッパのような街並み。
外観は元いた世界と比べても然程違和感はない。
だが、それらの背景の一部に目が止まり、思わず口を開く。
「城、城か!?なんだあのデカイ城!?」
壮大な白亜の城が、眼前に聳え立つ。
どうやら街の中心部に造られているらしい。
「あれは、影の城でございます。影の城には、私達を統べるまさに人類最後の砦!影の王が住んでおられるのです。」
輝夜ちゃんの説明はありがたいのだが、いつもルビが多すぎると思う。もう少し作者には手心というものを覚えて欲しいが。そんなことを考えていると、輝夜ちゃんが衝撃的な台詞を吐いた。
「私達が今から向かうのは<影の城>です!そこに行けば、あなたでもきっと強くなれると思いますよ♪」
……マジかよ。今からあそこに行くのかよ。でも、強くなれるということは彼女なりの善意なんだろう。どうせ行くアテも無いしと割り切ることにした。
<影の城>前
「私は輝夜と申します。この度は、私の主であるこの方と共に、<力>を受け賜るべく参りました。」
「よかろう。これより門を開き、謁見を許す。」
さすが輝夜ちゃん。
「意外と簡単に通れるんだね、門って。」
「もちろんですとも!我らが王は寛大ですから。なによりここは最後の国、叛逆を起こすものなど最早おりません。なので門はそこまで厳しくないのですよ。」
なるほど。と、感心してみるが、やっぱり慣れはしない。
「さあ、これより王との面会ですよ。気を引き締めていきましょう。」
ギィィィ……と謁見室の扉が開く。部屋に入るとすぐに、人影が見えた……の…だが……
なんだあれ?いわゆるロリというやつか。1人の少女が満足げな顔で立っている。
「よく来たな。余の名はアーサー。影の王・アーサーである。」
アーサー?アーサーと言ったら、アーサー王伝説で有名な、かのブリテンの王じゃないか。ブリテン…キャメロット城…なるほど。
「お会いできて光栄です。我らが王。この度、我が主に<力>を授けて戴きたく、参りました。」
「聞いておる。そこの<異界の勇者>に、力を授ければ良いのだろう。」
「…!?なぜ、彼が異界の者だということを…?」
「余とてこれでも聖都の王。この国で召喚術が行われれば、猫でも気づくであろう。」
ふと目を落とすと、猫がアーサーの隣で座っていた。
………あいつ、朝の猫だよな。
「朝にいた猫は、召喚術に反応してやってきたのか。」
「ふふ。聡明なのは良いことだ<異界の勇者>よ。…それでは、本題に入るとしよう。」
アーサーは、少女らしからぬ堂々とした構えで立つ。
「<異界の勇者>よ。これよりそなたに<力>を授ける儀を執り行う。まずは貴殿の名を聞かせよ。」
僕は名前を聞かれてるのか。
「えっと、僕の名前は……………………。名前…は………………あれ?」
名前が、思い出せない。
「名前が…思い出せません…。」
少し驚くような顔をするアーサー。
「………ふむ。召喚術の障害であろうか。まあよい。仮に貴殿の名を黒乃と名付ける。これからはそう名乗るがよい。」
僕に与えられた仮名………黒乃。なかなかいいネーミングセンスだと思うな、王は。
「それでは儀を続ける。<異界の勇者>もとい、黒乃。貴殿には<異界時空聖剣>を授けよう。」
その瞬間、地面に複雑な魔法陣が組み立てられていく。アーサーが床に手を付き、上に引き上げると、一本の立派な剣が現れる。
「この剣は我が聖剣<魔剋聖導剣>より派生する、時を司る剣である。貴殿にこれを授けるかわりに、貴殿が持ち主に相応しいかどうか<試練>を課す。貴殿がそれを乗り越えた時、この剣は真に貴殿のものとなるであろう。—出でよ!幻影神殿!」
その瞬間、周りの景色が一変し、次々と塗り替えられていく。これは、一体……!?
「…………即ち!余の…<試練の場>であろう!」
先程から話すタイミングがなく黙っていた輝夜ちゃんが、ようやく口を開く。
「これは…!?魔術結界!しかも、<時空>を塗り替えるほど強力な!」
「……さて、黒乃よ。試練の時じゃ。その<異界時空聖剣>を用い、余に一撃でも与えてみせよ!」
強大な力を持つ、<影の王>の少女はニヤリ、と笑みを浮かべて立ち塞がる…!
どうも!あんこです。
私ですね、今回書いててすごく楽しかった部分が多かったです。厨二病感満載のルビをふったり、超々楽しい!
そんなわけで、みなさんにもその楽しさを味わっていただけたらなぁ、と思います。
次回がかなり気になる終わり方にしてみたので、次回の試練がどうなるのか!楽しみにしていて下さい。それではまたまた次回のあとがきでお会いしましょう! あんこ