第0幕 夢でした
桜舞い散る、春のうららかな陽気の中。
俺は一人の女の子にこの木の下で告白すると必ず成功するという、そんなありがちな言い伝えがある場所に呼び出されていた。
呼び出されたといっても直接ではない。
朝、何気なく下駄箱を見ると可愛らしい封筒に可愛らしい文字で放課後、大事な話があるのでこの木の下で待っていてくださいと書いてあった。
もちろん最初は誰かの悪戯じゃないかと疑った。
しかし、あらゆる観点、独断、偏見、想像および妄想、そして俺自身の願望からそれはないと判断しここにやってきた。
……まだこないのかな。
こんなところに呼び出されているんだ。用件はきっと一つ。
そう思うと顔が熱くなり、鼓動が高鳴る。
相手の顔も性格も名前さえも分からない。
だけど、だからこそこの緊張感と高揚感が入り混じったようななんともいえない感覚が味わえる。……まぁそれはかなりの危険を同時にはらんでいることでもあるのだが、何とかなると思っている思おうとしている。
とりあえず了承のとき、保留のとき、断るときの三つの対応法を考えようとしたとき、後ろに誰かの立つ気配があった。
「遅く……なりました……」
可愛らしい声。聞いたことがない声だ。誰だろう?
否が応でも鼓動は高まり、心臓はもう爆発するんじゃないかというくらいに音を立てる。
ごくり、と口の中に緊張でたまっていたつばを飲み込み、覚悟を決める。
そしてうつむき加減になりながら彼女のほうを向く。
見えるのは足。細くすらっとしていて、これだけでも彼女のスタイルがいいということが十分に分かる。
そして徐々に顔を上げていく。
徐々に彼女の全体像が見えてくる。
今見えるのは胸。男と女で大きく違うその部分は思春期の男子が見る本に比べるとだいぶ小ぶりに見えるが、しっかりとその存在を主張している。
そして顔が上がりきりついに彼女の顔が見える。
そこにいたのは――。
「……はっ」
次の瞬間、俺の顔に映っていたのは彼女の顔などではなく、見慣れた自分の部屋の天井だった。
「夢……なのか……?」
だんだんとぼんやりとしていた頭がハッキリとなるにつれて、こみ上げてきたのは脱力感と恥ずかしさだった。
高校生にもなってこんな妄想全開の夢を見るなんて……。
自虐モードに入りながら、自分の夢に自分でツッコミを入れていく。
まずなんだよあのシチュエーション。ありえないだろ。
桜の木の下で告白すれば必ず成就するなんて、それどんなエロゲ? 枯れないんですか? 魔法の桜なんですか? もうホント何なの俺。死ねば? 死ぬよ、死ねよ。
疑問、確定、命令をなぜか自分で自分に言いながら、ベッドから起き上がる。
時計は六時ぴったりを指している。
いつもより少し早い時間だが早起きは三文の得とも言うし、損はないだろ。
そう思いながら俺――淦坂智耶はとりあえず顔を洗おうと洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗い、まだ少しぼうっとしていた頭が目覚める。
その時、ふと思い浮かべたことはある意味不思議なものだった。
――また今日もいつもと同じような楽しい一日が始まるなぁ。
今日何が起こるかわからないというのに、何故か楽しい一日になると分かる。
だって、そう思うんだ。
今日はきっと楽しい日だって。
それが何時も通りだから。
朝食を食べ終え、制服に着替えた俺は玄関を開け、日常へと足を踏み出す。
楽しくて温かくてたまに悲しく、でも最後は皆が笑ってすごす日常へ。
「行ってきまーす」
さぁ日常の始まりだ。
ジャンルはコメディなんですが笑える要素があるのか分からない作品。
まだまだ拙い文章力ですが精一杯書いていきたいと思います。
……もう一個のほうもがんばりたいなぁ。