魔人族
「ちょっと待ってよ、ドラゴ。」
「トジ、置いてくぞー。」
ドラゴが王都についてから数日間、ドラゴはトジの家で過ごした。二人は兄弟のように一緒に過ごし、修行や店の手伝いをしていた。トジの父と母も、また息子が増えたと喜んでいた。
そして、とうとう守護者試験の日が訪れ、ドラゴとトジの二人は意気揚々と王城を目指していた。
「着いたぞ、ここが王城か!」
目の前に見える王城はとても立派で、この国の王の力を誇示していた。
守護者試験は毎年ここ王城で行われ、多くの受験者が王城に集まっていた。
「急に走り出さないでよ、そんなに急いでもまだ試験は始まらないって。」
少し遅れてトジも後ろからやってきた。
「よし、早速エントリーするぞ。」
そういうとドラゴはそそくさと王城の中に入っていった。
「もう、だから先に行かないでよー。」
王城の中に入ると広い庭が広がっていた。そこには既に多くの受験者が集まっていた。
「おー、たくさんいるなー。」
「う、みんな強そうだな…。」
「やる前からビビってどうすんだよ、お前なら大丈夫だよ。」
「う、うん…。」
「にしても変わった格好のやつも多いな。一体みんなどこの種族なんだろ。」
「そうだね…。あ、例えばあそこにいる黒い髪を後ろで束ねてる女の子。あれは和人族だね。和人族の服装は結構特徴的で、あの人は忍者って言われる姿だね。武器も変わったものが多いよ。」
「へぇー」
「他にもあの人は巨人族だし、あっちには鳥人族もいるね。あと、あ、あれは…!」
「ん、あの女がどうかしたのか?」
トジの見つめる先には黒いローブを着た女が立っていた。
「あの格好は魔人族だよ。魔人族がこんなところにいるなんて…。」
「なんで魔人族がいたらダメなんだ?」
「別にダメって訳じゃないけど…。もしかしてドラゴ、魔人族の話知らないの?」
「魔人族って、その名の通り魔法を使う民族じゃないのか?」
「そうではあるんだけど、魔人族には悪い噂があるんだ。」
「悪い噂?」
「うん。ドラゴは魔獣は知ってるよね?」
「ああ。」
「じゃあなんで『魔獣』って言うか知ってる?」
「いや、考えたこともなかったな。」
「実は魔獣は魔人族が生み出しているんだ。」
「何!?」
「正確には魔人族が生み出していると言われているんだ。実際に魔人族が魔獣を生み出しているという確証はないんだけど、昔、獣よりもはるかに凶暴で、驚異的な強さを持った化け物がこの世界に現れた時、当時その強さと能力で世界の中心にいた魔人族が真っ先に疑われたんだ。あんな化け物を生み出せるのは魔人族しかいないって。もちろん、魔人族は否定したんだけど一度広まった噂はどうすることもできず、そのまま魔人族は世間から疎まれるようになったんだ。そしてその化け物は『魔獣』と呼ばれるようになり、魔人族は国の外れの方に移住してひっそりと暮らすようになったんだ。」
「なんだその話!?魔人族が悪いかどうかなんて分かんねぇじゃねぇか。」
「そうなんだけどね。でも魔獣に恨みを持ってる人は結構多いから、その行き場のない恨みの矛先を魔人族に向けてるのもまた事実なんだよ。」
「おい、そこの女!お前のその格好、魔人族だろ?」
一人の男が魔人族の女に話しかけた。
「俺はな、親を魔獣に殺されたんだ。そのせいで生活は苦しく、それはそれは苦労した。それも全部お前ら魔人族のせいだ!ここにいる多くのやつが魔獣に恨みを持っている。それをよくもぬけぬけとこの守護者の試験に顔が出せたな!」
どうやら男は魔獣に恨みを持っており、その恨みを目の前にいる魔人族にぶつけようとしているようだった。
「…」
「てめー、何無視してんだよ!お前らみたいな悪魔の一族はさっさと滅んじまえばいいんだよ!」
「あの人、ひどいこと言うね。って、ドラゴどこ行くの?ちょっと、ドラゴ!」
「なんとか言えよこの悪魔!」
ドラゴは男の前に立ちふさがった。
「あん?なんだてめぇ…!ぐぁっ!」
男が言葉を言い終わる前に、ドラゴはその男を力一杯殴っていた。男はそのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
「て、てめー!何しやがるんだ!」
「それはこっちのセリフだ!変な因縁つけてんじゃねーぞ!一族滅べとか二度と言うんじゃねぇ!」
「なんだと!」
二人が取っ組み合おうとしたその時、
「おら、そこまでだ。」
上空から声がした。すると二人の間に筋肉質の男が降ってきた。
「いくら、能力を使っていないとはいえ、この神聖な王城の中で喧嘩は許されない。もしどうしてもヤりあいたいなら、試験は諦めて王城の外でヤるんだな。」
「…ちっ、覚えてやがれ。」
そう言うと男はその場から去って行った。
「ド、ドラゴ!大丈夫?」
トジがドラゴの元に近寄ってきた。
「おっちゃんは?」
ドラゴは突如現れた男に問いかけた。
「俺の名は『パウル』。今回の守護者試験の試験官だ。」
パウルはドラゴを睨みつけた。
「お前は竜人族のドラゴだな。二度と問題は起こすなよ。次はないからな。」
そう言い残すと、そのままどこかへ行ってしまった。
パウルが去った後、ドラゴは、事の発端であった魔人族に近づいた。
「おい、あんた。あんな酷いこと言われてよく黙っていられるな。」
「…別に、いつものことだから」
そういうと魔人族の女は、その場から去って行った。
「なんか、冷めたやつだな。」
謎めいた魔人族の姿はもう見えなくなっていた。
少し期間が空きます。