トジの力
「そういえばドラゴは今日から住むところは決まってるの?」
街へ向かう道中、トジが問いかけた。
「いや、決まってない。どこかで宿でも探そうと思ってるんだけど…」
「じゃあ、うちに来なよ!うち、商人だった頃の父さんと母さんの知り合いがよく泊まりに来るから部屋がいくつか空いてるんだ。そこに泊まりなよ。」
「ほんとか!助かった。じゃあ遠慮なくそうさせてもらうよ。」
「うん!
王都での拠点も決まり、ドラゴはトジに連れられ王都の街を散策した。
王都内には様々のものがあり、人々が集う商店、学び舎、教会、病院、森に川、そして王族の住む王城があった。どんな種族でも暮らしていけるよう、ここに無いものは無いといった感じだ。とても一日で見回れる規模ではなく、想像していたよりも何倍も大きい都市に、これからの生活に不安を覚えたドラゴであった。
日も落ちて来て、ドラゴとトジはうちに帰ることにした。
「トジは、どうやって戦うんだ?」
帰り道、唐突にドラゴがトジに問いかけた。
「能力がないとなるとなんか武器を使って戦うのか?」
「僕は、この二丁の拳銃で戦うんだ。」
そう言うと、トジは腰に差してあった二丁の拳銃を取り出した。
「これは、父さんと母さんがくれた魔武器なんだ。商人をしていた頃に護身用として使っていたものらしくて、空間に存在する目に見えない生命エネルギーを集めて、圧縮して弾として発射する、銃弾が必要ない拳銃なんだ。」
「へー。」
「父さんが使ってたものと母さんが使ってたものを一丁ずつもらったんだ。だから、僕はこの魔武器で守護者になるって心に誓ったんだ。」
トジにとって、とても大切な武器であるようだった。
「ドラゴはその背中の剣で戦うの?それって魔武器?」
今度はトジが問いかけてきた。
「うーん、これも魔武器なのかな?ずっと身近にあって、あんまり考えたことなかったな。でも俺の竜の能力を流し込んで使ってるからな、多分普通の武器じゃないと思う。」
「そっか、なんか身体の一部って感じでいいね。」
二人がお店に帰ると、中から騒がしい声が聞こえてきた。
「そういえば、夜は酒屋になるんだったな。」
「うん、でもただ飲んで騒いでるって感じじゃないね。なんかあったのかな?」
二人は裏からではなく、店の表から中に入った。
「おいおい!なんだよこの店は!?」
二人が中を見ると、いかにも柄の悪そうな男がステンカに向かって絡んでいた。
「わざわざこんな街外れまで来てやったのに、クソ不味い料理出しやがって!」
どうやら出て来た料理に対して文句を言っているようであった。
「お客様、そちらは西部の小さな集落で食べられている、伝統料理なんです。少しクセはありますが、もともとそういう料理ですので…」
「なんだと?この店はこんな不味いものを料理として出してんのか?はははっ、元商人がやってる全国のうまいものが食える店だっつーから来てやったのに、とんだ詐欺店だな。」
客のバカにした言葉をステンカは黙って聞いていた。
しかし、ドラゴは我慢できず背中の剣に手をかけた。
「ダメだよ、ドラゴ!王都に入るときに言われたでしょ。王都内では能力を使っちゃダメなんだ。その武器はドラゴの能力を使うんでしょ?それを使ったら逮捕されて守護者試験どころじゃなくなっちゃうよ。」
トジは怒りに震えるドラゴを止めた。
「なんだこのガキ?この店のガキか?店も店ならガキもガキだな!」
先ほどまで黙っていたステンカであったが、子どもをバカにされ、閉じていた口を開いた。
「お客様、お店のことを悪く言われるのは仕方ありませんが、子どもたちのことを悪く言われる筋合いはありません。ここがお気に召さないのであれば、お帰りください!」
ステンカの気迫に客は少し怯んだ。
「へっ、言われなくてもこんな店二度と来ねーよ!どうせ商人も魔獣にビビってやめたんだろ?そんなヘタレの料理なんか食ったらヘタレが移っちまう。」
「こいつ!」
「ドラゴ、下がってて。」
トジは低く冷たい声でドラゴを制し、客の前に出た。
「おい、お前。今の言葉取り消せ。」
「あん?なんだてめー。」
「父さんと母さんをヘタレって言ったことを取り消せって言ってんだよ!」
「うるせーんだよ!このガキ!」
客はトジに向かって拳を振り下ろした。
「トジ!」
しかし、その拳はトジに当たることはなかった。
「なんだこいつ、ちょろちょろと!」
客は何度もトジに殴りかかったが、その攻撃はトジにカスリもしなかった。
「すげぇ。」
その光景を見ていたドラゴは思わず呟いた。
「僕はこのお店で配達をしながら脚力を鍛えた、そしてお前がバカにした父さんと母さんの料理を食べてここまで大きくなったんだ!お前なんかの攻撃が当たるわけない!」
「このやろー!バカにしやがって!」
客は近くの机を持ち上げ、振りかぶった。大きな机でトジは避けられそうになかった。
「くらえー!」
トジに大きな机が振り下ろされようとした、その時、
「ぐぁ!」
机を振りかぶっていた客が急に崩れ落ちた。
その後ろには、拳を握るドラゴが立っていた。
「要はこの剣を使わなきゃいいんだろ!」
「ドラゴ!」
ドラゴの一発により客は意識を失ってしまった。
「ありがとう、ドラゴ。」
「いいって、俺もムカついてたし。それにしてもトジ、お前すごいな!途中、見とれちまったよ。」
「いやいや、ドラゴこそ一撃で倒すなんてすごいね!」
二人がお互いを褒めていると、二人の元にステンカが近寄って来た。
「このバカ!」
ステンカは二人の頭にゲンコツをくらわした。
「危ないことして!試験も近いのに怪我でもしたらどうすんの?」
ステンカは危険なことをした二人を心配していたようであった。
「まあでも、無事でよかった…。あと、二人ともありがとね!」
「母さん…」
「おばさん…」
「さて、後始末をしないとね。トジ、守護者を呼んで来て。」
「わかった!」
その後、暴れていた客は守護者に引き渡した。幸い、お店に来ていた他のお客は常連だったらしく、みんなお店の味方をしてくれ、客が酔っ払って暴れたとして処理された。騒動中に厨房にいて何の役に立たなかったリコイは、申し訳ないと常連のお客さんも含めみんなにご馳走を振る舞った。その日お店は大騒ぎの宴会となったのであった。