闇夜の混乱
にしても、リーアの爺さんの話だとこの森にも魔獣がいたんだな。倒したとは言っていたが一応気をつけないと。」
この世界には魔獣と呼ばれる獣がいる。どのように生まれ、どこに生息するかは未だに解明されておらず、忽然と現れ、人や動物を襲う。非常に厄介な存在とされ、それらを退治するのも守護者の仕事となっている。
「とりあえず、先を急ぐか。」
しばらくすると日がだんだんと落ちて来て、辺りが暗くなってきていた。
「そろそろ寝床を探すとするか。」
ドラゴは辺りを見渡し、大きめの木を探した。この森の木は大きく、獣の多くは木に登れないため、ドラゴは寝るときは木の上と決めていた。
ドラゴが木に登り、寝ようとしたその時、
「ワォーーーーーーーン」
森の中に狼の鳴き声が響き渡った。ドラゴが木の下を確認してみると、30匹近い狼の群れが森の中をうろついていた。そしてその中心にひときわ大きな狼が一匹見てとれた。
「あれはもしかして魔獣?」
異常な体の大きさと目が赤黒く光っていることから、ただの獣ではないことが確認できた。
「本当に魔獣が現れるとは。魔獣は一匹だけみたいだが、さすがにあの群れを一人で相手にするのは大変だな。」
そんなことを考えていると、狼の群れは一斉に走り出してしまった。そしてその方向はリーア達のいた集落の方向であった。
「まずい、あっちにはリーア達がいる。」
ドラゴは急いで木から降り、リーア達のいた集落の方を目指した。
しかし、
「グルル…」
茂みの奥から数匹の狼が姿を現した。
「ちっ、急がねーと。」
「キャー!」
集落ではパニックが起きていた。
「戦え、ただの狼だ!」
「やめてー!」
「押すな!とりあえず木の上に逃げるんだ。」
いきなりの出来事に戦おうとするもの、逃げ出すもの、行動は様々だった。次から次へと現れる狼に集落の人間は慌てるばかりであった。
「一体どうなってんだ、この周辺には狼は住み着いていないはずだろ!」
「そもそも獣除けの魔具はどうした!」
「そんなことは後だ!とりあえずこいつらをどうにかするんだ。」
集落の大人達は、銃や弓を持ち狼に立ち向かっていった。
狼の一匹一匹はそれほど強くはなく、徐々に混乱は収まっていくように見えた。
すると、奥からひとつの大きな影が姿を現した。
「グァーーーーー!」
その姿と鳴き声に集落の大人達は震え上がった。
「あ、あれはまさか魔獣!?」
「嘘だろ、この森の魔獣は守護者が退治したはず。また新しいのが現れたのか!?」
「う、うわぁー逃げろー!」
「グァーーーーー!」
魔獣は鳴き声とともに大人達に向かって走り出した。魔獣はその牙をむき出しにし、逃げ遅れた大人達を食べようとした。
「うあぁぁぁっ!」
ガキーーーン。
死を覚悟した大人達の前に金属音が響き渡った
「あぶねー!」
間一髪、ドラゴはその牙を剣で受け止めた。だがその威力は凄まじく、精一杯の力を込めても後退させられるのであった。
「おい、今のうちに早く逃げろ!」
「あ、ありがとう!」
大人達は急いでその場から逃げた。
「さて、こいつをどうにかしねぇとな。」
その頃、集落の別の場所では、リーアとその祖父が避難場所を目指して走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、リーア、わしのことはいいから先に行け。このままじゃと狼に追いつかれる。」
「何言ってるんだよ!おじいちゃんを置いていけるわけないよ!」
「グルルルル。」
二人の後ろから狼が姿を現した。
「まずい!リーア、逃げろ!」
「嫌だ!おじいちゃんはボクが護る!」
「何を言ってるんじゃ!お前じゃ狼には敵わん!逃げるんじゃ!」
「逃げるもんか!ボクは守護者になるんだ。おじいちゃんを護る気持ちだけは絶対に負けない!」
「リーア…」
だが、リーアの気持ちなど関係なく狼は無情にも二人に襲い掛かった。二人は死を覚悟した。その時、銃声が鳴り響いた。狼は銃で撃たれ、動かなくなった。
「おい!大丈夫か」
狼を倒したのは集落の人間であった。
「おお、ありがとう。おかげで助かった。」
「礼はいい、さっさとここから逃げるぞ。どうやら魔獣が出たらしい。」
「え、魔獣!?」
「ああ。向こうで誰か戦ってるらしい。集落の人間ではないそうだが。」
「もしかして、ドラゴさん!?」
リーアはその場から走り出し、魔獣のいる方を目指して走り出した。
「おい、どこへ行く!」
「リーア!戻るんじゃ!行ってはならん。」
二人はリーアを追いかけようとした。しかし、
「グルルルル」
また狼が姿を現した。
「くそ、こんな時に!」
リーアの背中は二人から見えなくなってしまった。