守護者を目指すもの
王都より少し離れた森。そのひときわ大きな木に少年は立っていた。赤い髪色をしたその少年は、森の先に見える巨大な都市を目に、心踊らせていた。
「あれが、王都か。あそこから俺の夢が始まるんだな。」
強い風が吹き、森が大きく揺れた。
「よし、行くか!」
様々な種族が暮らす世界『キヌサ』。この世界では古くよりそれぞれの種族が自分たちの能力を活かし共存してきた。その世界の中で最も広い国土を持つ国、『タチマ王国』。そのタチマの中心にある都市『王都』を目指し、少年『ドラゴ』は足を進めるのであった。
「にしても腹が減ったな。王都に行く前に何か食べるか。」
「誰かー、助けてー!」
森に叫び声が響き渡った。
「なんだろう、行ってみるか。」
「はぁ、はぁ、はぁ、誰か、助けて。」
小さい子供が巨大なクマに追いかけられていた。自分の体の倍以上の大きさがある猛獣から力の限り逃げているのであった。
「来るな!来るな!」
「ガァー!」
クマはその長い手を振りかざし、鋭い爪で子供を捉えようとしていた。
その時、
「【竜の爪】!」
一本の剣がクマを切り裂き、クマはその場に崩れ落ちた。あまりの一瞬の出来事に小さな子どもは唖然としていた。
クマを斬ったドラゴは持っていた剣を背中に戻し、子どものもとへと近づいていった。
「危なかったな、大丈夫か?」
子どもは我に返った。
「…はっ、あ、ありがとうございました。もう死んじゃうかと思いました。」
「無事でよかった。でもなんでこんな森の中で一人でいるんだ?家族は?」
「家族はおじいちゃんがいますが、腰を悪くしちゃって家で寝ています。代わりにボクが食料を取りにやって来たんです。」
「それは偉いな。でもいくら何でも危なすぎる。食い物だったらちょうどでっかい肉が手に入ったし、これを持って帰りな。」
「はい!」
二人はこの子どもの家を目指し歩いていた。
「お前、名前は?」
「ボクは『リーア』です。お兄さんは?」
「俺はドラゴ。竜人族だ。」
「竜人族!?もしかしてドラゴさんは守護者なんですか?」
「いや、まだ違う。だがいずれ立派な守護者になる。そのために王都を目指しているのさ。」
「この世界のありとあらゆる脅威からみんなを護る存在。ボクも憧れます!…でもボクは身体もちっちゃいし、力も強くないし…」
「そんなの関係ないって。大事なのは強さよりも気持ちだって俺の憧れた人が言ってたぞ。」
「そっか…、ボクも頑張ってみます!」
「おう!」
「あ、あれがボクの家です。ぜひ上がっていってください。ご馳走します!」
(こんな森の中に集落があったのか。)
その集落は森の中にひっそりと存在していた。規模は小さいがそれなりにちゃんとした生活を送っているようであった。
「おじいちゃーん!」
「リーア、一体どこに行っていたんじゃ!心配したんじゃぞ!」
「ごめんなさい。森に食料を取りに行ってたんだ…。でも安心して。危ないところをドラゴさんが助けてくれたんだよ!ドラゴさん物凄く強いんだ!」
「そうだったんですね。ドラゴさんありがとうございました。お礼と言ってはなんですがゆっくり休んでいってください。」
「ドラゴさん、すぐ料理するので待っていてください。」
そういってリーアは先ほど手に入れたクマの肉と山菜を手に、奥の台所へと向かっていった。
「まさか、こんなところに人が住んでるなんて思わなかったな。」
「わしらは古くからこの森に住んでいるんです。普通の人族ですが、狩猟や採集をして生活をしております。ただ少し前に魔獣が出まして…。守護者が来て退治してくれたのですが、集落の人間は恐れて次々と森の外に出て行き、集落は縮小していくばかりです。あの子が大きくなる頃にはきっとここも無くなってしまっているでしょう。」
「へぇ…、リーアの両親は?」
「その魔獣に殺されてしまいました。そこからわしや集落のみんなで育てております。あの子は守護者になりたいとよく言っておりますが、わしは反対です。あの子にはとにかく無事に、安全に生きてほしいんです。」
「そうか…。」
「ふたりとも!できたよ!さあ、食べよう!」
明るい声とともに奥からリーアが顔を出した。ドラゴたちも話を切り上げ料理の元へと向かった。
「はー、うまかった。リーアありがとな。」
「どういたしまして。助けてもらったお礼ですから気にしないでください。」
「お腹も満たされたことだし、ようやく王都に行けるな。」
「そんな!もう行っちゃうんですか?」
「ああ、そろそろ守護者の試験が始まるからな。それまでに王都にたどり着かないと。」
「そんなぁ…」
「これリーア、わがままを言ってはならん。笑顔で見送ってやりなさい。」
「はーい…。でもドラゴさん、守護者になったらまたうちに来てください。またご馳走します!」
「そうだな、リーアの飯も食いたいし、また来るよ。」
「じゃあな。」
「またねー。待ってるからねー。」
「ああ!」
「…さて、王都に行くか。」
ドラゴは集落を背に、王都へ向かうのであった。