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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
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9.不器用な人。

真一は千鶴への想いを舞へ語ってくれるのか?

その時、舞は?

『あの傷は、おれのせいなんだ』


 そう言ったきり、有馬真一は口を閉ざしてしまった。三嶋舞にはとても不親切な彼は、それ以上詳しく話すつもりはないようだ。こうなれば、彼女自身で考えるしかない。


(……ちづの足の怪我に、何らかの関りがあったってことよね?)


 舞は考え込む。

 千鶴が大怪我を負った経緯は教えてもらわないと分からないが、その傷に対して彼が責任を感じているのは確だ。


『おれのすべては千鶴のものだから』


 この言葉を発した時、真一から償いとか自責の念を感じられなかった。彼の口調にはまったく暗さがなかったからだ。

 それよりも、直向な情熱のようなものが感じられた。そのせいで、真一と千鶴が付き合っているのだと勘違いしてしまったほどだ。


(有馬君のあの強烈な眼差しはなんなの?)


 有馬真一という男が秘めている千鶴への想いとは、どうも舞が思っているような『好き』なんて淡い感情のものではないのかもしれない。

 今はっきり分かっていることは、初めから彼の心の中には第三者が入るような余地はなかったということだ。


「三嶋さん」


 突然名前を呼ばれて、舞は弾かれたように顔を上げた。


「おれはこのまま店を出るけど、もうすぐ千鶴が戻ってくると思うからここにいてあげてよ。千鶴には用事を思い出したから、ごめん、って、言ってくれると嬉しい」


 そう言い残すと、真一は舞が止める間も無くあっという間に舞達の分まで支払いを済ませ、さっさと店を出て行ってしまった。その姿を腰を浮かせたままただ茫然と見送った舞は、力尽きたようにへなへなと座り込む。

 最後まで、真一という男は、千鶴のことしか考えていなかった。


(ちょっと、ひどくない? ここに一人残される身にもなってよね!)


 今、この店内にいる人達には、舞がイケメンと口論の上に置いて行かれた可哀そうな女だと思われているに違いない。


(……お茶代のお礼ぐらい言わせてほしかったな)


 立ち去って行くすらりとした後ろ姿を、舞は頬杖をついて眺める。


(ふ~ん。かっこいい男って、後ろ姿までかっこいいんだ……)


 そんなことをぼんやりと思いながら見ていると、視界の端を店内にいた二人の若い女達が急いで店を出て行く姿が映った。何気なく目で追えば、二人はそのまま真一の後を追っていく。


(え……? まさか、逆ナン?! ……でも、あの子達も私みたいにあっさりと振られちゃうんだろうなあ~) 


 外見だけで判断するなら、有馬真一はクールに見える。

 だが、千鶴への執着はかなりのものだ。千鶴といる時の彼はとても楽しそうにしていたのに、千鶴が居なくなった途端、飼い主に置いて行かれた大型のワンコのような状態になっていた。

 二人の過去について、舞は何も知らない。これからも彼は秘めた想いを抱えたまま、ずっとそばで見守り続けるつもりなのだろうか……。


(ちづが誰か違う人を好きになったらどうするのかな?)


 こっぴどく振られたというのに、舞は真一を嫌いにはなれそうになかった。初めは理想を形にしたような彼の容姿に惹かれた。

 しかし、話すうちに彼の一途な内面がとても気に入ってしまったようだ。


(なんて不器用な人)


 有名進学校に通うのだから頭は良いのだろう。さらに容姿端麗で、微笑まれただけで落ちる女は多いに違いない。

 だが、舞が有馬真一を嫌いになれない一番の理由は、たった一人の女を一途に思い続けているところだ。まるで物語に出てくる騎士が身分違いのお姫様を慕う姿と重なってしまう。

 舞としては、折角この時代に生まれてきたのだからさっさと告って、撃沈されるなり、付き合うなりすればいいのに、とは思う。


(撃沈された時はどうなっちゃうのか怖いけど……。でも、動かないで手に入るものなんて無い。恋を実らせたいなら、想いを伝えない事には何も始まらないだから、しっかりと行動して、想いを叶えて欲しい)


 心の底からそう願えた。

 想いが叶った時の真一の姿を見てみたいと思う。

 いつのまにか、真一の姿は町の雑踏の中に溶け込み、もう見えなくなってしまっていた。


読んでくださり、ありがとうございます。自分でない誰かに読んでもらえるということは、とても励みになります。私の頭の中だけでは、真一も千鶴もただの妄想の産物でしかなかったのですが、こうして文字に変え、それを読んでもらえたことで二人は物語の人物として動き出しました。こうなると書いている私もとても楽しいのです。これからもお暇な時にでも読んでいただけると、とてもありがたいです。

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