78.お迎え。
部活が終わり、三嶋舞と音無千鶴は無言で肩を並べて校門へ向かっていた。部活の他の仲間たちは他愛もない話で盛り上がっている。
「舞。私は何をすればいいかな? 舞は何をしてほしい?」
「え? ちづはそのままでいいよ。っていうか、今までと変わらず私の側にいてほしいな」
「それはもちろん! 一緒にいる! ううん、私が一緒に居たい。そうだ! 明日から休み時間は私が舞のクラスに行っていい?」
「! うん! それ、いいね! 私のクラスに来てよ!」
(ちづが私のクラスに来れば、あの男との接触も減るし、良い事だらけだわ)
舞は名案とばかりに千鶴の肩に両手を置く。一方の千鶴は心配そうな表情のまま舞を見ている。
「舞、辛いって思ったらそう言ってね?」
「まあ、確かに嫌な気持ちにはなったけど、辛くは感じなかったかな」
「そうなの? 私は上靴を泥だらけにされたら、泣いちゃうよ。あんな風に悪意を向けられたら、やっぱり辛いし、悲しいよ」
舞は優しい眼差しで千鶴を見た。
「ちづがいるから」
「私?」
「そう。私の上靴を泥だらけにしていたのを止めさせに行ったんでしょ? それって、なかなか出来ないよ。でも、危ないから次はやらないでよ。……それに、ちづはどんな私でも受け入れてくれるからね。それって、すごく安心できるんだよね。だから、私は悲しいとかはないの。ただ、あいつらに本当にムカついただけ」
一気に思っていることをぶちまけると、千鶴は酷く驚いた様子で目を大きく見開いている。
「! あのね! 私も。私もなの! 舞が居てくれるから、私はどんなことがあっても学校に来て、笑うことができているんだよ!」
舞と千鶴はしばし見つめ合うと、どちらからともなく抱き合った。
「この二人、またやってるよ~」
峰岸小絵が呆れたように声を上げた。
「そういえば、部活の途中に二人でどこかに行ってたよね? どこに行ってたの?」
思い出したように森本彩華が訊ねてきた。舞が振り返る。
「ああ、小谷先生に頼まれたものを取りに行かされてた」
「な~んだ」
もう興味がなくなったのか、彩華は浅山香と話をしだした。
「あっ! ちづの幼馴染君だ!」
小絵が声を上げた。周りにいた者達が一斉に校門へ視線を向ける。
「本当だ! マジでイケメンだよね~」
「もしかして、お迎え?」
騒ぎ出した仲間達の声を背に千鶴が慌てて校門へ駆け出した。舞も後を追う。門の外に陵蘭高校の制服を着た有馬真一が立っていた。
「真一?!」
「お疲れ」
真一が穏やかな笑顔で千鶴を迎え入れる。真一の横にはにこにこと人の好い笑みを浮かべた佐倉要の姿もある。
「あなたも来ていたの?」
「三嶋ちゃん、久しぶり~」
舞が声を掛ければ、真一の肩に片手を置いた要が反対の手をひらひらと振りながら佐倉が応じる。
「……あなたは相変わらずなのね」
少し呆れた口調で舞は呟く。
そして、つかつかと要に近づいて行った。
「あなたが帰る方向はあっちよね。一緒に帰りましょう!」
「え? ええ?」
舞は驚いている要の腕を強引に掴んだ。その姿を見て、同じ方向の小絵達もきゃっきゃっと楽しそうに集まって来た。
「名前は何ていうんですか?」
「前に体育館にきてましたよね?」
「背が高いですね? 何か部活されてます?」
突然、質問攻撃が始まり、珍しく要が戸惑いを見せている。その顔を面白いと思いながら、舞は振り向いた。千鶴と真一が唖然としたままこちらを見ている。
「バイバイ、ちづ!」
手を振りながら名前を呼べば、慌てて千鶴も振り返してきた。
「バイバイ! 舞」
舞は千鶴からその隣に立つ真一へ目を向ければ、視線がばっちり合った。
(頼んだわよ)
心の中で呟く。
真一に心の声が届いたかどうかは分からないが、視線がそらされる事はなかった。皆が各々の家に向かって賑やかに帰り始める。
「俺達も帰ろうか?」
「うん。そうだね」
真一に優しく促され千鶴が歩き出す姿を見届けて、舞も前を向いて歩き始めたのだった。
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