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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
77/81

77.キス。

 桐谷千里が音無千鶴の頭をくしゃりと撫でる。


「……ちい、部活が終わる頃に迎えに来ようか?」


 千里は声のトーンを少し落とした。言葉に重みを感じる声だ。尋ねられた千鶴はじっと千里の目を見ていたが、フルフルと首を左右に振る。


「今日も千里は叔父さんのお店に手伝いに行くんでしょ? 私は大丈夫」

「無理はするなよ。それに、俺に遠慮はするな」

「うん。遠慮なんてしてないし、無理もしてないよ。千里は私がピンチの時はいつも助けに来てくれるんだね」

「運命だな」

「何それ~」


 少し照れたように千鶴が言えば、千里はふっと表情を崩し、満足そうに微笑んだ。側で二人の様子を見守っていた舞は慌てる。


(うわっ! やっばっ!! 早速、全力で落としにかかってきてるじゃない!)


「桐谷君、本当に、ありがとう。じゃあ、私達は部活に戻るわ」


 千鶴の体を背後からホールドした三嶋舞は、言葉では感謝を伝えながら千里を警戒するように離れていく。


「じゃあ、また明日ね」

「ああ、また明日な」


 手を振る千鶴の反対側の手首を掴むと、舞は体育館へ向かって走り出した。体育館の近くまで来ると、舞は立ち止まり千鶴に向き直る。


「ちづ、確認するよ?」

「? な、何を?」


 驚く千鶴の一挙手一投足見落としがないように見つめる。


「ちづが好きなのは誰?」

「え?!」


 すぐに千鶴は顔を真っ赤にして頬を両手で押さえた。


「し、真一……だよ」


 小さい声だったが千鶴は即答した。意外と早く答えたなと思いながら、舞は確信をつく問を投げかけた。


「じゃあ、桐谷君のことは? どう思ってるの?」

「え? ええ?! 千里の事……?」

「そう! 好きなの?」


 変化球無しの直球だ。それだけ舞は危機感を感じていたのだ


「……好きだよ」


 少し間を置いて、千鶴は正直に答えた。


(やっぱりか!)


 舞は頭を抱えた。


(既にあいつの手の内に落ちてるじゃない!)


 舞は千鶴の両肩に手を置いた。


「ねえ? ちづは有馬君と桐谷君のどっちとキスがしたいの?」


 ひえぇぇと、言葉にならない声を発している千鶴の両肩を逃がさないように掴む。 


「答えて。ちづ!」


 かなり目を泳がせていた千鶴だったが、面白いほど顔を真っ赤にして口を開いた。


「真一」

「そう。じゃあ、桐谷君とキスは出来る?」


 すぐに千鶴は首を物凄い勢いで左右に振った。


「大きなお世話なのは自覚してるの。でも! ちづ、今の気持ちをしっかりと覚えておいてね!」

「? うん」


 顔を真っ赤にして首を傾げたが、千鶴は素直に頷く。その姿を見て、舞は少し安心する。


 その後、体育館に二人が戻ると、部活の顧問の小谷が何をしていたのかと問うてきたので、舞は泥だらけになった自分の上靴を見せた。


「……何だ、これは?」

「遅くなった事は謝ります。でも、私の上靴に嫌がらせをされていたのを音無さんが先に気付いて止めようとしてくれていたので、この時間になってしまいました」

「嫌がらせ?! 三嶋、いじめられているのか?」


 顔色を失った小谷が確認してくる。


「いじめられていませんよ。単なる嫌がらせです」

「……」


 平然とした舞の姿に、小谷は困惑する。


「誰か分かっているなら、俺が注意をするぞ」

「大丈夫です。自分で対処できます」

「そ、そうか。だが、次も何かあればちゃんと言ってくるんだぞ」

「分かりました。ありがとうございます」


 小谷と舞のやり取りを、千鶴は眉をハの字にして困惑した顔で見守っていた。その千鶴の背を押し、舞はそのまま練習に加わったのだった。

読んでいただいて、ありがとうございます。

楽しめましたか?

また続きを読んで頂けると嬉しいです。

これからも宜しくお願いします。

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