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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
76/81

76.危ない男。

 三嶋舞は目の前に立つ男を挑むように見上げた。その視線を傲慢にさえ見える表情で桐谷千里が受け止めている。


(この男は危険だわ……)


 今までどのような暮らしをしていたのかは知らないが、やはり異国で暮らしてきたからなのか、まわりにいる男達とは纏う雰囲気が違う。背が高いこともあるが、大勢の中にいても、明らかに目立っている。笹山達がとち狂うのも分からないわけではない。


「舞!」


 舞だけでなく桐谷千里も振り向く。鍵を掴む手を振りながら音無千鶴が勢いよく駆けてくる。


「舞、大丈夫?」


 肩で息をしながら心配そうに千鶴が覗き込んできた。

 

「顔色が悪いよ。気分が悪くなってきた? 保健室に行く?」


 千鶴が矢継ぎ早に質問してくる。余程酷い顔をしていたのだろう。


「大丈夫。ちづは? 私の上靴を取り返そうとしてくれたんでしょ? あの人達に酷い事言われたんじゃない?」


 そう舞が訊ねると、千鶴は『え? 私?』と驚いたように目を大きくする。千鶴も顔色が良いとは言えないのに、人の心配をするのが千鶴という人間だ。。


(この子は本当に人のことばかり気にして、自分の事は後回しなんだから──)


「ちい、息が上がっている」


 千里が自然な仕草で舞と千鶴の間に割り込んで来た。千鶴の視線が千里に向く。


「千里、ありがとう。また助けてもらっちゃったね」


 少し照れながら笑顔でお礼を言われた千里は相好を崩した。


「気にするな。それよりも、また何かあればすぐに俺を呼べ」


 千鶴の頭の上に掌を置き、千里は優しい眼差しで千鶴を見つめている。舞と対峙していた時には絶対に見せなかった顔だ。もちろん、舞が知る限り他の人の前でもこれほど優しい表情をしている事はなかった。本当に千鶴の事が好きなのだろう。

 ならば、それほど好きな子を窮地に追い込めるものだろうか?


(この男の本心が分からない……)


 千鶴に起きているトラブルの元凶が千里だとするのは舞の憶測にすぎない。証拠もないだけに千鶴にも話せない。それに言ったところできっと混乱させてしまうだけだろう。一層の事、千里を好きな笹山に頑張ってもらって、この男を千鶴から引き離してもらいたいとさえ思ってしまうほどだ。舞は考え込む。


(やっぱり千鶴には有馬君に告白させるしかないわね。後は、有馬君が何とかするでしょう)


 千鶴と真一の恋が成就するのを側で見守るつもりだったが、そんな悠長なことをやっている暇は無い。もう千鶴をけしかけて告白させるしかないと舞は意を決する。


(もし、千鶴と有馬君が付き合うことになったら、この男はどうするのかしら?)


 楽しそうに千鶴と話をしている千里の横顔を舞はじっと見つめる。

 同じクラスの千里に対して、真一は学校も違う。この差はかなり大きい気がしてならなかった。千鶴は初めから千里に心を許している。おそらく好きなのだろう。もちろん、真一に対して感じている好きとは違っているはずだが、千里が全力で千鶴を手に入れようとすれば、いくら付き合っていたとしてもどうなるかは舞にも分からない。

 なににせよ、千里の行動がまったく読めないのだ。


(不安でしかないわ……)


 決めるは千鶴だ。

 だが、舞は二人の男の狭間で苦しむ千鶴の姿は見たくなどないのだ。

読んでくださってありがとうございます。

楽しんでいただけましたか?

千里は当初、真一が陰なので、陽だと思っていたのですが、段々闇の部分を出してきて、書いている私も驚いています。

これからも読んでいただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いいたします。

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