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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
73/81

73.手招き。

 三嶋舞が親友の音無千鶴の教室へ行くと、彼女の姿が見当たらない。以前の千鶴の席には桐谷千里が座っていて、相変わらず男女数人に囲まれていた。


「音無さんは?」


 舞は入口の近くにいた人に声を掛ける。


「音無さん? 先生に頼まれて、みんなから集めたノートを運んでたよ。職員室へ行ったんじゃない?」

「そうなんだ……」


 舞はそのまま職員室へ向かうつもりだったが、ふと千里と目が合ってしまった。一瞬の逡巡の後、舞は千里に向かって手招きする。意外な事に、千里はすぐに席を立ち、舞の所へやって来た。二人は教室から少し離れた廊下の窓辺で向き合う。


「何?」


 千里が胡散臭い笑みを浮かべて首を傾げる。


「……何が書いてあったの?」

「何の事?」

「とぼけないで! ちづの机の上に何か書かれていたんでしょ?」


 睨みながら声が大きくならないように感情を抑えつつ問いただす。

 千里は僅かに目を細めた。唇か冷たく弧をえがく。

 

「へえ、驚いたな」


 そう言うと、千里は舞から視線を外した。近くの開いていた窓の桟に両腕を置き、目を遠くに向けながら低い声で呟く。


「うざい」

「……なるほど。で、『ざ』が誤魔化せなかったから絵にしたのね」

「そういう事」

「……その落書き、他に知っている人はいるの?」

「さあ、どうかな? 恐らく、書いた者以外は知らないんじゃないかな?」

「どうしてそう思うの?」

「書かれたのは、移動教室の時だ。みんながいなくなった時を見計らって書いたんだろうな」

「移動教室? 桐谷君は授業出なかったの?」

「俺が教室に戻った時にはもう誰も居なかったんだ。転校生には案内無く移動先へたどり着くことは無理だ」

「……」


 舞は心底感心する。


(なるほど。確かに強引ではあるが、授業をサボった理由にはなるかもしれない。それで、サボった授業の間に『うざい』を『う〇ち』へ変えていたわけだ)


「ありがとう」


 そうお礼を言えば、千里が振り返った。じっと舞の顔を見てくる。


「……何?」

「いや、別に」

「ふ~ん。じゃあ、私はちづを迎えに行ってくるわ。職員室へ行ってるんでしょ?」

「……君はいつも千鶴にべったりなんだな」

「そう? 親友だもの。普通でしょ」

「……」


 何も言ってこない千里に背を向け、舞は教室から出て行った。

お久しぶりですの方と初めましての方、こんにちは。

いかがだったでしょうか? 楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

まだまだ続きますので、これからも読んでいただけるとありがたいです!



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