表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
71/81

71.一人じゃない。

 ベッドの上で半身を起こしていた音無千鶴の姿を目にした三嶋舞は、心底ほっとした表情を浮かべて駆け寄ってきた。


「ちづ!」

「舞……」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫。また心配かけちゃったね。ごめんね」


 舞の整った顔が歪む。


「どこか大丈夫なの? それに、どうして、ちづが謝るの?! バカちづ! 心配ぐらいさせなさいよ!」 

「……舞」


 舞が覆いかぶさるように千鶴を抱きしめる。千鶴も親友の体を抱き返した。


(こんなに心配して怒ってくれる友達がここにも……。ずっとこれほど温かい優しさに包まれて生活していた事に、今更気付くなんて……。でも、気付けて良かった)


 体の奥から温かなものが湧き上がってくる。

 今は、何が起きているのか正直分からない。どうしていいのかも分からない。

 でも……。


(舞にはちゃんと言わなくちゃ!)


「ごめん、舞!」

「ほら、また!」

「あのね、聞いて! 舞は私の事を心配して教室まで来てくれてたでしょ? そのせいで、舞が千里の事を好きだって、まわりの人達に思われてしまっているみたいなの!」


 体を少し離し、舞の顔を真っすぐに見つめる。舞の綺麗に整えられた眉がピクリと動いた。


「ごめんね! 本当にごめん! 舞の優しさに甘えてたせいで、舞を巻き込んじゃった! ごめん!」


 両手を合わせ、必死で謝る。


「……ふ~ん。なるほどね」

「ふ~んって、落ち着いてる場合じゃないよ!」

「大丈夫。その噂は知ってるから」

「知ってたの?!」

「まあね」

「なんでそんなに落ち着いてるんのよ?!」

「だって、噂だもん。そんなの気にしてたらキリが無いじゃない」

「でも……」

「だからか、お昼はクラスの人と食べるなんて、嘘を言いに来たのね?」

「え?! あ、……う……! い、痛い! 痛たたたたたっ!」


 突然、舞に頭を握りこぶしでぐりぐりされた。


「嘘ついた罰よ!」

「ご、ごめん!」

「嘘は嫌いじゃなかったの?」

「う、うん、もちろん……」

「ちづのいいところを自分で壊すのはやめてよ。そのままのちづが私は好きなんだからね!」


 涙目の千鶴の目を覗き込むように、舞が見つめてくる。


『そう。ダメなところも、そうじゃないところもひっくるめてキノなんだから、別にそれでいいんじゃないかな? 気にするようなことでもないよ』

『……いいの?』

『うん』


 真一との会話が脳裏を過ぎる。

 ダメな部分も含めて側にいてくれる大切な人達。


(どうすれば、ダメダメな私でも大切な人達を守れるのかな?)


「でも、私のせいで、舞が少しでも嫌な思いをするなんて嫌だ……」

「その事はちづの気にすることじゃないわ。本当に暇な人が多いよね」

 

 舞は再び千鶴に抱き付いてきた。


「私の事を心配してくれたんだね。ありがとう」

「舞……」

「私はそういう噂は慣れっこなの。私が誰を好きかなんて、ほっていて欲しいわ。それよりも、ちづが弱ってるのが心配」

「私も、もう大丈夫。ちょっと、自分を見失っていたみたい。ありがとう、舞」

「ちづ……」

「わたし、教室に戻るよ」


 舞の瞳が不安そうに揺れる。まるで自分のことのように思っていてくれている証だ。


「そんな顔しないでよ。無理はしてないから」

「本当だね?」

「うん。最近寝不足だったんだ。ぐっすり眠ったからかな? なんだが心も体が軽くなったような気がする。それに、舞が元気を注入してくれたからね!」


 本当にそう思えたから、心からの笑顔を舞へ向ける。


「……何かあったら、絶対に私のところへ来てよ」

「うん! 絶対に行く!」

「待ったりはしないけど、いつでも受け入れはばっちりだからね!」

「うん! 舞、大好き!」


 力いっぱい抱き合ていると、先生が顔を覗かせた。


「先生も待ってないけど、いつでも受け入ればっちりだからね!」


 舞の言葉を真似る保健室の先生に、千鶴と舞は顔を見合わせると噴き出した。


「はい。その時は、よろしくお願いします」


 笑顔で答えると、千鶴は舞と共に、保健室を後にした。


「……来なかったわね」


 教室へ向かう途中で、舞がぽつりと呟いた。どこか納得がいかないような声だ。


「? 何が?」


 不思議に思って尋ねる。


「あれ? 声が漏れてた?」

「うん」

「ブツブツ言い出すとヤバいよね」

「? じゃあ、また後でね。舞」

「え? 教室まで送ってくから」

「いいよ」

「私の心の安定の為についていかせて!」

「……お、お願いします」


 教室まで送ると言い張る舞と共に、千鶴は教室の扉の前に立った。大きく息を吸う。


(大丈夫)


 大切な人達が『このままでいい』と言ってくれた。それはとても大きな支えになっている。

 それに今も親友の舞が隣にいてくれる。一人じゃないと気付けた今、あれほど震えていた心がとても穏やかだ。教室では千里が待っていてくれている。状況は変わっていないというのに、なぜか心は不思議な高揚感に包まれていた。

 千鶴は手を伸ばし、教室の扉を開けた。

読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。

辛い日々が続いている主人公に、頑張って乗り越えて! 一人じゃないからね! と応援しながら書いています。コロナで色々大変な時だから、人の優しさや、何気ない気遣いに癒されます。

早く穏やかな日常に戻りますように! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ