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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
63/81

63.同じでしょ?

思ってもいない状況に思い悩む千鶴。

 すでに思考回路は異常をきたしていた。

 千鶴は好きな人がいる事を自ら皆にばらしていることに気付いていなかった。先ほどまで大騒ぎしていた仲間達が一瞬で黙る。


「……好きな人って、この前倒れた千鶴を助けに現れたあの男子?」


 日ごろから突っ込み担当の東山(ひがしやま)梨花(りか)がこの場にいる者の心の内を代弁するように口を開いた。

 千鶴は素直に頷く。


「え? あれで片思いだったの?! もう言っちゃえばいいよ!」


 人の気持ちも知らないで、峰岸(みねぎし)小絵(さえ)が勝手なことを言う。


「無理……、絶対に無理! だって、最近になってやっと普通にしゃべれるようになったんだよ!」


 誰かを好きになると人は臆病になるとどこかで聞いたことがあったが、千鶴はまさにそうだった。

 突然、感情的になった千鶴に、仲間達が顔を見合わせている。


「今の状態がちづには居心地がいいんだ? 確かに、仲が良さそうだったものね」


 森本彩華が真一の現れた時の事を思い出しているのか、目を閉じてうんうんと頷く。すると、田崎茉奈(たさきまな)がぐいっと身を乗り出した。


「じゃあ、転校生には? 何て返事するの? 断っちゃうの?」

「ああ、それは一応解決してるから」


 は? と皆が一斉に振り返る。皆の視線を一身に浴びながらも、舞に動じる様子はない。


「ちづが転校生を振ったことになってるから」


『その話はどうでもいいのよ』とでも言うように、僅かに上げた右手をひらひらさせながら話を続ける舞の姿とは対照的に、『ええっ?!』と皆が驚きの声を上げた。


「ちょっと! なんでちづまで驚いてんのよ!」


 一緒に驚いていた千鶴に向かって、仲間達が速攻で突っ込んでくる。


「え? だ、だって……」


 再び動揺しまくる千鶴の肩に舞が手を置いた。まるで大丈夫だとでもいうように。


「なってるって、何? どういうこと? それに! 当の本人がこんな状態なのに、どうして舞に分かるのよ?!」


 梨花が舞を怪訝そうな表情で見る。


「どうしてって? それは、私がその場にいたから。それより! 私もだけど、ちづもまーちんも茉奈も早く着替えないと時間的に本気でヤバいよ!」

「あら、本当だ。私達も早く行ってコートの用意をしておかないと先輩に叱られちゃうね。行こう!」


 浅山(あさやま)(かおり)が冷静な声ですでに着替えを終えた者達を促し、体育館へ向かわせる。千鶴達も慌てて部室へ走り出す。前を行く川上(かわかみ)真理(まり)と茉奈の後ろ姿を横目に、隣を走っている舞へ顔を向けた。

 

「──千里が告白していたなんて……」

 

 分からなかったと言おうとした千鶴の言葉より早く舞が口を開いた。


「さあ、それはどうなんだろう?」

「え?」


 思っていなかった舞の返答に、千鶴は目を見張る。


「ねえ、もしだよ? あれが告白だったと気付いていたら、ちづはどう答えたの?」


 舞は千鶴の表情一つ見逃さないような真っすぐな視線で問いかけてきた。


「……」


 答えられなかった。そんな千鶴の姿から視線を外さずに、舞は静かに言った。


「結果は同じでしょ?」

「おな……じ?」

「そう。だって、ちづは有馬君が好きなんだから」


 なぜか心臓がズキッと痛んだ。

 千鶴は真一の事が好きだ。でも、千里のことだっで嫌いなわけじゃない。ずいぶんと離れていたが、千里に再び会えた時は胸が苦しくなる程嬉しかった。また昔のようにまた三人で笑い合えるのだと思っていた。


(なのに……。私達はどうなっていくのだろう? 子供の頃のような三人のまま変わらずにいたいと願ってはいけないのだろうか?)


 千鶴は途方にくれるのだった。

読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。次回は陵蘭組のお話です。また読んでいただければ嬉しいです。

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