54.真一が好き。
真一が好きだ、と自覚した千鶴。二人の関係はどうなっていく?!
千鶴はひどく動揺していた。
(何言った? 私、何を言った? 何を口走っちゃったの?!)
口から心臓が飛び出しそうなほど鼓動が激しく、真一の顔がまともに見ることができない。狭い廊下に二人だけ。それも、これほど接近していれば、真一にも千鶴の鼓動が聞こえているのかもしれなかった。
「うん」
真一の声に、咄嗟に顔を向けてしまった千鶴は目を大きく見開く。これまでに見たことがない笑顔がそこにあった。
言葉にするなら、まさに『輝くような笑顔』だった。
(ま、眩しい………)
目を逸らすことも出来ず、ただ茫然と真一の顔を見つめる。
「千鶴」
「はひっ!」
突然、名前を呼ばれ、思わず出た声は滑稽なほど裏返っていた。これほど恥ずかしいことは無い。
(ああっ、私の馬鹿! なんて変な声を出してんのよ!)
大混乱の千鶴は、壁に背中をくっつけたまま固まっていた。体中が熱く、変な汗まで出てくる。すっと真一が千鶴から離れた。
「?」
「先にリビングに戻ってるよ。問題集、忘れないで持って来てね」
「へ? あ、……うん」
真一はまるで何も無かったかのように千鶴に背を向け、階段を降り始めた。
(え……、それだけ?)
自分だけが酷く狼狽しているだけで、何だか悔しいような思いがする千鶴だった。
確かに、勘違いするなと言ったのは千鶴だし、真一の事が好きなのも本当の事だし、勢いで言ってしまったとはいえ、一世一代の告白だったのだ。
と言っても、自覚したのはたった今なのだが。
(私って、真一が本当に好きだったんだ)
自分でも驚いていた。
現実を受け止めることは、すごく恥ずかしい。
けれど、ずっともやもやしていたものが一気に晴れた気がした。最近眠れない日が続いていた。倒れたのも、きっと心身のバランスを崩していたからだ。
(真一の方こそ、私の事をどう思っているのよ………)
また新たな悩みが出来てしまった。
溜息と共に、均整の取れた背中を複雑な思いで見つめていると、突然真一がくるりと振り返った。
「あ、そうだ! どんな種類の好きなのか、分かったら教えてね。キノ♡」
上機嫌に片目をつぶってみせる姿に、千鶴の顔は再びぼっと赤く染まった。
「! キ、キノって、言うな!」
照れ隠しに叫んでしまう千鶴だった。
読んでいただけて、嬉しいです。ありがとうございます。「もう! 付き合っちゃえよ!」と心の中で言いながら書いております。なのに、この二人、絶妙のバランスで付き合ってくれない。蟻んこのような歩みの二人ですが、どうか温かい眼差しで見守っていただけたら幸いです。




