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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
54/81

54.真一が好き。

真一が好きだ、と自覚した千鶴。二人の関係はどうなっていく?!

千鶴はひどく動揺していた。


(何言った? 私、何を言った? 何を口走っちゃったの?!)


口から心臓が飛び出しそうなほど鼓動が激しく、真一の顔がまともに見ることができない。狭い廊下に二人だけ。それも、これほど接近していれば、真一にも千鶴の鼓動が聞こえているのかもしれなかった。


「うん」


 真一の声に、咄嗟に顔を向けてしまった千鶴は目を大きく見開く。これまでに見たことがない笑顔がそこにあった。

 言葉にするなら、まさに『輝くような笑顔』だった。


(ま、眩しい………)


 目を逸らすことも出来ず、ただ茫然と真一の顔を見つめる。


「千鶴」

「はひっ!」


 突然、名前を呼ばれ、思わず出た声は滑稽(こっけい)なほど裏返っていた。これほど恥ずかしいことは無い。


(ああっ、私の馬鹿! なんて変な声を出してんのよ!)


大混乱の千鶴は、壁に背中をくっつけたまま固まっていた。体中が熱く、変な汗まで出てくる。すっと真一が千鶴から離れた。


「?」

「先にリビングに戻ってるよ。問題集、忘れないで持って来てね」

「へ? あ、……うん」


 真一はまるで何も無かったかのように千鶴に背を向け、階段を降り始めた。


(え……、それだけ?)


 自分だけが酷く狼狽しているだけで、何だか悔しいような思いがする千鶴だった。

 確かに、勘違いするなと言ったのは千鶴だし、真一の事が好きなのも本当の事だし、勢いで言ってしまったとはいえ、一世一代の告白だったのだ。

 と言っても、自覚したのはたった今なのだが。


(私って、真一が本当に好きだったんだ)


 自分でも驚いていた。

 現実を受け止めることは、すごく恥ずかしい。

 けれど、ずっともやもやしていたものが一気に晴れた気がした。最近眠れない日が続いていた。倒れたのも、きっと心身のバランスを崩していたからだ。


(真一の方こそ、私の事をどう思っているのよ………)


 また新たな悩みが出来てしまった。

 溜息(ためいき)と共に、均整の取れた背中を複雑な思いで見つめていると、突然真一がくるりと振り返った。


「あ、そうだ! どんな種類の好きなのか、分かったら教えてね。キノ♡」


 上機嫌に片目をつぶってみせる姿に、千鶴の顔は再びぼっと赤く染まった。


「! キ、キノって、言うな!」


 照れ隠しに叫んでしまう千鶴だった。

読んでいただけて、嬉しいです。ありがとうございます。「もう! 付き合っちゃえよ!」と心の中で言いながら書いております。なのに、この二人、絶妙のバランスで付き合ってくれない。蟻んこのような歩みの二人ですが、どうか温かい眼差しで見守っていただけたら幸いです。

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