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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
53/81

53.いい加減にして。

二人の関係が変わっていく?!

(いた)ッ!」


 千鶴が声を上げ、額を両手で押えた。


「ちょっと! 何するのよ!」


 憤慨する千鶴から目を逸らし、真一は大きく息を吐き出した。

 そして、視線を床に落としたまま、溜息と共に言葉を(こぼ)す。


「………デコピンで良かったね」

「何がよ?! 良くないわよ!!」


 さらに千鶴の怒りに火を注いでしまったようだが、その事に気を回せない程、真一は動揺していた。強く握りしめていた右手をそのまま胸に押し当てる。心臓が飛び出してくるのではと思うほどドクドクと激しく脈打っていた。


(危なかった。本当に危なかった……。もう少しで、千鶴の唇に触れてしまうところだった。告白さえしていないというのに唇を奪うなんて、言語道断だ)


 さらに真一を困惑させていたのは、なぜあの状況で千鶴が目を閉じたのかだ。


(無防備にも、ほどがある。……それとも、おれは試されていたのか?)


「───悪い女だね。キノ」

「は?」

「本当に、やめて……」


 両手で顔を覆い懇願するように囁けば、突然胸にドンと強い衝撃を受けた。瞠目する真一の目に、両手で真一の胸を押している千鶴の姿が映る。俯いている千鶴の肩は震えていた。


「……………して」

「え? ……して? 何を……?」


 低く呟く千鶴の声がうまく聞き取れず、真一は聞き返す。自分勝手な淡い期待が脳裏をよぎる。千鶴が勢いよく顔を上げた。


「いい加減にして!って言ったのよっ!!」


 真一を睨む千鶴の目には涙が光っていた。動揺する真一を、再び千鶴が力いっぱい突き飛ばす。一歩後ろへよろめきながら真一はただ茫然と千鶴を見つめ続けるしかできなかった。


「もう分かんないっ!」


 吐き捨てるように言うその声は震えていた。


「すっごい意地悪なくせに、信じられないくらい優しくしてきたり、訳わかんない事ばっかり言ってくるよね! なのに! 私に何かあれば必ず側にいたり……、もうっ! 何なの? 真一の言動に振り回される私の身にもなってよ!」


 興奮しているのか、千鶴はなおも言い募る。


「気が付いたら真一のことばっかり考えてるだからね! 何でなのか、自分でも分かんないのよ! でも、気になって仕方が無いの! 真一がそばにいるだけで胸がドキドキして苦しいし、私がこれ以上変わっちゃったらどうするのよ! 頭も心の中も、もうぐちゃぐちゃなんだから! バカッ!」


 そう大声で叫び、千鶴はゼイゼイと肩で大きく息を吸う。感情的になっている千鶴は、自分が何を口走っているのか分かっていないのかもしれない。

 だが真一には、千鶴の唇から紡ぎ出される言葉すべてが告白としか聞こえなかった。

 

「……千鶴、落ち着いて」

「やだっ! 触んないでよ!」


 気が立っている千鶴は、両肩にそっと置いた真一の手を振り払うように身を(よじ)った。それでも真一は我慢強く、千鶴を落ち着かせようと試みる。

 

「千鶴。聞いて」

(うるさ)い!」

「千鶴………」


 千鶴は何も聞きたくないのだというように両手で耳を塞ぎ、頭を左右に振る。まるで無意識に自分の本当の気持ちから逃げようとしているように真一には思えた。


『私がこれ以上変わっちゃったらどうするのよ!』


 この言葉は千鶴の本音だ。

 おそらく、千鶴は怖れている。


 二人の関係が変わってしまうことを。


 だが、真一は変えたい。

 だからどうしても、千鶴には変化していく自分の心に向き合って欲しかった。真一はすでに千鶴の存在が愛おしくて仕方がない。

 今も出来る事なら強く抱きしめて、千鶴が好きなんだ、と大声で叫びたかった。


「……ねえ、千鶴。おれの事、どう思っているの?」


 期待と不安が入り混じる声で真一は尋ねる。

 すると、千鶴の肩がピクリと反応した。静寂が真一と千鶴を支配しているような不思議な空間の中、時だけが無常に流れていく。


「……嫌い?」


 沈黙に耐え切れず真一が苦笑いを浮かべながら呟く。


「……」


 俯いたまま千鶴は何も答えてはくれなかった。諦めと失望が真一を襲う。

 と、その時。


「嫌い…………………………………………………じゃない」

「千鶴……?」

「…………………す……………………………………………………………………き……………だ………と思う……」


 千鶴の声は小さく、後の方はほとんど囁きのようだったが、真一の神経はすべて聴覚へと注ぎ込まれ、一言一句しっかりと心に刻み込まれた。

 真一の目が徐々に大きく見開かれていく。


「……本当に?」

「でもっ! どういう好きかは良く分かんないんだからね! 勘違いしないでよね!」


 まるでやけになったように千鶴は腕を組んでそっぽを向く。その頬は明らかに赤く染まっていた。

 読んでくださり、ありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか? まるで亀の歩みのような二人の関係ですが、前へは進んでいますので、温かい目で見守ってやってくださいね。

 

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