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君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
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50.天国と地獄。

突然現れた真一と千鶴の幼馴染の男、桐谷千里。警戒する真一を心配する要。千里の目的とは?

 佐倉(さくら)(かなめ)は、困惑していた。

 行き慣れたファミレスにいるというのに、ずっと緊張している。原因は、隣に座っている親友(勝手に思っている)の有馬真一が出す不穏なオーラのせいだった。

 たった一日の内に、天国から地獄へ突き落されたような真一の様子が心配でしかたがなかった。

 すべては、真一の幼馴染だという男、桐谷(きりたに)千里(せんり)の出現だ。

 茫然としている真一の手と千里の手を掴むと、千鶴が急に駈け出したので、要も思わず付いて来てしまった。

 桐谷千里という男は、どうにも掴めない男だった。アメリカにいたと言っていたから、そのせいなのかもしれない。

 真一とはまったく違うタイプの整った顔をしていて、伸びた髪を無造作に後ろに一つに束ねている姿は要の目から見てもかっこよく見える。さらに背も高い。きっと真一や要より高いはずだ。

 そして、いつのまにかこの男のペースに巻きこまれている。

 なんとも不思議な男だった。幼馴染というだけあって、千鶴とは仲が良さそうに見える。

 だが、同じ幼馴染なはずなのに、真一はなぜかこの男を警戒しているようだった。


(きっと、千鶴ちゃんが関係しているんだろうな)


 真一の様子を心配しながら、要は彼と千鶴と千里のやり取りを慎重に見守っていた。

 だが、心配が的中してしまう。


『冷たい奴だな。あっ、そうそう、明日から同じ学校だから、よろしくな。ちい』


 警戒をしている真一を地獄へ突き落す衝撃的な言葉を千里が口にしたのだ。


(だ、大丈夫か? 有馬………)


 要の脳裏を、今朝の有馬の様子が過ぎった。

 珍しく、真一は朝から機嫌が良かった。


『おっはよう! あーりま!』


 登校して教室に入ると、すでに席についていた有馬はいつものように窓の外へ視線を向けていた。声を掛ければ、有馬がゆっくりと振り向く。


『おはよう。佐倉』

『あれ? 朝から何かいいことでもあった?』


 表情に出ていたわけではなかったが、いつもそばにいる(勝手にまとわりついている)要にはすぐに真一の様子がいつもと違うことに気づいた。


『! ………はは、分かるんだ?』

 

 小さく笑い声を立てると、有馬が要を真っすぐに見上げてきた。その有馬の顔を見た途端、要は目を見開いたまま固まってしまった。有馬がとても幸せそうに微笑んでいたのだ。この時、同じく珍しい有馬の笑みを目撃してしまったクラスメイトもいたのだろう。俄かに教室がざわつき始める。


『佐倉?』

『………なんだか、とても幸せそうだね』

『うん。そうなんだ』


 少し照れながら頬杖をつき、恍惚としながらどこか遠くを見つめる有馬の姿は、罪なほど可愛いかった。普通なら180㎝近い体格の高校生男子に対して、それも同じ男に対して『可愛い』と思わないのだろう。

 だが、いつものクールな印象だったせいか、そのギャップにやられたのかもしれない。事実、有馬のその姿に要は心の中で悶絶していた。


(おいおい、何て表情してんだよ! 俺をどうしたんだ? 有馬!)


 無性に叫び出したくなる衝動を抑える要をよそに、有馬はさらに言葉を重ねる。


『今朝、千鶴が俺を待ってくれていたんだ』

『え? 千鶴ちゃん? もう大丈夫なんだ?』

『ああ。元気になってた。要があの時はそばにいてくれて助かったよ。ありがとう』

 

 感謝の言葉を言いながら、さらに笑みを深くする真一の顔を見て、要は天にも昇りそうな心地になっていた。

 だが、すぐに罪悪感に囚われる。


(俺は千鶴ちゃんとの仲を反対しているんだよ。有馬………)


 要の思惑も知らず、真一はとても楽しそうに話し続ける。


『千鶴と登校するなんて、何年ぶりだったかな? 大好きな子と一緒に学校へ行くって、驚くほど幸せな気持ちになるんだな』


 しみじみと真一は噛み締めるように語る。


(有馬、気付いてる? 千鶴ちゃんのこと、大好きな子って、言っちゃってるよ!)


 要は思わず心の中で突っ込んでいた。

 一方の真一は、夢見心地のまま呟く。


『今日は部活には行かないらしいから、迎えに行こうかな? きっと驚くだろうね。千鶴は驚くと目が真ん丸になるんだ』


 もう学校が終わった後の事を考えている真一に、要は思わず声をあげる。


『お、俺も! 一緒に行っていいかな?』 

『………?』


 意味が分からないと言いたいのだろう。わずかに首を傾げ、真一が要を見る。


『あ、いや、ほら、陵蘭の制服で東校の門の前に立ていたら絶対目立つって! 知らない東校の生徒がわらわら寄って来たら嫌だろ?』

『………まあ、そうだな』


 少し考える素振りを見せたが、真一はすぐに納得したらしい。


『もちろん、有馬が千鶴ちゃんに会えたら俺はすぐに帰るし』


 そう言うと、真一はじっと要を見つめてきた。


『佐倉は、本当にいい奴だな』


 そう言って、見惚れるような笑顔を見せていたのだ。


読んでくださり、ありがとうございます。今回は要目線でのお話です。楽しんでいただけたら嬉しいです。

では、まだ続きますので、よろしくお願いします。

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