47.異変。
再びいつもの日常が戻ってきたと感じていた千鶴だったが………。
「うそっ! 今朝、有馬君と登校してきたの?」
「うん。途中までだけどね」
「へ~、有馬君、喜んでたんじゃない?」
「うん。元気になったって言ったら、すごく嬉しそうにしてた。………やっぱり、かなり心配させちゃったみたい」
「うん。うん。そ~だよね~」
昼休み。
千鶴の話を聞きながら、舞がにやにやしている。
「………ねぇ、何でそんな変な笑い方してんの?」
「え~? 普通、普通。それより、今日って、ちづは部活休むんだよね?」
「うん。先生が無理するなって。今日はとりあえず先生に挨拶してから帰る。また明日から頑張るよ」
「無理はしないでよ?」
「あはは、………ごめんね。舞にもいっぱい迷惑かけちゃったもんね」
「迷惑じゃないけど、心配した」
「! 舞~、ありがとう! 大好き!」
「私も~」
学校の廊下でガバっと、抱き合う二人を、近くを通りかかった男子がぎょっとした表情で見た。
いつもと変わらない日常。そう、いつもと変わらない………。
異変は、放課後だった。
「ちづるちゃん、今日は部活休むんだったね。バイバ~イ!」
「今度、あのカッコイイ幼馴染の人紹介してよ!」
「私も! 私も!」
「じゃあ、ちづ明日ね! 気を付けて帰りなよ!」
「うん! みんな、部活頑張ってね!」
大きく手を振りながら部室へ向かう舞達と別れ、一人門へ向かおうとした千鶴は、門の辺りに人が集まっていることに気付いた。特に帰宅途中の女子達がみんな足を止め、ざわざわしている。男子達は気にしながら通り過ぎていく。
「え? 何?」
一瞬足を止めた千鶴だったが、再び門へ向かってゆっくりと歩き出した。
「なんか、かっこよくない?」
「誰を待ってんのかな?」
「友達?」
「彼女だったりして~」
「ヤダ~」
集まっている女子達の話からして、どうやら門のところで誰かが東校の生徒を待っているらしい。
(な~んだ。良かった。事件とかだったらどうしようかと思った)
一人で帰宅することはあまりに珍しいことだったので、少し気弱になっていたようだ。千鶴は危険が無いと分かりほっとする。
「ねぇ、誰を待ってるの?」
「私ら三年だけど、何年何組の誰か教えてくれたら呼んできてあげるよ?」
人が集まっている横を千鶴が通りかかった時、話し声が聞こえてきた。千鶴の視線は、自然とそちらへ向けられる。綺麗にお化粧をしている上級生が二人、正門の外で塀にもたれて立っている若い男に話しかけていた。
男は人目を引く姿をしていた。着ている黒いTシャツには白い字で「男気」と書かれていて、かなりのダメージジーンズを穿いている。髪を後ろで一つに束ね、長い前髪が一房顔にかかっている。粋がっているのか、それとも顔を隠くすつもりなのか、サングラスを掛けている。それも顔は意外と輪郭がキレイで、鼻も高いからか似合っていた。背丈は高く、真一ぐらいか、おそらくそれより少し高いかもしれなかった。やけに堂々としている男だった。騒いでいる女子達の気持ちが分からなくもないな、と思いながら千鶴はそっと彼らの横を通る。
「!」
視線を前へ向けようとした瞬間、なぜかその男と目が合ったような気がして、千鶴はドキッとした。慌てて目を逸らし、速足で通り過ぎる。サングラス越しなので、きっと思い過ごしだと思いながらも胸の動悸が治まらない。
「Oh! Hay!」
背後から、若い男の大きな声が聞こえてきた。
千鶴は一瞬ビクッと体を震わせ、振り向くことなくさらに足を速める。
「あっ! おいっ! 無視するな! サルッ!」
「!」
千鶴はすごい勢いで振り返っていた。先ほどの男が、取り囲んでいた女子達を掻き分け、こちらへ向かって来る。
千鶴の目が徐々に大きく見開かれていく。
「………ま、まさか──────」
あっという間に目の前に立ちふさがった男を、食い入るように見つめる。
男はまるで焦らすようにゆっくりとした仕草でサングラスを外した。見覚えのある勝気そうな目が千鶴を見下ろしてくる。呆然とする千鶴の姿を見て、男が満足そうに微笑んだ。
読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか? 千鶴の近くに、またあらたな男の出現です。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




