表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
30/81

30.ダメダメな二人。

二人だけで出かけることになった真一と千鶴。

二人の関係は変わるのか? 

 日曜日の朝十時。

 約束どおりの時間に、有馬(ありま)真一(しんいち)はお隣に住む幼馴染を迎えに来ていた。彼は長袖の白のカットソーにジーンズ姿のラフな格好だ。

 呼び鈴に答えて玄関先に現れた(おと)無千鶴(なしちづる)の顔を見た途端、彼は長い指先で彼女の鼻先を軽く(はじ)いた。


「あたっ! ちょっと、何するの!」


 突然の暴挙(ぼうきょ)に、両手で鼻を押えながら千鶴が抗議(こうぎ)する。


「鼻先が少し()りむいてる。何にぶつけたの?」

「…………………………壁」


 わずかな逡巡(しゅんじゅん)の後、千鶴は不貞腐(ふてくさ)れたように答えた。


「ちゃんと、前を見て歩いてね。俺が心配だから」

「………」


(やっぱり、真一がおかしい!)


 千鶴は鼻先を気にしながらも視線を真一へ向ければ、彼もこちらを見ていた。


「何?」

「べ、別に……」


 千鶴はふいっと真一から視線を逸らす。ここ数日、明らかに真一は千鶴をからかうことがなくなっている。もちろん、からかわれたいわけではない。

 でも、調子が狂って、正直困っている。


「じゃあ、行こうか」


 そう言うと、真一は右手を出してきた。千鶴は不思議そうにその手を見つめる。


「………何? この手は………?」

「何って、手を繋ごうと思って出しているんだけど?」

「は? 何、言ってんの?! もう子供じゃないんだから、手なんか繋がないよ!」

「そうかな? 子供でなくても手を繋いでいる男女は多いと思うけど?」

「それはお付き合いしている男女の話でしょっ!」

「………じゃあ、キノも付き合う人とは手を繋ぐんだ」

「そ、そりゃ、私だって………その………付き合った人とは………そりゃ……ごにょごにょ……」


 律儀(りちぎ)に答えようとした千鶴だったが、途中からはもぞもぞとした口調になってしまう。

 真一と違って千鶴は一度も異性と付き合った経験がない。経験が無いからこそ、付き合った人とは学校から一緒に帰りたい! とか、手を繋ぎたい! とか、それなりにいろいろ恋愛に淡い夢を抱いている。だからと言って、そんな事を自分家()の玄関先で、それも真一相手に語るというのもどうなのかと、そんなことを悶々(もんもん)と考えていた千鶴は、はっと気付く。真一がくるりと背を向けて、すたすたと勝手に歩き出していた。


「ち、ちょっと! 置いていかないでよ!」


 千鶴は慌てて真一の後を追いかける。すぐに追いつき横に並べば、真一の切れ長の目がちらりと千鶴へ視線を向けてきた。


「………キノが迷子になりかけたら、その時は強制的に手を繋ぐから」

「へ?! 何の心配してんのよ! 迷子になんかなりませんよーだ!」


 舌を出して否定をすれば、真一がくすくすと笑いだした。


「何がおかしいの?」

「いや、ちょっといろいろ思い出していたから───」

「何を?」


 怪訝(けげん)そうな顔つきで千鶴が()けば、真一は笑みを浮かべたまま(みぞ)を指さす。


「例えば、キノがはまった溝って、ここだったよね?」

「うっ……… やだっ! 何変なことを思い出してんのよ!」


 千鶴は焦った。真一が何を言い出すかと思えば、千鶴の出来る事なら消し去ってしまいたい過去の悲劇だった。


「あっ、あの家が昔飼っていた犬は『パンツ(けん)』って呼ばれてて、キノもパンツを引っ張られて泣かされたことがあったね」

「ちょっと! 止めてよ!」

「ほら、あの木って、確か……」

「もおうううううううっ、止めて!」


 目を輝かせてまだ言い続けようとした真一の口を、顔を引き攣らせた千鶴が慌てて両手で押え付けた。肩で息をしながら睨む千鶴を、真一はもの言いたげな目で見下ろしてくる。


「ぎゃっ!」


 突然、千鶴は火にでも触れたかのように、真一の口から手を離した。


「信じられない! 今、()めたでしょっ?!」


 顔を真っ赤にして怒る千鶴を見下ろし、真一は平然としている。


「正当防衛だよ。口を塞がれたら、苦しいじゃないか」


 さらに、歩きながら何食わぬ顔でしれっと言い返してくる。


「何が正当防衛よ! 真一が人の恥ずかしい過去を言うからでしょっ!」

「別にいいじゃないか。他に誰もいないし、二人の楽しい思い出……」

「楽しい思い出じゃなーいっ!」


 千鶴は力いっぱい叫んでいた。すでにいつもの二人に戻っている。

 でも、どうやら千鶴はそのことに気付いていなかった。二人の間にあったぎこちない雰囲気がもうなくなっていることに。

 だが、きっとこの場に千鶴の親友である三嶋(みしま)(まい)がいれば、


『ダメダメだわ。この二人………』


 と、本人達より二人の気持ちに気付いている彼女は(あき)れて溜息(ためいき)()らしていたに違いなかった。


読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。30話にして、やっと二人でお出かけです。真一がどう思っているのかは謎ですが、千鶴はあまり深くは考えていないです。「わ~い。噂のパンケーキが食べられる!」ぐらいです(笑) では、また読んでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ