表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のことが好きなんだ。  作者: 待宵月
21/81

21.覚えてない?

要が真一にまとわりつく理由とは?

 朝十時。

 空は雲一つない快晴。

 この空のように晴れやかな表情の男が、有馬真一の家のリビングで歓喜に震えていた。


「有馬! これも美味しいよ!」

「そうか、良かったな」


 昨夜から真一の家に泊っている佐倉要が喜びの声を上げる。彼が嬉しそうに食べているのは、真一が作くったナポリタンだ。真一は昨夜見た夢の影響から、千鶴と一緒に作った思い入れのあるスパゲティを朝から作っていた。


「ごちそうさま」


 綺麗に完食した要が満足そうな笑みを浮かべながら手を合わせている。


「お粗末さま」

 

 キッチンで片づけをしながら真一は応じる。要はすぐに立ち上がり、フライパンを洗っていた真一のところへ食べ終えた食器を運んで来た。

 

「佐倉、おれは少し家を空ける。おまえはその間どうする?」


 食器を受け取りながら、真一は要に尋ねる。


「え?! 有馬、どこかへ出かけるのか?」

「駅前。すぐに戻って来る」

「買い物? 俺もついて行ったらダメかな?」

「自転車を取りに行くだけだ」

「あっ!………もしかして、昨日自転車で駆けつけてくれたとか?」

「まあな」

「! 有馬~」

「あっ! やめろっ、馬鹿! ふざけるな!」


 突然腰にタックルをかけて来た要に、泡まみれの食器を手にしていた真一は珍しく焦った声を出す。

 だが、すぐに態勢を立て直した真一にキッチンから蹴り出された要はすごすごとリビングへ戻って行く。


「………佐倉、夕飯のリクエストはあるか? ついでに材料を買ってくる」


 寂し気な雰囲気を漂わせる要の姿を見て、反省していればいいんだがなと思いながら、その背に向かって声を掛ける。すると、驚くような勢いで要が振り返った。


「有馬! 自転車は今日じゃないとダメなのか? ………食べたいものって言われても、今食べたばっかりじゃ何も思い浮かばないんだよ。俺も一緒に買い物に行って考えるっていうのはどう?」


 さも名案とばかりに言い募ってくる要に、真一は少し考えるそぶりを見せる。


「………おまえもついてくるんだったら、ついでに昼は駅前で済ませるか」

「え? いいのか? 一緒に行っても?!」


 (うなず)く真一に、要は嬉し気な声をあげた。


「ヒャッホー!」


 子供のようにはしゃぐ要の姿を見て、真一は半ば諦めたように溜息をつく。自分の提案が通ったことがよほど嬉しかったらしく、要の明るさは全開だ。 

 さらに、真一の気が変わることを怖れてなのか、洗い物を終えたばかりの真一を急かして出かける用意までさせようとする。

 もちろん、ちゃっかりと服を借りることも忘れてはいなかった。

 そして、真一が戸締りを終え、徒歩で二十分ほどかかる駅前に向かって歩き出すと、要はさり気なく真一の真横に並ぶ。二人はしばらくの間、取り留めのない会話をしながら歩いた。ほぼ一方的に要がしゃべっていると言っても過言ではない。

 そして、会話が途切れると、最近流行っているメロディを口ずさむ。要は終始ご機嫌だ。

 ふと、真一はずっと疑問に思っていたことを口にする。


「………いつもおれに付きまとう理由は何なんだ?」

「え?! ………つきまとう? 俺、そんなふうに思われてたの? マジで⁈」


 要は心底驚いたように真一を見る。素直にこくり頷けば、要は大袈裟にがっくりと肩を落とした。


「─────────俺は、有馬と友達になれたんだと思っていたんだけどな………」

「友達?」

「そう。俺、有馬と友達になりたくて、この学校を受験したんだ」

「……」


 真一は思わず立ち止まる。まったく意味が分からなかったからだ。要も立ち止まった。


「………俺、以前有馬に助けられたことがあるんだけど、覚えてないのかなあ?」


 どこか不安そうに要は尋ねてくる。真一は顎に手を置き、思い出そうと試みた。

 だが、記憶の中にこのチャラい男の記憶はなく、すぐに首を横に振った。


「え?! マジかっ!」


 要は大げさに空を仰ぎ、両手で自分の頭を鷲掴(わしづか)みにした。


「それは、いつのことだ?」

「………………中学一年の夏」


 真一は再び歩き出した。要もすぐに付いて来る。


(中一の夏?)


 思わず真一は苦笑を()らす。


(覚えていないはずだ)


 それは、真一が心を閉ざし、もっとも(すさ)んでいた頃だった。


読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。また次回も読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ