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5話 エルディス・ネロー

2人で690匹。完全にやってしまった。異世界沈んだ気持ちで協会に入る。


「おう。お帰り!報告終ったらこっちで一杯どうだ?」

「子供に酒はだめだろ。」

「そう落ち込むな。帰りにいい宿教えてやる。」


 意気消沈して帰って来た2人に、昼間見送ってくれたベテラン冒険者が口々に声を掛ける。

しかし、やってしまったという気分が抜けないまま、私とダンテは重い足取りで、受付に向かう。


「帰還報告ですねぇ~。ライセンスを出してもらえますかぁ?心配しなくても大丈夫ですよぉ~。」

「・・はい・・・。」


 ライセンスをポワワに渡すとそのまま板のようなものに載せる。


「おー。討伐できたんですねぇ~。おめでとうございますぅ~。」

「あ・・ありがとうございます・・・・。」


 あれ?おかしい。あの数を見ているはずのポワワの反応は変わらない。


「すぐに報酬を受け取りますよねぇ~?2階奥の4番の部屋にいってくださぁ~い。納品依頼分の素材も、担当の職員がそこで査定してくれると思うので~。」


 強引に話を進められ、言われるがまま2階に進む。上がってすぐが資料室、その奥に1番から順に部屋が並ぶ。一番奥の4番の部屋に2人で入る。

 部屋は手前に椅子とテーブルに飾りに観葉植物があり、待合室や商談室としても使えるようなつくりになっていた。奥にはカウンターがあり、カウンターの奥には扉がある。


 誰も居ない。思わず、ダンテと顔を見合わせていると奥の扉から老人が出てくる。

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 エルディス・ネロー Lv93 

  エイビス冒険者協会支部長

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 表示された役職に思わず畏まってしまう。


「そう身構えなさんな。ただのじじいじゃ。支部長なんて肩書きが付いておるがの。」


 軽い身のこなしでカウンターを跳び越しこちらに歩いてくる。絶対にただのじじいではない。


「まぁ、なんとなくはわかっとるようだろうしの、座りなさい。」

「「は・・はぃ・・(失礼します・・・)」」


 言われるがままに座る。


「まず、先に言っておくと2人の素性については何も尋ねんよ。それがこの協会のルールじゃ。隠したい事情があるんじゃろ?犯罪に手えだしとったら登録のときにわかるしのぉ。ふぉっふぉ。受付としてベテランで普段は顔に出さないホワワも驚きで誤魔化すので精一杯だったみたいじゃしのぉ。ワシ以外は分かったやつはおらんじゃろ。安心せぃ。」


 エルディスの目つきが急に鋭くなる。全てを見透かされるようなそんな錯覚に陥る。


「ふむ・・違和感があるのは、その木の棒とウェストポーチぐらいかのぉ。はっきりと分からんのがまた興味深いのぉ。なに、これ以上は詮索せんよ。」


 エルディスは的確に他の冒険者と私たちの違いを見抜いていた。木の棒は成長装備するプレイヤーの限定装備で他人には触ることすらできない自分専用装備。明らかに周りとも違う攻撃力もほとんどの原因はこの木の棒だと思う。詳細な詳細は見ることはできないので確証はない。簡易説明文では、『ただの木の棒ではないきがする。貴方次第でその姿を変えるだろう。』といい加減な文章しかない。ウェストポーチもインベントリと繋がっているため、この世界ではありえない量を入れることができる。


「基本、報酬を渡すのはこの部屋じゃ。4つある部屋全部に音も漏れない魔法が掛かっておる。他人には隠したい情報もあるからの。そして、受付の職員も査定する職員も一切冒険者の情報を漏らすことはない。いや、できない契約を結んでおる。ここの支部だけでなく協会全てでな。だから、安心して依頼をこなしてくれ。ワシが言いたいのはそれだけじゃ。お前たちに期待しとるぞ。」

「「ありがとうございます。」」


こちらの気にしていることをこちらが動揺している間に全て伝えてくれた。絶対にただのじじいではない。


「さて、本当の買取担当に変わるかの。」


 単純に信用しすぎるのはあまりよくないかもしれないが、好きなだけ狩りができ狩った分の収入が得られるのは嬉しい。狩るときは、人目は気にする必要があるかもしれないが。

 エルディスさんと入れ替わりにメガネの男性が入ってくる。


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 レラン Lv61 

  冒険者協会職員

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 エルディスさんはああ言っていたし、手持ちも少ないので、今日ドロップしたものは全部カウンターに出すことにする。


「素材は別々に計算しますか?それとも合計して半額ずつのお渡しがよろしいですか?」

「合計して半分でおねがいします。」


事前に話し合ってあったので、ダンテにも異論はない。レランさんは黙々と査定作業を進め、渡した素材を全て1つの木箱に詰めて奥の扉に入っていく。かなりの量あったはずなのに、1つの箱に収まってしまった特殊な木箱のようだ。

 少ししてお金の入った2つの袋を持って帰ってきた。


「討伐報酬が3万4千500エデン、納品報酬がゼリーの欠片341個、兎の毛皮212枚、うさしっぽ36個で13万3千700エデン、合計16万8千200エデンでお1人当たり8万4千100エデンです。こちらになります。」

 

 袋受け取る。ずっしりと重い。すぐにポーチにしまい、部屋を後にする。


「なんとかなったね。」

「だな。」

「宿代も当分心配ないね。」

「明日も狩りするけどな。」

「狩り好きだねぇ。」

「そのまま返すわ。」


 下に降りて行くと昼間は静かに見守るだけだった人たちが優しく話しかけてくる。なにか勘違いされているような気もするが、酒場でジュースを奢られ、昔の苦労話や武勇伝を聞かされる。めぼしい情報はなかったが、無駄知識は増えたきがする。冒険者酒場につけで飲みすぎると強制依頼をされて無理やり稼がされるとか、ギルドの向かいのパン屋のおばちゃんは絶対に怒らせちゃだめだとか。ワイワイと時間を過ごすのも楽しい。

もうすぐ7時。そろそろ宿探しをしないと、泊まる場所がなくなってしまうと思い、帰ろうとすると、さっきまで話の輪にいた大剣を背負った冒険者に止められる。


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 ディラン Lv53 

  冒険者

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「嬢ちゃん。今日の宿代がねーんだろ?いい宿教えてやるよ。ライセンス見せれば、初日はなんと無料!2日目以降も夕食と朝食が付いて4500エデンだ。飯もうまいぜ。ただな、俺たちからあの宿はすりゃちぃとばかし・・・。」


別の冒険者が同意する。


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 ハバム Lv57 

  冒険者

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「あぁ、宿の中で酒は飲ません!飲んだら帰ってくるな!だからなあの宿は。酒飲みにゃつらい!くぅ~。今は酒がやめられねぇぜ。昔は世話になったけどな。」


 そう言って目の前のジョッキを煽る。

 早速その宿を教えてもらう。ここからかなり近い。裏通りをさらに曲がったところにあるようだ。


 

 紹介された宿の場所は、もうすぐだ。見えてきたのは石造りの2階建ての建物。『風の麦亭』ここで間違いないだろう。想像していたよりもかなり大きい。入り口のドアを開け中に入る。


「ごめんください。」

「いらっしゃいませ。ようこそ、風の麦亭へ。宿泊ですか?お食事ですか?」


 カウンターには40台後半ぐらいの女性が居た。


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 リンダ Lv72 

 風の麦亭の女将

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 Lvも高い。元冒険者とかなのだろうか。情報源が見えないはずのプレートなので、聞くことはできないが。冒険者協会のライセンスを出して、紹介できたと告げる。


「あら、そうなのぉ。新人さん?妹のがしっかりしているのね。女将のリンダよ。よろしくね。」


 突然かしこまった口調から、親しみやすい口調に変わる。兄弟という設定になったらしい。一応否定する。


「兄弟ではありませんが、協会には今日登録しました。リコです。こっちはダンテ。」

「事情があるみたいだけど、冒険者になったなら気にしなくていいのよ。お兄ちゃんと2人で1部屋でいいわよね?ベッドはちゃんと2つあるから。」

「はい。お願いします。」

「冒険者さんは1泊と夕食と朝食で4500エデンなんだけど、この町の冒険者の新人さんから初めての宿泊でお金とる気はないわ。気に入ったら明日も泊まって頂戴。」


 お金は大丈夫なのでと払おうとするが、甘えておきなさいと受け取ってもらえない。今日は、甘えさせて

もらうことにする。


「鍵はコレね。2階の突き当たりの部屋よ。」


 説明を聞きながら部屋に案内される。

 宿の1階にはシャワールームもあるそうだ。男女分かれていて2部屋ずつ1泊で1回使っていいらしい。追加で使うためには別で200エデン払う必要がある。お風呂には浸かれないが、汗を流せるのは嬉しい。

 朝ごはんは6時から10時、夕食は17時から21時お酒は厳禁。連泊の場合は前金で払う必要があることなどを伝えられる。

 

 部屋に着く。部屋の間取りはビジネスホテルのツインルームに近い。ただし、トイレ・お風呂・洗面台など水周りは1階にしかなく、もちろん共用だ。


 今は20時。夕食の終了も近いので、すぐに1階の食堂と向かう。食堂にいるのは宿泊している人だけではないので、かなり広く、多くの人で賑わっていた。テーブルはほとんど満席だ。


「空いてる席にどうぞ~。水は入り口の右です~。」


 奥に居た中学生ぐらいの少女がこちらに気がつき水は自分で持ってくるセルフサービスのようだ。メニューは日替わり定食しかなく、注文しなくても運ばれてくる。


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 マリル Lv1 

  風の麦亭の看板娘

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「は~ぃ。おまち2人分。熱いから気をつけてね。今日はじめて来た冒険者さんでしょう?」

「はい。」

「名前は聞いてるわ。マリルよ。よろしくね。」


 今日は白身魚のチーズ煮と温野菜にパンと果実系の飲み物のようだ。どれも美味しい。現代の食生活に慣れた私でも満足して食べられる食事だ。

 部屋に戻り、交代でシャワーも済ませた。シャワーを浴びて同じ服を着るというのは抵抗感があったが、これしか服がないので仕方ない。明日、何か買いに行こう。


「ぁ、寝る前にこれやるわ。今日拾ってた。俺は着る気がおきないしな。」


そう言って白い布の塊を手渡される。


「ぇっ?」


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 ウサ耳フード付きケープ☆☆

簡易説明文

 今日から貴方も猫ウサゼリー

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「いつの間にこんなの買ったの?」

「さっき猫ウサゼリーから出た。」

「クローズβテストでこんなのドロップ報告あったっけ?」

「なかったな。」

「いいの?もらって?」

「俺は着ないし、売るより使った方かいいだろ?」

「ありがとう。」


素直にもらっておく。というより、一目で気に入ってしまった。ダンテ向きの装備が出たら換わりにあげよう。早速装備してみる。性能は、外套装備でMP回復弱 防御+5 敏捷+2で重量は1。着心地も肌触りがふわふわで気持ちいいのに、暑くなく快適だ。



 こうして、私はかわいいフードを手に入れたのだった。

 じゃなかった。

 こうして、私たちの異界生活1日目は幕を閉じた。

木、金はお休み。次は土曜日予定です。

5/20 2回紹介していたのをくどいので修正。5/21

5/21 金額、ドロップの数に誤りがあったため修正。

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