4話 猫ウサゼリーの悪夢再び
元気に冒険者協会を飛び出した2人だったが、今冒険者協会に居る。ちょっと恥ずかしい。協会は、暇な時間らしく、私たちに気が付いたポワワがカウンターから走ってくる。
「お帰りなさぁい!はやかったですねぇ~。猫ウサゼリー分からなかったですかぁ?2階の一番手前に資
料室がありますよぉ~。」
「あの・・・」
「どんな情報がのってるかですかぁ?生息地の他に攻撃パターンや特徴なんかものってますよぉ~。」
「あの・・・」
「ぁっ、お金ですかぁ?閲覧は無料ですぅ~。貸し出しはしてません~。壊したら弁償なので大切に扱ってくださいねぇ。」
ゆっくりとした話し方なのに、間に言葉を挟ませてくれる隙が全くない。2階に資料室があったとは。いい情報を聞いた。モンスターの情報に変更がないか確認しておきたかったので今度行くことにしよう。でも今回の用件は違う。
「せっかく教えていただいたんですけど、今回の用件は違うんです。ごめんなさい。ポーションを売っているお店を紹介してください。」
「あぁ、そうでしたかぁ。普通のポーションなら協会でも委託販売してますよぉ~。あっちのカウンターですねぇ~。」
なんと協会でも売っているらしい。ゲームでは売ってなかったのに。ダンテのポーションは0個、私は5個。エイビス西平原ぐらいでは使わないとは思うが、念のため確保はしておきたい。
ポワワさんに紹介された階段手前のカウンターに向かう。
「こんにちわ。低級が欲しいのですが、いくらでしょうか?」
「・・・低級HPポーション・・・1個・・200エデン・・・低級MPポーション・・1個・・500エデン・・」
フードを深く被っていて容姿は見えない。声からすると若い男の人っぽい。
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ラデル Lv21
見習い錬金術師
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HPで200エデンかぁ・・βの時のプレイヤーメイドの2倍近い。MPは2.5倍になっている。それでも標準的なNPCの販売価格より安い。やっぱり、職人さんは神様だったと改めて思う。プレイヤーメイドは原価に近いもんねぇ。などと昔を思い出しつつも、ダンテはHPを2個、私はMPを1個買う。
これで準備完了。何度もお世話になったポワワにお礼を言い、協会の酒場で飲んでいるベテラン冒険者さんたちに激励されながら今度こそ本当に冒険者ギルドを後にする。
ライセンスを西門の前にいる騎士さんに見せて西門通過する。
街の支部に所属している冒険者は通行料がいらないらしい。旅人は1人1000エデンで、商人は荷物にも掛かるらしい。今無一文だから、無料でよかった。
西門をでるとすぐにエイビス西平原に着く。門の付近にモンスターの陰はないが、少し離れた位置では他の冒険者パーティーが3人で猫ウサゼリーと戦っている。
「いまだっ。」
「炎よ 集え ファイヤーボール」
炎の玉が猫ウサゼリーに命中する。丁度とどめだったらしい、猫ウサゼリーのドロップ兎の毛皮が地面に落ちた。どうやら、ゲームのように自動でインベントリには収納されないらしい。
ゲーム同様アイテムの状態でドロップされ、剥ぎ取りなどは必要ないようだ。刃物も持っていないので、助かる。
ついでに、火魔法で倒していたのに、ドロップが焦げたり、痛んだりした様子はない。
あまり近くで戦うのはマナー違反なので、城壁沿いに南方向へ進む。
門から見えないぐらいの位置まで歩いてきた。もうしばらく進むと例のネームドが居た場所である城壁沿いに西門と南門の丁度中間辺りに着く。人も少ないしそこまでいく必要はないだろう。
猫ウサゼリーは序盤のモンスターの中ではサービスとでも言うかのように金銭効率がいい。討伐が10匹で500エデン、ドロップも3種類あって50%のゼリーの欠片が100エデン、30%の兎の毛皮が300エデン、5%でうさしっぽが1000エデン。10匹倒して期待値で2400エデン。1人あたり20匹も狩れば運次第で夕飯代と宿代になる。
ちなみに討伐数はパーティーカウントが適用されるのでどちらが止めでも構わない。
ただこの猫ウサゼリーLv15を越えると兎のフードを降ろしてモードチェンジこのゲームで一番足が早いんじゃないかっていう速度で逃げ、広範囲魔法ですら避けるらしい。
さっきも、門の近くまで向かって行った1匹が、Lv20の騎士を見て明後日の方向に走って行ったのでこの世界でもその習性はかわらなそうだ。
「んじゃ、試し切り行って来るわ。」
「てら。」
「ラッシュ」
最初のラッシュでダンテの狙った猫ウサゼリーのHPはすでに半分削れていた。残り半分もダンテなら余裕だろう。
そんな様子なので、私も別の猫ウサゼリーを狙ってみることにする。
「水よ 集え ウォーターボール」
おしいちょっと足らない。攻撃に反応して向かってくる猫ウサゼリーに棒を振り降ろす。光の粒になって消えていく。後には・・・何も残らない・・・あれ・・まぁそんなときもあるかぁ。
倒し終えたダンテがこちらに戻ってくる。
「そっちは大丈夫そうだな。」
「これなら、別れた方が効率いいかな?」
「そうだな。」
さきほど倒した近くに光の集まるエフェクトと共にリポップする。これはゲームのまんまだ。
一応、パーティの経験値分配について検証したが、目の届く範囲ぐらいなら経験値も共有できてパーティーボーナスの20%もちゃんとはいるらしい。
猫ウサゼリーの元の取得経験は10。2人で狩ればボーナスを含めて1匹につき6入る。
Lv2に上がる必要経験値が1000。時間はまだ11時半がんばれば今日中にいけるはず。
スキルで釣って寄って来た所を殴って倒す。倒していると数メートル先に次の標的が見える。スキルと素殴りでテンポよく倒していく。楽しい。途中からモンスターの動きを掴めて来てスキルのあとこっちから寄って行ってすれ違うように叩く。タノシイ。
ダンテも私も元々狩が好き。クローズβの消えてしまうデータですらも2人で延々と狩りでLV上げをしていて、気がついたら3時を過ぎ寝不足で翌日を過ごしたこともしばしば。
それにしても次々出てくる。ゲームのようなリポップ速度だ。快適で楽しい。ただドロップがない。このままだと80匹倒さないと寝る場所がない。タノシイ。何匹倒したか数えてないけど、ひたすら狩りに夢中になる。
「水よ 集え ウォーターボール」
1発で倒せた。あれ?と思ってステータスを開くといつの間にかLVが2になっていた。確認は後回しにして狩りを続行する。
1発で倒せるってすごい楽しい・・・殴る必要がないのは快適だ。
詠唱をしながら次のモンスターを探す。狩り楽しい・・・流石に沸きが追いつかないのか、周囲を見回しながら猫ウサゼリーを狩って行く。カリタノシイ・・・探す時間が増えたせいか、MPはあまり減らない。
2人ともだんだん移動距離が増えている。離れすぎないように気をつけないと。
かなりの時間が経ち、少し疲れてきていることに気が付く。
つい、狩りに夢中になってしまった。休憩しようとして、ふと思い出す。あれ・・ドロップ1個も出てなくない・・・?床にへばる。正にorz。猫ウサゼリーはさっきまで乱獲がされていたことを気にもせず、まわりを好き勝手に動いている。
あまりの自分の不運に沈んでる私に、ダンテが話しかける。
「ドロップならちゃんとインベントリに入ってるぞ?」
インベントリに大量のアイテムがあった。さすがダンテさん抜け目ない。もっと早く言ってくれ。どうやら気がついてないとは思わなかったらしい。
自動で回収する機能が生きていたらしい。これは便利。設定を確認したところ自動回収のON/OFFも選択可能だった。他の人とパーティーを組む事になったとき自分の分だけ自動回収されたりしたら面倒なことにもなりかねないのでありがたい。
いやぁ、よかったよかった。これで今日の宿代は安泰。あんたい・・?あ・・れ・・?
もう一度ドロップを確認する。
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所有アイテム
低級HPポーション 5個
低級MPポーション 1個
エイビス周辺の地図
ゼリーの欠片 170
兎の毛皮 100
うさしっぽ 20
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私の分の納品の報酬だけでも6万7千エデン。ゲームなら普通の稼ぎだったが、これは・・・ちょっといや、かなりやりすぎたかもしれない。今更後悔しても遅いが。
狩りはじめてから大体2時間。まだ午後2時にもなっていない。
「ねぇ、ダンテ。狩り楽しかったね。」
「あぁ、楽しかったな。」
少し黄昏つつ、並んで自分のインベントリを見ながら平原を駆け抜ける風に吹かれる。
気がついてしまった。1週間待ちに待った狩りに夢中で忘れていたのだ。いあ、違うな。狩り始める前からすでに狩りすることしか考えていなかった。狩り大好き・・。じゃなくて。
私たちはすっかり忘れていた。この世界の狩る速度がどのくらいなのか知るということを。
まぁまだ、やりすぎたって決まったわけじゃない。
これが普通なんだ。そう思いたくて、他のパーティーを遠くからみてみることにした。
さっきのパーティーのところに戻る。まだ居た。遠くから戦いをみてみることにする。まず、猫ウサゼリーがぜんぜん沸かない。必然移動での狩りになるので戦闘してない時間も2分近くある。右手に剣左手に盾を持っている少年が猫ウサゼリーに近づく。
「シールドプレス」
戦闘が始まる。少年のスキルを合図に少女もスキルを唱え始める。
「火よ 集え ファイヤーボール」
炎の玉が命中した直後、猫ウサザリーが回る。しっぽ攻撃を盾で凌いだところで後ろに控えていた両手斧の青年が近づきスキルを発動する。
「ワイルドスイング」
その後何発か素殴りで攻撃をし、敵対値を気にするように一旦離れる。少年はその間も右手に持った剣で攻撃を盾で凌ぎつつダメージと敵対値を稼ぐ。突進攻撃も盾で上手く受け止めている間に少女が再びスキルを使用する。少年はシールドプレスを再使用時間毎に入れて敵対値を管理する。両手斧の青年は範囲攻撃の合間を縫って攻撃する。少女はスキルでダメージを稼ぐ。
決してこの3人のコンビネーションは下手ではない。おそらく1ヶ月はここで狩り続けているのだろう熟練度と技術を持っている。そして表示されているLVは少年と少女が9、青年が11。私たちより圧倒的に高い。 にもかかわらず、まるでボスモンスターを倒すように猫ウサゼリーを倒していく。1匹ずつ3人で4分以上かけて倒していく。
念のためさらに遠くに居た別のPTの様子も伺う。こちらは6人PT。前衛ばかりの脳筋のような構成で数に任せてごり押ししているようだが、それでも倒すのに3分近くかかっていた。
つまりは、これが普通。
先ほど狩りをしていた場所に戻る。2人で今後を話し合うためだ。
実際のところ既に、ライセンスに討伐数がカウントされてしまっているため、誤魔化しようがなくなってしまっている。その数690匹。先ほどの3人PTで8時間狩って80匹、6人PTでも100匹だから確実に異常だと思われてしまうだろう。
1.素直に報告して期待のルーキーになる。
→この異常な数値で期待のルーキーで済むかどうか。面倒な気しかしない。
2.冒険者協会に報告しない
→今回受けた討伐依頼は即日依頼のため、最低でも帰還報告がないと実績にマイナスが付いてしまう。帰還報告すると依頼の達成状況に関わらずライセンスがチェックされてしまう。
「さぁ。どっち。」
「さぁ、どっちじゃねーよ。サイコロ振り出すな。」
エモーション機能のサイコロも問題なく生きていた。完全に現実逃避だけど。
何かいい方法がないか本気で考える。考えるけど浮かばない。
今日は雲1つない晴天。気温は高いが、日本の夏ほどじめじめと暑くはない。
むしろ、平原を駆け抜ける風が涼しく心地よい。
「とりあえず、いい天気だし、夕方まで昼寝でもしよっか。襲ってこないモンスターしかここいないし。」
「そうだな。」
手ごろな場所を探して眠りにつく。おやすみなさい。
日はまだ陰っていないが、時刻はそろそろ5時過ぎ。
昼寝して起きたら、こっちの世界が夢落ちとか、狩りすぎちゃったのだけでも夢落ちにならないかと期待したが、そんなことはなくドロップカウントは690匹。
インベントリの中のドロップの数も変わらない。
今日だけでLv4になった。こうなったら諦めるしかないかもしれない。
こうして異世界初日、私たちは早くも地雷を踏んだ。いや、『踏み抜いた』。
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リコ Lv4
HP 40/40→70/70 MP 78/78→96/96
力 1
防御 1 +2
魔力 26→32 +1
器用 20→21
敏捷 10→11 +1
ロール補正
回復LV1→4(魔力+6→9、HP+30→60、回復量+30%)
スキル
水魔法LV1(ウォーターボール)
アディショナルスキル
空白
空白
空白
技能
バックステップ PC補正
装備 (重量4/6)
武器 木の棒(魔力+1)ロック状態
頭 なし
上衣 コットンシャツ(防御+1)
下衣 コットンパンツ(防御+1)
靴 皮の靴 (敏捷+1)
アクセ 赤いリボン(補正なし)
外套 なし
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ダンテ Lv4
HP 100/100→160/160 MP 30/30
力 20→22 +1
防御 7→10 +2
魔力 10
器用 1
敏捷 20→23 +1
ロール補正
盾Lv4(防御+6→9、HP+30→60、被ダメージ-30%)
スキル
剣術LV1(ラッシュ)
アディショナルスキル
空白
空白
空白
技能
バックステップ PC補正
装備 (重量4/27)
武器 木の棒(力+1)ロック状態
頭 なし
上衣 コットンシャツ(防御+1)
下衣 コットンパンツ(防御+1)
靴 皮の靴 (敏捷+1)
アクセ 青いピアス(補正なし)
外套 なし
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次話も明日予定。