魔獣来る
5歳になった俺は少々やさぐれている。だってそうだろ、異世界だよ、異世界に来たんだよ。
なのに現状はどうだろう、剣術の練習が追加され朝から木剣の素振りをやらされている。
これはいい、異世界にいるんだから必要なことだと思っている。時々あるマナーの勉強も納得している、侯爵家だからな。
だがしかし、発音に自信がない、美しい言葉を話せなければと言ったサリバン先生が呼び寄せた3人のネイティブスピーカーもとい語学の先生、音楽の先生も絵の先生もいる。バイオリンは毎日練習。他は2科目しかやらないが、たいしたことないじゃないか、そう思った君、1科目3時間ぐらいぶっつづけなんだぞ、その上、進度がめちゃめちゃ早い。こんなのありか、と思った俺は悪くないだろう。
もちろん文句を言ったさ、でもニッコリと笑みを浮かべて「貴方ならできます、期待してますよ。」といわれて逆らえなかった、なんだか怖かったんだよね、あの顔が。俺にも見栄があるし、この世界のことがよくわからないので、おかしいとも言えない。しかたなく自由時間はほぼ復習で終わっている。魔力循環(と俺が信じている)も続けている、なんだか気持ちが落ち着くんだよね。
この体のハイスペックさには助けられている、1度読んだものは覚えていようと思うと大体覚えていられる、う~む、この世界ではこれが普通なんだろうか?付いていけてしまうのが問題なんだよな。だから文句も言いにくいというか。
もやもやとしたものは残るので夕方の空き時間に屋敷の裏に続く森によく散歩にきている、護衛つきでな。
今日も森をのんびりと歩いていると、なんか灰色の生き物がいるような気がした。側の木の根元を見ると犬が寝そべっていた。すっ飛んで側に行き眺めていると、すぴすぴと寝ているではないか、なんと大胆な、野生を捨てているぞ、おい。そっと抱きかかえてみると温かくて、腕にかかる重みに笑みが湧いてくる。
よし、ここは子供の特権を利用して、この犬を飼いたいとわがままをいってみよう。めったに言わないんだからこのくらい良いよね。俺にそういう子供らしい行動が出来るかどうかは疑問だが、やらないで後悔するよりはやってみるべし、だよね。
屋敷に帰ると叔父上とサリバン先生がすでに待っていた。どうやら護衛の一人が連絡してくれたらしい、すばらしい、お仕事ご苦労様です。
飼いたいのかと聞かれたので、飼いたいです、と答えると、あっさり了承された。俺って意外と信頼されている、なんだか嬉しくなって笑ってしまった。がサリバン先生が俺の指を掴んでナイフを出してきた。なにしちゃうのさ、こんな可愛い子に!引きつった顔になりながら様子を見ていると、指にちくんとナイフを刺した、血がぷっくりと盛り上がる。灰色の犬が血を舐めると名前を付けなさいと言われた。
う~ん、名前ね~、ぽち、たま、たろう、だめだめここは日本じゃない、日本でだって、ださいと言われそうだ。ふと日本にいたとき、隣のシェパードがおじさんにマク〇ドナルドのハンバーガーを貰って一口で飲み込んでいたのを思い出した。いや、やっちゃまずいんだけどね。(これは作者の体験した実話です)マックか、こっちなら名前の由来なんてわからないだろうし、それにしとくか。灰色の犬を見て、「マックは」と言ったらなんだかいやそうな顔をしたので(気のせいだろうけど)「マッキー」と言い直したら「わふん」と鳴いたので犬の名前はマッキーになった。俺の癒しゲットだぜ、やったね!!
しかし、しかし、線路は続くよ、どこまでも、じゃない!この大学受験を控えてます、さながらのハードモードの勉強はいつまで続くんだろう。俺はそろそろ10歳になろうとしていた。異世界だよ、異世界。夢もロマンもあったはずなのに!
NAISEIむりむり、トイレは魔石を使った水洗トイレだし、下にはスライムがいるそうだ、俺は見たことないけどね。お風呂もある、水と火の魔石でお湯も簡単に溜められます。森への散歩以外屋敷の外に出たことのない俺には何をしていいかもわからない。ついでに時間もないしね。
両親は1歳の時に王都に行ったきり戻っていない。叔父上とは週に2回程、お茶を飲む。話しやすい人だがいかんせん忙しそうだ。ライトノベルによくあるようにメイドさんとのきゃっきゃ、うふふ、ないない。使用人と主人一家の壁は厚い。サリバン先生は子爵家の人なので聞いてみたが、貴族はこんなもので話し相手が欲しければ子爵や男爵の3,4男を侍従として雇えばいいと言われた。う~む、10歳の子供か、話が合うだろうか?俺は前世、今世を合わせて40歳近くだ、サリバン先生だって年下だ。回りにいるのは大人ばかりだったので気にしていなかったが、いくら体に心がひっぱられるとしても無理ゲーではないだろうか。それとも貴族の子供は大人びているのだろうか。いやいや、雇ってから、やっぱり合わないからいりませんはないだろう、あきらめるしかないな、俺にはマッキーがいるしな。
そのマッキーだが大きくなった、シェパードぐらいの大きさだ、そしてなんと魔獣だった。最初に変なことをするなと思ったんだよね、異世界だという偏見でスルーしたがあれは魔獣との契約だった。それで皆が安心して屋敷の中に入れたという事実、知らないって怖いよね。契約のおかげか思っていることが薄っすらとわかる、お腹すいたとか、こいつ嫌いとかね。で、いまは大事な相棒だ、会えてよかったよ。
そんな俺だが今は10歳の誕生日を楽しみに待っている。
魔法だぜ、やっと、やっと魔法を使えるようになるんだ。ここでどんでん返しが来て貴族のくせにあいつ魔法が使えないんだぜ、と後ろ指を指される未来は認めん、俺は魔法使いになるんだ!(童〇のまま過ごす決意じゃないぞ)