バラ園を後にして
ヒロインはドアのところにいた護衛騎士を連れてスキップをしながら去っていった。
俺たちはぞろぞろと執務室に戻った。
開口一番オクタヴィアンが吼えた。
「あれはなんですか、殿下。」
「だからヒロインだろ、もう、そういう人種だと思わないとやっていけないよ。」
「本当に言われるとおりですね。普通だと思っていたのにヒロインはヒロインでしたね。」とルド。
そして3人の目が俺に向く。
「うん、あれな、多分陛下のことだと思う。もう半年ちかく手を尽くしていますが解決のめどはたっていません。半分ぐらいは期待しても良いと思います。」
「それで連絡は」
「多分向こうからしてきます・・・・・あのな、あれは風と同じ扱いをした方がいいと思う。
向こうから寄って来たら相手をして、離れたら、追いかけたり詮索するのはなしだ。」
3人が難しい顔をしてこちらを見ている。
「あー、フェル、それは・・・]
「えぇ、私の、魔術師の勘です。」
「フェルディナンドが自分のことを魔術師というのは珍しいな。よし、この話はもう仕舞いだ。
それよりもヒロインの持っていたとんでも情報の話でもしよう。」
殿下は椅子に座りなおした。
「あれは多分私が反乱を起こしたと言うストーリーを前提としていると思う。ゼスティーノは弟で第4王子で、まぁ間の2人が抜けたから第2王子でも間違いないな。あとは私は聞いたことがないがオクタヴィアンは彼女が言った話を聞いていますか。」
「全く」オクタヴィアンは首を横に振った。
「フェルの再来なんて信じられないから魔術師長は前のだろうな、リンスレットはアイガー伯爵家の次男だろう、そこそこできるとしか聞いてないぞ。」
「ルドの言うとおりです、秀才レベルの話しか伝わってきません。
それよりです、殿下はこれをご存知だったのですか。」
「ご存知なわけないだろう、あの後に発売されたのか。」
「もう気にしないで良いと思います、ストーリーが全くの別物になっていますから。
ヒロインを放り込んで我々は終わりです。後は彼らしだいです。」
「フェル、それは冷たくないか。」
「いいんですよ、私がせっかくアデリーナのところへ行こうと思ったのにじゃまをして・・・
もうヒロインの好きにさせましょう。」
「怒るなよフェル。あの地雷娘に夢中になる未来を止めてくれて私は殿下に感謝しているんだ。
だからせめて助言をだな・・・オリー頼むよ。」
「そうですね、それくらいは彼らにしてあげましょう、オリーお願いします。それより私たちは忙しい、なんといっても明日はお茶会ですから。フェルディナンド、君も参加です、まだ婚約者はいないのですから。」
ちくしょう、ヒロインの馬鹿野朗、ぎりぎりまで隠していた殿下のいけず!!
翌日は曇りだった、バラ園に向かう足が重いぜ。しかし貴族はなんでこうもバラが好きなんだろう、マーガレットなんかだったら千切って手にできるのに、とげで痛いし茎は丈夫だしで小説で「バラの花を手にして」とある一文は、横にはさみを持った庭師が控えているんだぜ。存在感の欠片もないけれどな。それとも使用人の存在は略して考えられるのが貴族なのか。
いやいやながらのせいか、しょうもないことを考えてしまった。やれやれ。
近づくとお茶席にはすでに華やかな装いをした令嬢方がさざめいていた。この距離で女の子たちを眺めるのは好きだ。だって、ふわふわして可愛いだろう。俺もそこそこ平気になってきた。3メートルの距離がいいかな。
殿下に挨拶をした俺は目配せをされ、今日もお一人様の席だ。
お嬢様方はうっとりとしてこちらを眺めている。俺は基本無口にしている、失言をしないためだ、薄っすらと微笑めば全ては解決する。そしてこれだ。俺は手のひらに鳥を乗せて彼女たちに差し出す、生贄だな。これで30分は稼げる、彼女たちは勝手に喋っていて幸せそうで俺も満足だ。こいつは意外とお役立ちだ、たまにはやさしくしてやろう。
にこっと微笑んで他のテーブルに去ろうとする俺、その周りには白い霧が立ち込めてきた。お約束だな。
「フィリアこのまま進んでいいのか。」
「よくないけどいいわ、進んで。」
「どっちだよ。・・・・・そういえばフィリアは何鳥なんだ?」聞きたかったんだよね、前から。
「フィリアは火の鳥よ。」
「俺の想像の鳥と違う、ついでにどうしてそう凶暴なんだ。」鳥は羽をぶわっと膨らました。
「情熱的といってちょうだい、私は太陽神の御使いなのだから当然なのよ。」
よし、このままどんどんいくぞ、俺は密かに拳を握った。
「それで何で俺のところに来たんだよ、ヒロインの鳥になるんじゃなかったのか。」
「いやーよ、あんな綺麗でも可愛くもない女、私にふさわしくないわ。それでふらふらしていたらフェルを見つけたのよ。なんか浮世離れして能天気そうに見えたから面白いと思って契約してあげたの。」
「あのな、ありがた迷惑という言葉を知っているか。フィリアのせいで俺はめちゃくちゃ注目されたんだぞ。」
フィリアはぷいとそっぽを向いた。
「私がいなくてもフェルは魔力が膨大にあったじゃない。恨むならこの馬鹿犬を恨みなさいよね。」
マッキー?マッキーがどうしたって言うんだ。
「こいつはね、月神の御使いなの、悪いのは全部こいつのせい。私の主に月の関係者がくっついているなんて侮辱だわ。」
「あのさ、マッキーが最初なんだけど。」
「だからなんなのよ、こいつが引けばいいだけのことでしょう。」
「陽の神の関係者はこれだから困ります。相変わらず強引ですね。マッキーも少しは反論なさいな。」
「子供の喧嘩に口を挟むのもどうかと思いまして。」
いつのまにか謎の海に来ていた俺、側にいるリィリューシャ、そしてマッキーひどいよ、ちょっと真実を追究していただけなんだよ。
「さあフェルディナンド様、景色の見える小高い場所にお茶の用意がしてあります。まいりましょう。」
瞬きの間に俺たちは岩の上に立っていた。
小高い10メートル四方の天辺をもつ岩山にはお茶の用意がされていて、そこからは昆布の林と珊瑚の岩がよく見えた。その間をすばやく魚の群れが泳いでいく。
リィリューシャ嬢、貴女が謎生物なのはよくわかっていますが、俺はこんなところでは落ち着きません。
「さあ、ゆっくりなさって。このお茶には月のしずくを落としてありますのよ。」
そんな謎の飲み物、体に悪くないのだろうか。ついでに海の中で飲めるのか、周りで海がたゆっているのを感じられるのに。
「塩辛くない、良い香りがする・・・」
リィリューシャ嬢いたずらが成功しましたと言う顔で笑うなよ、もう謎の海は海ではないと決めて棚に上げるぞ俺は。
「それで貴方は・・・」
「月神の関係者とだけ言っておきますわ。いまはそれよりも大事なことがあります。木の箱をお出しください。」
例の屋根裏部屋で見つけた木箱ね、中には7つの玉が入っていた。また7つかよと言わないで欲しい、俺も同じこと思ったからな。彼女は俺の手に虹色の玉を乗せると、近づき耳元に囁いた。
「シリスムーンの宝珠よ、悪しきものを浄化せよ。」
「これでロンデルシア国王の呪いは浄化されます。無能な陽の御使いにはできないことですわね。」
「なんですって、私だって呪いを消すことは出来たのよ。ただあれが耐え切れずに消し炭になるのでやらなかっただけだわ。」
リィリューシャ煽るな、そしてフィリアそれに何の意味があるんだ。
彼女は残りの宝珠を俺の手のひらに乗せていく、ちょっ、両手でも落ちそうだ。そして宝珠がふわりと輝く。
「緑、青、黄色、赤、黒、金、虹色、7つの宝珠が薄く色づいて綺麗でしょう。これで貴方は宝珠の所有者になったわ。
でもね、持ち主となった貴方はこれを使うことを求められるわ。宝珠も使われたがっているから。大丈夫よ、今回のように少しの労力で済むとばかりだわ。」
はた迷惑な宝珠め、俺はいらないし、この辺のカオスには踏み込みたくない。
「心配しなくてもこれは貴方にしか使えないわ。ついでにド〇ゴンボールも各国の直系王族と貴方にしか使えないのよ。」
そんな心配はしていないし、目を離すと笑顔のまま睨みあっている2人が怖い。鈍感系主人公が羨ましい、あいつ等は本能でこれを避けているな。一般ピープルの俺は気づいてしまう、不幸だ。
最後にリィリューシャに囁かれた。
「宝珠を必要とするときはいつでもわたくしがお側にいますわ、心配なさらないで。」
そして俺たちはバラ園に戻っていた。




