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婚約者

 夜になり叔父上と久しぶりに酒を飲んだ(お茶ではない、俺も大人になったものだ)初めて会った従妹も一緒にいて、俺を珍しげに見ている。そして弟の事を聞かされた。


「サリバンが学園にいて、王都で情報収集をしている。それで分かったのだが第一王子が軟禁されている間の手足として動いていたのは例の断罪で一緒にいた貴族の係累だ。」


「父上たちもですか?」


「いや、兄上たちはなにもしていないようだ。ただアーネストは子爵位を賜ってから別の屋敷に移り、学園にも行かずにあれこれと動いていたようだ。」



 ロンデルシアは約1000キロ四方のいびつな四角形だ、一辺が日本列島より少し短いぐらいの長さを持っている。端から端まで早馬の伝令でも20日弱かかる訳だ。領地から王都までは歩兵、食料、備品を載せた荷車に速度を合わせて軍勢が行進するので端っこからだと一月以上かかる。

伝令+準備期間+軍の到達時間=最大2ヶ月 

 魔法があっても中世では移動に時間が掛かる。 

 実際は半径200キロ以内の領地から徴兵する。他は支持を得るだけだ


  そういうわけで国内に檄文をだす。殿下が起草した文を皆で書写し、最後に殿下のサインと印章を押す。書き終えたらどんどんと早馬を出す、コピーが恋しいぜ。


 そして進軍、俺たちの軍勢を見た王都にいた2王子の軍はあまり勢いがなく簡単に蹴散らせた。

ただ陛下に関しては十数個の掛けられた呪いがこじれ目をさまさない状態だった。


 反乱を起こした貴族たちを粛清し殿下は国土の5分の1を王領とした。褒賞がここからの分割で済んだのは良かった。そして反乱した2王子を塔に閉じ込めるしかできない殿下と俺は他の者を処刑することに気が進まず、大人は牢屋に若手は修道院に入れた。甘いとは思うけどさ。


そして続く怒涛の仕事漬けの日々。 



あまりの忙しさに切れた殿下が再、再度の爆弾投下をした。


「私たちの婚約を決めたい。誰か当てはありますか。」


「私にそのような時間はありません。」オクタヴィアンが冷たく返す。


「時間はできるのではなくて作るものです。」


「そう言われる殿下は当てがありますか?」


 ルドが首を捻っている、四六時中一緒にいるんだ、会っていれば直ぐわかる。


「デートの1つもしたことのない方に言われても。」


「デートをしたことがなくても当てはあります、元婚約者です。」


「「「元婚約者!」」」


「ええ、彼女たちは婚約者をひたすら慕い、スペックを上げた令嬢方です、ゲームではそうなっています。私たちを娘の婚約者にしたいという貴族のおかげで仕事がすすみません。仕事の量自体も多い。もう限度を超えました。この際、優良物件の彼女たちに決めましょう。」


「お疲れなのは承知していますが、ゲームと現実は違います。とんでも令嬢だったらどうするのですか。」


「お茶会を開きます、もう母上にセッティングを頼んであります。人数は予定の4人×3の12人です。ゲームの記憶で良さそうな令嬢を見繕っておきました、覚悟してください。」そんなドヤ顔で言われても。


「ここいらが潮時ですか、でも私は当てがありますので結構です。」


「バルド卿の上の娘のアデリーナ嬢ですか、フェルディナンドの従妹で貴方の好きな田舎で犬の散歩とかピクニックを一緒にしてくれそうな人ですね。」


「あのなフェル、夜会では完全武装の令嬢も私生活では素朴なものを好むかもしれないぜ。」


「ルドにしてはうがったことを言いますね。それに私はフェルディナンドの言う<田舎でスローライフ>の意味がよく分からないのですが。」


「そうだな、辺境での薬草摘みとか薬草摘みとか薪集めがな。」


「そうですね、旋風のようでした、のどかとかのんびりとは程遠い姿でした。」ひどいオクタヴィアン。


「まぁ、人の趣味にけちをつけてはいけません。それより私の婚約者です。設定ではハイスペックで王子の仕事をすべて肩代わりしてくれたのですよね。なるべく早く補佐につかせて一緒に仕事をしてもらいましょう、仲も深まります。」


殿下がうっとりと言う、妄想だな。


「殿下、忙しすぎて追い詰められているのは分かりますが、今の言葉のどちらが本音ですか。仕事を半分やってもらおうと言う下心の前に愛の言葉をささやきましょうね。好意を持たれなかったら、仕事を押し付ける男なんか嫌われますよ。」


「フェルディナンド何を言う、もちろんデートもするつもりです。」


 殿下、顔が引きつっています。俺に魔術師長なんて役席を押し付けた人を信じられるか。デートもの「も」ってなんだよ、最初に仕事ありきなのがみえみえじゃないか。今日の主題は婚約者だ、俺は目的を達成する為にとっとと去るぞ、そしてお茶会を蹴ってやる。


 やって来ました花屋の前で俺はどきどきしている、心の準備が欲しい。いつもは従者に買わせるものだから、俺ってば花屋に入るのは初めてだ。やはりピンクの花が好まれるかな、定番はバラだな。奥のほうにある青いアネモネも風に揺れそうなふんわりとした花びらが素敵だ。必死で見ている俺はぽんと腕を叩かれてぎょっとしてしまう、振り向くとヒロインがいた。なんでだよ、本物か、ここにいるのが信じられなくてまじまじと見てしまう。


「なにをなさっているのフェル様」


「綺麗だろう、そろそろ秋も終わりだ、この花たちともしばしのお別れかと思って眺めていたんだよ。」


「本当に?まぁいいわ、今日はヒロインお願いがあってきたの。」


 ヒロイン、君は間が悪すぎる。なんで今日、この時間に会うんだよ。風がひょろりと吹いた気がした。

 よし決めた、あいつらも今日は時間があるだろう、こいつを放り込んでやろう。嫌とは言わせん。

 俺は馬車にヒロインを押し込むと王宮へ向かった。


 王宮の入り口近くの応接室に俺はヒロインとともに入り、3人を呼んでもらった。


「フェルディナンド、お客様とは珍しいな、どなたなんだ。」


「「ヒロイン!!」」 「ヒロインちゃん」


 3人とも驚いているな、殿下とルドはびびっている。よしよし俺と同じように驚け。


「皆様、お久しぶりですわ。今日はヒロインお願いがあってきましたの。」


「それはよくいらっしゃいました、それで・・・」



「乙女の秘密お教えしようと思います。」


 乙女の秘密か怖いな。


「ヒロインはヒロインですのよ。」


 はぁ、知っていますが、3人とも、だからなにと言う顔をしている。


「物語では4人と知り合い供にあの地図に秘められていた古の国の宝珠を探しに出かけるのです。

 でも何故かお誘いいただけなかったし、リィリューシャ様が600人以上の騎士がお供についている方たちとご一緒するのは無理だといわれるのであの時は諦めたのですわ。

 その後も2度お会いしたのになにもおっしゃらなくて・・・この国にお誘いいただけるものと信じていましたのに。」


 いきなるぶっちゃけ始めた、前知識のない人間に話したら電波だと思われること確実だ。


「でも3巻目の話がありますでしょう。そちらでも良いかと思いましたのよ。

 旅はやはり大変ですものね、山を登ったり、森の中を歩いたり、私はしたくありませんわ。」


「ヒロイン、君の言うその物語はなんというのですか。」


「乙女ゲームですわ。題名は<チェリーブロッサムに口付けを>の3巻目<星の数ほど愛してる>の巻です、素敵でしょう。」


 俺たちは顔を見合わせた、転生ヒロインか。ついでによけいなことだが愛は1つでいいだろう。


「リィリューシャ様が貴方たちは信じられる、全てお話しなさいと言われましたの。」


「それで話を続けていただけますか。」


「ええ、それでブレビアス学園に入って私の物語が始まるのですわ。

 今2年にいる侯爵家次男で現在の魔術師長の再来と言われるルーカス様、伯爵家次男で将来近衛になられる剣の達人リンスレット様、子爵家次男で将来の宰相を確実視されているアスト様、本命はもちろん第2王子のゼスティーノ様ですわ。

 この方は将来の王太子だろうと言われていますの、今の第一王子は盆暗で格好ばかりつけている方だそうですわ。」


 殿下はまた口をパカリと開けている、笑い出さないだけ良しとしよう。


「その情報はどちらからお知りになられたのですか?」


「もちろんゲームからですわ。そして問題がありますの。私は学園に入る余裕がありません。

 皆様に助けていただきたいのですわ。」


 本題に入ったか。


「それは具体的にはどれほどを望まれるのですか。」と殿下。


「学園の費用と生活費全てですわ。全額を一度に頂きたいと思っております。もちろんただとは言いませんわ。

 皆様が今一番お知りになりたいことをお教えいたしますわ。」


「私たちの一番知りたいことですか、それは・・・」


「ええ、リィリューシャが存じているそうです。」


「はっきりお教えいただけませんか。」


「わたくしはお使いですもの、詳しいことは知りませんわ。フェル様にお話すればうまくいくと言われたのです。」


 俺が殿下と目を合わせると頷かれたので、大金貨を10枚出し、学園と寮の費用はこちらで払っておくので3日後に理事長室に行くように告げた。ヒロインは嬉しそうに笑った。


「これで皆の心の闇も払って差し上げられるわ。楽しい毎日の始まりね。」



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