反乱
そして、それを聞いて、俺は直ちに出かけることにした。今は夕方だ、まだ間に合う。
「という訳で俺は買い物に行ってきます。」
「いや、待てよ。話を聞いてからでもいいんじゃないか。」
「なに言っているんだ、馬のえさが殆どないんだよ。
強行軍をするんだから60頭の馬に900キロ、20日で18トンのえさがいるんだ。」
殿下にひらひらと手を振ると俺はすっ飛んで行った。あちこち頭を下げまくって、お金も上乗せして、王都中を駆け巡って(転移込みで)なんとか間に合わせた。偉い、俺はがんばった、よくやったぞ。ふらふらして殿下の下に戻ると情報が集まっていた。
「分かったことを教えてください。」
「何も分からないことが分かりました。」
しれっと言うなよオクタヴィアン、膝が崩れて、ORZしそうだぜ。
「噂ならいくつかあります。
まず、最近陛下のお姿を見かけません、ご病気ではとの推測があります。
そのせいで後継者争いがでてきているのではと考えられます。
殿下のいない隙を狙って即位するつもりでは。思ったより早く浄化を終わらせた殿下に今頃あせっているのではないでしょうか。」
「国内の状況が分からないので取り合えず戻ることにしました。」
「戻られるとして拠点はあそこで決まりですか。」と連隊長。
「はい、先ほど打ち合わせたとおりゴルドシュタインにします。当主がいる場所の方が融通が聞きます。」
「フェル、ブレスレットの空き容量はどのくらいありますか。」
「はいはい、馬車5台が入ります、野営道具も食料もどんとこいです。」
ごろごろ ごろごろ ごろごろ 水樽 20リットル ×5
どんどん どんどん どんどん 小麦粉 20キロ ×2 玉葱 20キロ じゃが芋 20キロ きゃべつ 10キロ 人参 5キロ
ちゃりん ちゃりん ちゃりん 小金貨 50枚 銀貨 20枚 銅貨 適当に
叔父上に言ったけれど大金貨(100万円)はこういう時に役に立たないな。こんなのを街中で出したら、一発で大目立ちだ。
「フェルディナンド、夜中なんだからもう少し静かに。」
「だって疲れました。このマジックバック20袋近くあるんですよ。」
どんどん どんどん 干し肉の袋 だんだん だんだん だだん 干草のサイコロ
「自棄になるなよ、フェル、感謝しているんだから。」
「そうですよ、良くそこまで溜め込んでいましたね。」
「地道な努力と言って欲しいですね。堅実な人たちは皆それなりに常備していますから。皆は叔父上と同じく大金貨ばかり持っていてものの役に立ちません。叔父上もですね、私が学園に入る時大金貨ばかりの袋をくれたんです。上級貴族の常識を疑います。
あっそうだ、殿下にはこの件の請求書を1割り増しでお渡ししますね。全部小金貨でお支払いください。」
「やれやれ了解した。これで小隊10人10日分の食料と1ヶ月は優に暮らせる金。一小隊に十分な支度をしてやれる。
最終的に15組の偵察隊を出すことで決まりだな。
さて明日は、いや今日は秀吉の中国大返しだな。和睦もすんでいるし。フェルディナンドも経路を地図で確認しておいて下さい。」
「ちゅうご・・おお・・・なんですかそれ、あと和睦は必要なかったと考えますが。」
「殿下の気分の問題ですよ、気にしないで下さい、連隊長。手続きが全て済んでいるということです。
トリニカの国境門まではこちらの街道を使って馬車で6日、その後はルド、ペンを貸してくれ。こうしてと、よしこれで決まりです。
殿下、トリニカまで4日、ゴルドシュタインまでは9日、合計13日で着きます。」
「フェル、王都を突っ切るにしても早過ぎないか。」
「そんな無謀なことはしません。ただ回り道をしないだけです。26日もかけては中国大返しになりません。」
俺はペンで地図に書いた直線を指す。
「ダルモ森林とレガナ山脈、ケイマン森林を抜けるのか、却って時間がかかるぞ。」
「まかせなさい、私は大魔法使いマリーンの再来と言われた男です。」
「ルド、あいつの頭に水でもかけてやれ。ハイな気分が少しは落ち着くだろう。」オクタヴィアンひどい。
「フェルディナンド様がこれでいけると言われるなら私は着いて行きます。」
連隊長ありがとう、頼りにしてるぞ。
「これで決まりですね、今日は5時起床、6時出立です。少しでも休んでください。」
殿下、信頼してくれるのは嬉しいけれど、俺はまだ袋詰めが終わっていない、寝れるのかなあ。
朝まだき、薄暗い中ランバルド王族の見送りに会釈をして俺たちは出発だ。馬車に軽量化、馬に身体強化の魔法を掛ける。ランバルド国内ではスピードが出せない、迷惑をかけるからな。回復魔法で長時間走ることしか出来ない。それでも6日かかるところを4日で走りぬけ国境門も国王の親書ですんなりと通してもらえた。
ロンデルシア側は王太子がいるので文句なく通れた。ここから偵察隊を次々に出しながら隠密行動でいく。追加で周りを結界で囲い迷彩と音声遮断の魔法をかける。完全ではないけれどこれで意識にのぼりにくくなる。さあスピードを上げるぞ。
ロンデルシアに入って3日、ダルモ森林の手前で今日は野営だ。燃料が勿体無いので俺が大鍋に熱湯を注入、騎士たちが刻んだ野菜と肉を投入して煮込む、最後に小麦粉を練ったものを3センチ四方に千切り調味料を入れて終わりだ。うん、すいとんだな。俺に料理スキルを求めないでくれ。たきぎを集めないですむところに俺の料理の良さがある。殿下は同じ転生仲間として期待したんだけどな、日本人の男なら出来る奴もたまにはいるだろ。だかしかし、家庭的で料理上手なお袋さんのいる高校生には無理ゲーだった。
で翌日の朝
「この森の中を馬車が進むのは無理です。どうするのですか。」
オクタヴィアン良くぞ聞いてくれた。そして連隊長の期待に満ちた瞳がまぶしいぜ。
「私はエルフ魔法が使えます。」実はこの世界には人間しかいない。
「そんな魔法聞いたことがありません、」
だろうな、俺が創ったものだからな。見せてあげよう。
「ダルモの森よ、我々のために道を拓け。」
木々が次々と動き目の前に道ができる。すごかろう、ちょっと自慢の魔法だ。フハハハハ。
「これでは我々が通ったことが分かってしまいます。不味くないですか。」オクタヴィアン細かすぎ。
「心配しなくても30分後には元に戻ります。逆に30分過ぎてその場に留まると木に潰されますから注意してください。」
うん、これはマジックバックの原理を応用しているから元に戻るとき不味いんだよね。放り出すという対策はしているけれど。
レガナ山脈では穴を開けた、こちらはドラ〇モンのどこでもドアを真似た。すんごく魔力と魔石を使うので大変だけれどそこは見栄を張った。
無事12日目にゴルドシュタインの屋敷が見えたときにはほっとした、野営飯も飽きたしな。
「叔父上、ただいま戻りました。ご無事で嬉しいです。」
「お帰り、フェルディナンドの顔がこれ程早く見れるとは思わなかった。がんばったな。
殿下方もようこそお出でくださいました。歓迎いたします。」
「世話になる。こちらは状況が全くわからない。とりあえず話を聞かせて欲しい。」
叔父上曰く、王が病に倒れ対応を協議している場に第一王子が派閥の貴族と共に現れ後継者宣言をしたそうだ。その後駆けつけた第3王子が反対し、自身こそ後継者に相応しいと言いだした。王の病室の周りには第一王子派の人間が詰め大臣たちも王子を無理やり排除できず困っているそうだ。王が病床にいるうちに戴冠式をあげ、済し崩しに王となり国を支配する予定だったのではと。鬼のいぬまにと言うやつだな。でも貴族たちが簡単に言うことを聞くか?そして王位につくための王冠と宝錫が見つからない。だせえ。そのせいで彼らは戴冠式もできず王都で睨みあっているだけになっているそうだ。そのまま2ヶ月が過ぎジルベスター王子の帰還が決まったことで焦った彼らは転移陣を閉じたのではということだ。
「第一王子と第3王子の派閥に入っている貴族は把握されていますか。」
「全体の5分の1位です。あとは私の様に領地に篭って戦の準備をしております。」
「少ないですね。少なすぎませんか。」
「いいえ、充分に多いです。不遇をかこつ貴族がそれだけ多いということです。
まともな頭を持っていたらこんなリスクの多い賭けはしません。あなた方の盛名を過小評価しすぎです。」
「明智光秀みたいだ。」とつぶやく殿下。
「なんですって?」
「いえ、ノープランだと言われたのですよね、殿下。」とフォローする俺。
「そうですね、彼らの無計画なことには驚きを隠せません。殿下これはいい機会です。役立たずの貴族を一掃しましょう。」
オクタヴィアンお主黒いぞ。殿下もにこやかに頷くんじゃない。<越後屋よ、お主も悪よのう。いいえ、お代官様こそ。ははははは。>例のせりふが聞こえてきそうだ。
殿下の様子に安心したのか叔父上は話題を変えた。
「殿下失礼は充分承知しておりますが、お聞きしたいことがあります。」
叔父上の言葉が掠れている。殿下はにこっと笑い手を振った。
「あぁ、バルド卿、君に不敬な言葉を言わせるつもりはないよ。安心したまえ。フェルディナンド預けた箱をこちらに。」
俺はブレスレットから旅の前に殿下に預けられた新刊書ほどの宝石が散りばめられたワインレッド色の箱をだす。中にはマジックバックが入っていた。そこから宝冠、宝錫、マント(豹の毛皮に縁取りされた宝石と刺繍に飾られたもの)大きな、大きなルビーのついたペンダントそして指輪、次々とテーブルの上に殿下は取り出して並べていく。
「戴冠式の宝冠、宝錫、マント、それから王太子の印のペンダント。これは陛下の印章だ。万が一を慮られて私に預けられた。」
へえ、あれは立太子で着けていたペンダントだ、重そうだな。そしてそんなもの俺に預けるな。




