私を月に連れてって
約束の日のお昼過ぎにいくと、ヒロインの屋敷の前には紋章のついた瀟洒な馬車が止まっていた。ヒロインに紹介されたのは、名をリィリューシャ、大人びた銀髪の少女だった。
「始めまして、子爵令嬢、今日を楽しみにしておりました。」
「どちらにお連れいただけるのでしょうか。」
「月へお出でいただこうと思っておりますのよ。」
「月と言えばこの国の月は緑がかる時があると聞きましたが。」
そこからは楽しい時間だった、通りすがりの人たちとの何気ないおしゃべり、ヒロインは普通の可愛い女の子だし、リィリューシャは浮世離れした美少女だ。しばらく走り、出されたレモン水を飲みながら俺は馬車の窓を覗く.辺りは真っ白になっていた。リィリィーシャはそれに気がつくといたずらっぽく笑い、
「この霧が境となっております。この霧が晴れたときの景色を早くお見せしたく思いますわ。」
彼女の瞳に見つめられ、なんだか吸い込まれそうな気がしてきた。薄い青みががった氷のような色をした・・・・・俺の周りが白く、白くなっていく。
気がついたときは霧の中だった。鳥が騒いでいる。
「起きなさい、フェルディナンド。起きろ、この馬鹿!」
「うるさいな、今おき・・・・・」
鳥がぶわっと羽を膨らませて、しゃべ・・・しゃべってる!
「おま、おまえ話せるのかよ!」
「落ち着け、ここでなら我らと話すことができる。」
「そ、そうか・・・ここはどこだ。」
「どこともいえぬ、どこともいえる、この世ではない場所だ。」
そうなのか、俺は詰んでいるのか。
「とりあえず動くぞ。」
「どこにだよ。」
「皆のところに行きたいのだろう。まずはこの霧を抜けねば。」
歩こう、歩いていればなんとかなるのだろう、当てにしているぞ、俺の癒しと凶暴な鳥よ。
霧の中を黙々と歩く。視界が2メートルしかないと真っ直ぐなのかぐるぐる歩いているのか分からない。探査もこう四方八方なにもないところでは意味を成さない。つい足が遅くなると鳥が騒ぐ。
「なにやっているのよ、フェルディナンド。男の癖にへっぴり腰で歩いて情けない、ほらほらもっと足を動かして!」
うるせえ、だからお前は凶暴なんだよ、可憐な姿には可憐な性格を期待するだろ。話してみると予想通りの性格で俺はがっくり、がっかりだよ。
「主殿、霧が晴れてきたぞ。」
癒しのマッキーに言われてみると俺たちはいつの間にか海の中にいた。海のなかあぁ・・・!!!俺は息をしているよな。でも魚が群れをなして泳いでいる。上から日が射しているのかはるか頭上は泡立ち、回りの水が揺らめいているのも分かる。
人魚が来た、いや、リィリューシャだ。体にそったシンプルなハリウッド女優のような青いドレス姿で俺の側にいる。手を伸ばすと、
「屋根裏部屋で得たものをこちらに。」
俺に拒否権はない。だまして持ってきたような気もするし、この異常事態に断ったら何をされるかわからない。
小箱のブレスレットの紫の石を俺の唇に当て、そのあと木の箱、本を中に入れる。これはマジックバックになっていたんだ、知らなかったよ。
最後に地図を手に取ると、
「これに魔力を注いでください。」と言われた。
魔力を地図に注ぐ、どんどん注ぐ、次々注ぐ、限がない、足りるのかこれ。足りました、ぎりぎりで。
そして光りだす地図、納まったときには絵に変わっていた。背後には森があり、宝珠の印は7人の妖精になっていた。トンボの羽を一対つけ小さい人は妖精だろ、異論は認めん。そして噴水のあった場所には人がいた、でも顔がよく見えない。なにか教えてくれるのではないかとじっとリィリューシャの顔をみるけれどにっこり笑ってごまかされた、俺が勝てるわけがなかった、こんな謎生物に。
そして地図は彼女が息を吹きかけると元の状態に戻った、もうやばくも感じない。俺の魔力を取り込みたかっただけなのか、あれだけ必要とあらばそれはやばくも感じるだろう。
「その時がくれば絵は表れます。では戻りましょう。」
地図も入れたブレスレットを俺の手首に嵌めるとまたにっこり笑う。ついでに一瞬、鳥を睨んでいた。なんなんだ、あいつら。
俺はだまされんぞ、聞きたいこともいっぱいあるし。
そして、いつのまにか森の中にいた。前方には開けた草原、それはそれは美しい四季の花が咲き乱れる場所で皆はちゃっかりとお茶をしていた。なんなんだよこれ。後ろにいたリィリューシャに背を押され、口を開こうとすると。
「いいものつけているな、フェル。」
脳筋が目ざとく俺を指差す。ルド、だから人を指差すなと。ブレスレットにはいつのまにか複雑な植物と鳥の文様が刻まれていた。
「お持ちのブレスレットに個人認証をしていただいたのです。マジックバックだと気がつかれていなかったのでお教えしたのですわ。」
「それでこの様に変化したと、珍しいものですね。」
オクタヴィアンがいぶかしんでいるが、俺は答えを持っていない。逆に草原に咲いている花はおかしいだろうと言っても訳が分からない顔をしている。こいつは花言葉もおおよそ知っていたはずなのに。そしてこの日は終わった。
その後、彼女たちからは特に連絡もない。ヒロインの屋敷を訪ねても留守だった。あれは一体なんだったのだろう、多大な疑問を残し俺はこの国を去ることになった。
気持ちに棚を作ろう、いつまでも考えてはだめだ。あれは夢、好きに入れない場所なのだから夢でいいだろう。
次は4個目のド〇ゴンボールだ。俺はやるぜ。
いま俺たちは海辺の街にきている。殿下がわくわくとした顔で俺を見る。
「殿下、そのにやにやした顔を止めてください。」
「失礼な、冒険に心が逸っているだけです。八点鐘、ルパン。
明日は素敵なものを見せて差し上げます。」
夜の暗いうちから船で出発する。そろそろ1時間はたっていないか、朝焼けがまぶしいぜ。小船に乗り換えた俺たちに殿下は親指を下に向けにやっと笑う。いや意味不なんだけど。
「城だ、城がある!!」
朝日を浴びた海の底には城が建っていた。引き潮で海の水が澄んでいる冬の今しか見られないそうだ。感動ものだ。日の光が射し込んで城の窓ガラスに反射している。でも殿下、八点鐘とかルパンとか微妙に外していませんか。
「細かいことはいいだろう、言ってみたかったんだ。冬の海に飛び込みたくなければ私に従え。
我が手に古の国の宝珠を、シリスムーン」
殿下は小学校の図書室で読んだ探偵シリーズをぼやっと思い出して、言ってみたかっただけね、やれやれ。
そしてこのゲームは相変わらず鬼畜だ、冷たい水に潜って城の中を探すなど死ねといっているのか、殿下の姉上ありがとう、俺の感謝を受け取ってくれ。
5個目のドラ〇ンボールは滝の裏側の洞窟にあった。中に入るとスライムが津波のごとく押し寄せてきたが鳥が嘴から火炎放射器のように広域レーザービームを発射してことなきを得た。フィリアお前何者だ。火の鳥のスペックすごすぎだろ。
6個目は何羽ものロック鳥が飛び交う崖の途中の穴の中にあった。これまた鳥とルドの連携で無事宝珠を手に入れた。
27番目の国ガリアの浄化も終わり、送別会にも慣れてきた俺たちだがガリアの女性は一味違う、何がってドレスがだよ。
夜会のダンス3回で俺は敗退だ。ルドも直ぐに戻ってきた。ついついあらぬところを見る俺。ルドも見ている。まだ大丈夫だけどさ、ここが限界だ。
<ぽろりもあるよ>と言いたい胸元と太腿まで見える切込みのある大胆デザイン、南の国でもここまですごいのはなかった。最後まで耐えたオクタヴィアンに拍手、拍手。
最近は自由にやらせてもらっている俺たちは出発前の王都見物だ。ぶらぶらしているとヒロインが雑貨屋の前にいる。なんで。
知り合いを訪ねて家族で遊びに来たそうだ。それで俺たちが訪ねた時は留守をしていたそうだ。本当か?でもこれ以上は聞けない。
一緒に街を見て回るのはそれはそれとして楽しかった。昨日のあくの強いお嬢様方にへきえきしていた俺たちは慎ましやかな格好のヒロインにはほっとする、彼女は強引でもしつこくもない。普通の女の子とこうして偶然会っておしゃべりするのは気楽だ。
そろそろ2年がたとうとしている。あと少しで帰国の途につける。
最後のドラゴ〇ボールを取りに行こう。
最後の国はランバルドだ。今俺たちは大陸を一周回ってロンデルシア王国の隣国へ来ているわけだ。
そして見事な桜の木の前にいる。山の中に生えているそれはそれは大きな木だ。俺たちには簡単なお仕事です。呪文を唱えて、はいお終い。でもゲームの奴らは悩んだんだろうな。木のどこに宝珠が入っているのか分からないので切り倒すしか方法がない。どこまでも鬼畜なゲームだった。
街に降りてのんびりする、もう旅も終わりだ。ついでにゲームも。この様に外に出てゆっくりすることももうないだろう。俺たち付きの連隊長は途中で諦めて自由にさせてくれたがそれもあとわずか、なんだか感傷的になってきた。
あれ、あそこにいるのはヒロイン、又雑貨屋の前にいるぞ。これが最後だ、気にせず皆でお茶をしよう。
王宮の戻るとざわざわしていた。転移陣が人用、小荷物用ともにロンデルシア側で閉じられているようだと言われた。
内乱か?俺たちは顔を見合わせた。




