ヒロインは普通?
今日は曇りだがデート日和だ。がんばるぞ。
オクタヴィアンは特に嬉しがることもなく平然としている。こいつとルドは経験者なんだな、なにとは言わないが負けないぞ、俺は大器晩成型だ。
石畳の道を黒髪に冒険者ルックで歩く(一応変装めいたことはしておく)マッキーたちはむりやり留守番させた、あいつ等がいたらばればれじゃないか。
そして、ここは昔、古代の魔法王国シルスがあったといわれる場所で今でも日食が時々起こったり、月が緑がかって見える日がある。一番の証拠は王都の噴水だそうだ。芸術に疎そうなルドが褒めていたので楽しみにしている。
その前に市場へ行く、貴族街を抜け平民街の外側に市場はある。「庶民派のヒロインはきっと市場にいる」と殿下が言っていたけれど、なんのこっちゃ?俺はもうヒロインには関わりたくない、あのぶっ飛び具合には地雷娘の称号を呈しておこう。
だんだんと人が多くなり、野菜や果物を積んだ台がずらりと並べられ賑やかだ。
「オクタヴィアン、紫玉葱だ、こっちのキャベツもサラダにしたら美味しそうだな。」つい目の前の野菜を褒めると突き出される紫玉葱とキャベツの乗った竹のざる。
「持っていきな、お兄さん、うちの野菜は最高だよ。お代はいらないから、食べてみてくれ。」
「うちの人参を見てくれ、いい色してんだろ、スープにしたらいけるよ。」
「どこにいくんだい、兄ちゃんたち」
「噴水を見るのを楽しみにしてるんです。」
おばちゃんやおじちゃんたちと盛り上がる俺。ざるに山盛りになる野菜たち。おばちゃんが麻の袋に入れてくれて、またなと手を振る俺。
オクタヴィアンが離れたところで呆れた顔で立っていた、悪かったな、野菜を貰ったら愛想を振りまくだろう、普通。
だけど、袋2つを持っていてはナンパできない。空が青くて目にしみるぜ、ハハハ曇りだったな。俺はとぼとぼと歩く。
ぼうっと歩いていると目の前で女の子が躓いて転んだ。両手の塞がっている俺の代わりにオクタヴィアンがスマートに手を差し伸べている、あれっ、この人はヒロインじゃないか。
殿下はすごいな、何故ここにいると分かった?そしてヒロインは転ぶのがデフォか。今日は厄日だ、曇り空はデートに不向きだった。
ヒロインと会ったからにはミッションコンプリートだ。屋敷まで送ると申し出、オクタヴィアンが並んで歩く。俺はなんとなく側によりたくなくて、後から付いていった。野菜袋(ブレスレットに入れる機会がなかった)を2つ持って付いていく俺は華やかな彼らに壁を感じてしまう。(ごめん、おばちゃん、若者の心は繊細なのさ)
ヒロインの屋敷は鬱蒼とした木々に囲まれた時代を感じさせる物だった、つまりぼろい。
「お茶でもいかがですか。」とヒロイン。
「喜んで。」とにこやかに返すオクタヴィアン。
絵に描いたような2人の姿に、不貞腐れた俺はオクタヴィアンに任せることにした、よきに計らえだな。予想通り、軽い雑談の後、綿ぼこりを付けて息を弾ませているヒロインが地図を差し出してきた。ちぇ、すごいな。
「屋根裏部屋にあったので時間がかかりました。」
照れくさそうに笑うヒロイン。
地図は薄茶色の古びた羊皮紙でぼろっとしていた。そしてなんだか禍々しい、触りたくない。なんだ、なんなんだ、この地図。やばい。こんな話聞いてないぞ。調べなきゃまずいんだろうな。とほほ。
気持ちを切り替えて、 がんばるぞ!俺はモテル!俺はイケメンだ。ではいきます。
「私の屋敷では屋根裏部屋が使用人の住むところになっていて入れてもらえなかったのです。子供の頃は秘密基地に憧れるものです。
一度見てみたいと思っていたのですが、案内していただけませんか。」
俺はにっこりと笑った、がんばれ俺の演技力(あると聞いたことはないが、ないとも言い切れん)
「男の方って、そういうことがお好きですよね、かまいません。ご案内しますわ。」
ヒロインの案内で急な階段をぎしぎしと音をたてて上る、これ子供だったら転げ落ちそうだな。屋根裏部屋には地図とは違うが力を感じるものが幾つかあった。持って帰りたい。焦るな俺、やればできる子なんだ。一呼吸して。埃だらけの窓を開け、外の景色を見る。案外遠くまで見えるもんだ。気を落ち着け、振り返り微笑む。
「ここには何をいれているのですか。」
「処分しようとしているがらくたですわ。」
「そうだ、そのうちと思っているうちに何年もたっている、うちの屋敷には曽祖父、曽曽祖父の物まで残っているそうだぞ。」
「君も屋根裏部屋に入ったことがあるのか、いいなー。
入れないと思うと余計あこがれるものだよ。」
「そこまでいうのなら、ここで景色でもみていたらどうだ。ついでに地図でももらってさ。子供のおもちゃにはちょうどいい。」
「いやー、それはさすがに申し訳ないというか」
「でも君、目がきらきらしているよ。いかがですか、お嬢様、この男のごっこ遊びに付き合ってあげるのは。」いけオクタヴィアンそのままフォロー頼む。
そして手の平に乗っている青い小箱。ぱかりと開けるとピンクトパーズが幾つもついた高そうで可愛らしい金の髪飾り。
「この屋根裏部屋の物を幾つか頂くのでこれはささやかながらお礼です。
そして下でお茶でもいただきませんか。ここは少々ほこりっぽい。」
手に残るはこの部屋の鍵、オクタヴィアン完璧だ、すごい、なにとは言わないけれどすごい。君はきっと詐欺師になれる。
それは置いといて時間がない、直感でいく。あそこに置いてある絵の裏の木箱。端に積んである本の下から2番目。布が破れたソファーの下、手を伸ばす、小箱だ。地図も合わせてブレスレットに入れる、これで仕舞いだ。
下に降りるとヒロインが困った顔をしている。友人の使いの者とオクタヴィアンが意気投合して、明日はピクニックに行くことが決まったそうだ。いや、俺に言うことはありません。様子見をするにも便利だしな。
早々に離宮に戻った俺は何をすることもなくぼーっとしていた。
「フェル、フェルディナンド 大丈夫か。」
いつのまにか外は赤く染まり部屋が薄暗くなっていた。集まった3人組に俺は地図と小箱を見せることにした。
今日の収穫だ、特に地図は気になる、見てほしい。皆でひっくり返して調べても何も出てこない。なにかが違うと感じても良く分からない。酷く簡単な地図で端的に言えば王都の噴水の場所と7つの点、下に古代語で<シリスの宝をその手に>と書いてあるだけでさっぱりわからん。
殿下曰く王都の噴水はラスベガスのようにエンターテイメントな物で時間により水が出る場所が違い、高さが違い、その変化と動きを楽しむそうだ。動きは7種類あり、解明すれば場所のヒントとなる。後は古代王国の伝承を集めてと。やってられっかそんなめんどうなこと、ゲームのフェルディナンドはよくやったな。あいつが俺とは赤の他人だと良く分かるエピソードだ。俺なら領地に帰ってスローライフだ。
それにしてもなんであれ程やばく思ったのか、他の3人は何も感じていないようだ。小箱の中は紫の石のついたブレスレットだった、これも変哲のない銀のシンプルな物だ。
「ヒロインはどうだった、オリー。 」
興味深々のルド、前ヒロインのぶっ飛び具合に驚いていたものな。
「普通だった、ちょっと馴れ馴れしいというか、初めての人間を親のいないときに屋敷には入れないだろう。そうだな、やはり普通じゃないな。」
「見かけと会話は普通っぽかった。」
「普通、普通って他に言うことないのですか。」
「いや、比べるだろう彼女と。」
「うん、うん、そうです、明後日に全員でいって確かめればいいことです。」




