旅の始まり
俺たちは旅の準備で忙しい、主に夜会とか夜会とか、お茶会だな。王都の貴族たちに聖カルテットをお披露目だ。効率を考えてお茶会は一人で行けと言われた。奥様やお嬢様方ににこやに笑っていればいい簡単なお仕事です、本当か???ちょっとひどいような気がするのは俺だけか。
オクタヴィアンお約束の肖像画のモデルもやらされた。広めの部屋に20人ほどの画家が揃っている。
まるで絵画教室だ。そこで俺たちは一人、もしくは数人でポーズをとる。背景は後で合成するそうだ、効率的なことだな(嫌味だ)。名残惜しげな画家たちを振り切った時にはほっとした。その3日間俺の肩に乗りっぱなしの鳥はええかっこしいなのだろうか、時々ぴろぴろと囀っては光り、画家たちの喝采を浴びていた。よく飽きないな。マッキーは暇そうに隅で寝ていたのに。
そして小部屋に呼ばれる3人、これは秘密のお話か。殿下がまたしても爆弾を落とす。
「第2部の話をしよう。」
「なんの第2部ですか」いやな予感に動揺する俺。
「いやだなー、もちろん『チェリーブロッサムに口付けを』のですよ。」にこやかな殿下。
この人がにこやかだと碌な事がない、爽やかさに欠けているね。
「FFなんて2桁いっているんだ、これも続きと派生作品、薄い本もあります。
あと第1部がこれだけ変わったんだ、それもふまえないと。まあ聞いてください。
今度のは貴種流離譚がベースになっています。」
[それってぼろぼろでみすぼらしい主人公があちこち彷徨う。がんばって成功して実は王侯貴族の子息で子供の頃攫われたとわかり幸せになるお話ですよね。]
「まあ、そのような話です。」
続きはヒロインが隠しキャラ、隣国の王と婚約した後から始まる。
聖女を隣国に取られ、不甲斐ないと貴族たちにそしられた攻略対象者たちは居所を失くし、一念発起して旅に出る。今度のヒロインは男爵令嬢だ。彼女は今は亡き古の国の末裔でもある。
エスパーダの国で冒険者をしていた攻略対象者たちは第2ヒロインと出会い,話のついでにと屋敷にある古い地図を見せてもらう。
古の言葉を読めるアーネストがそれは宝珠を記した地図だと見破る。
その宝珠を7つを集め(ドラゴ〇ボールとか7の数字、皆好きだよね)呪文を唱えると瘴気を浄化できる。聖女は失ったがこの宝珠を持ち帰れば復権できる。彼らはヒロインと共に旅に出て最後はロンデルシア王国に戻り、誰か一人がヒロインと結ばれると。
「無視してはいけませんか。宝珠もいらないし。」オクタヴィアンはクールだね。
「いけないとは言いませんが、この旅の間にロンデルシアの宮廷で起こる陰謀を知るわけです。
ただ、時期がずれています。どうしたものかな。」
「ド〇ゴンボール、ぜひ集めたいです!」
聞いたら欲しくなるのは人情だろう。それに浄化の旅には半分各国のおえらいさんとのお付き合いが含まれる、気晴らしがしたい。
「冒険活劇を読む子供か君は。」
それはそうかもしれないけどさ。気分というかモチベーションが上がるというか。
「その宝珠は何の役に立つんだ。フェルがいればすむことじゃないか。」
ルドは脳筋のくせに飛びつかないのかよ。宝物を集めるのは男の子のロマンだろ。
「まあ、そういわずに。たまにはフェルディナンドの我侭も聞いてあげましょう。」
「そうですね、浄化の宝珠ということは呪いを消すことも期待できるかもしれません。」
「そのような曖昧な理由で330名の騎士たちを出し抜くのは大変だと思っていたのですが、フェルディナンドがやりたいというならいいでしょう。」
「え”っ、聞いていないです。」
「王太子の外遊ですから当然でしょう。現地での騎士も同数は覚悟してください。」
「フェル、よく分からないが魔法は便利だな、600名強の人間を差し置いて抜け出せるとは。
親友の頼みだ付き合ってやるぜ。」
「このような術具は後で大事な役目を果すことがあります。ゲームが絡んでいるので用心をした方がいいかもしれませんね。他ならぬ貴方の望みです。協力いたします。」
なんか可笑しくないか、それに魔法はそれほど簡単なものじゃない。
「大丈夫です、前世の姉上が諭吉さんをぴらりと私の前で広げてですね。まあ、そんな訳で第2部も詳しく教わりました。宝珠のある場所も呪文も覚えています。おかげでショートカットできます。」
「諭吉さん?」
「気にしないでください。フェルディナンド、貴方の望みは我々で叶えてあげますから、安心してください。」
安心していいのか、なんか違くないか。
こうしてドラゴン〇ールを集めることが決まった。
翌日、陛下に呼ばれた。なんかあったかな。いつもの小広間には父上と弟そして叔父上がいる。
「フェルディナンド ゴルドシュタイン、そなたにゴルドシュタイン侯爵の位を授ける。」
ちょ、ちょっと待ってくださいと言いたいが、陛下の前でそれもできず、俺は叔父上に侯爵家伝来の剣を渡されうろ覚えの襲爵の儀式をする。陛下と殿下はいきなり爆弾を投下するところが似ている、親子だな。碌でもない遺伝子だ。
「アーネスト、そなたにはエイーラ法衣子爵の位を授ける。今後アーネスト エイーラと名乗るがよい。」
そして呆然としている俺に陛下は「ジルベスターをよろしくな」と言って去っていった。
にこやかに笑っている高官たち30名ほどは口々に「期待している。」「今後はよろしくな。」と言う。
なにを期待して、なにをよろしくなんだ。俺には実働部隊として彼らにこき使われる未来しか予想できないぞ。若手のペイペイは辛いよ。にこやかに笑っていても俺にはわかる。ちぇ。
そして父上とアーネストは睨むな、俺がなにをしたというんだ。心配そうな叔父上に会釈をして俺は殿下をひっつかんだ。こいつは絶対知っているはずだ。
そして来ました殿下のお部屋。不満たらたらな俺に殿下が言われる。
「君の父上がやらかしたんです。
陛下にアーネストの復権を要請。彼の持っている子爵位を与えれば確かに貴族に戻れますから。」
でも普通それをやるか。罰で平民にされたんだぞ。通るのか、通ったんだけどさ。
「君の母上が元凶なのはわかっています、弟君を溺愛しているのは有名ですからね。そして君の父上は魔術師長で、君が思っているよりも力があります。彼らに宮廷を引っ掻き回されて私の立太子式に瑕疵がつくのを恐れたのです。」
それは家族がご迷惑をおかけしました。
「気にしなくていいですよ。陛下も負けてはいませんから。
子爵襲爵を前面にだして彼の権限をほとんど取り上げました。候爵位とその資産はフェルディナンドのもの、旅から戻ってきたら魔術師長の席も君のものです。今は空位にしてありますけれどね。」
慄いている俺にオクタヴィアンが言う。
「君の母上の気持ちに押されて元侯爵は最終的にすべて受け入れたそうだよ。そして自身の築いた財産を持って王都にある別宅に移るそうだ。」
「法衣子爵は年間2億円も賜れるんだ、それを渡せた君の母上も満足だろう。」
いや、ルドさんやそれはそうだけれどさ、満足してたらあんな風に睨まないだろうが。そして魔術科でもない俺がなんで魔術師長という最高峰になれるんだ。誰も俺の魔法の腕を知らないだろう、何故決め付ける。
貴族な3人の笑みの前に俺は凹んでしまう。
殿下の立太子の儀式は出立前ということでささやか(王族としては)かつ厳粛につつがなく終わったことをここに告げておく。




