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水はけの悪い地域2

水はけの悪い地域。

この広範囲に約3か月にも及ぶほど雨が降り続きます。名前の通りに水はけの悪いこの地域は水を溜め続け一見すると海と見間違えほど大きい水たまりを作っているのです。


その後はほとんど雨は降らなくなるので、この現象は2か月限定のモノみたいです。

とても珍しいようで、それに伴いこの地域では水辺の催し物なども行われ観光業が盛んになり比例して求人も多く出されていました。

今日も寝る場所も確保していない状態なので私は急いで職探しをしていましたが、しつじさんと別れた30分後には豪華客船のパートに採用されました。





私は今現在この豪華な船を所有しているマロンお嬢様の船で働いています。

驚くべきことにこの船はマロンお嬢様の為だけに作られ、船内には大きなホールや大浴場も設置されていました。以前はお嬢様一人だけが使っていたのですが、部屋も沢山あったのでついでに富裕層向けに宿泊船をやってみようかとやってみたら思いのほか評判がよく今ではマロンお嬢様の住居+ついでに宿泊という感じになっているようです。


私はその宿泊客を相手にする雑用パートになりました。


【契約内容】パート

清掃、食事調理、雑用として住み込み

一日8時間~

時給800pin、深夜手当+100pin

待遇、一日3食まかない付き、共同寝床


ああ、すごいブラックです。

ですがお金の無い今は賃金が少なくても当日から住み込み三食まかない付きというのは好条件でした。




私の朝は早く、日の入りの前に起こされます。


「ほら、早朝組はさっさと起きるよ」

何時かも分からないまま肩を揺さぶられ起こされます。

周りを見るとまだ寝ているのはお昼からの組です。とても羨ましいですが、新人は総じて辛い所を任されるものです。寝ぼけたまま支給された制服に着替え、身支度を済ませます。


「あなたたちは外に出て掃き掃除から」

手渡されたほうきを握りしめ、外に出ますがまだ薄暗く肌寒いです。担当する場所を終えたら中に入って次の仕事に向かいますが、新人の担当エリアは総じて広くめんどくさい場所を任されるものです。

私は周りの人達が次々に仕事を終えて中に入っていく姿を見ながら結局最後の一人になってしましました。



それからお偉い方、宿泊客の朝食の準備をします。

他の食品業者から食品が届きそれを下準備係、調理係に分かれて準備します。

私は洗われた野菜の皮むきを部屋の片隅でひたすら行っていました。

調理をするシェフはやはりここでは花形の職業のようで、白を基調とした制服は私たちのモノと比較するとだいぶ敷居が高いように見えました。


私は2時間ひたすら根菜類の皮を一番隅っこで剥き続けていました。



「新人のひとか?」

調理グループのシェフの男性が話しかけてきました。


「はい」

「従業員のまかないも作り終えたから、時間が空いたら食べたらいい」

「ありがとうございます」

そういえば、お腹が減ってきました。


「これ、君が剥いたのか?」

「ええ」


「随分上手に皮むきするんだと思ってね」

「あ、ありがとうございます!」


厳しい仕事とは裏腹に働いている人達は新人の私に親切にしてくれましたし、作ってくれたまかないはとても美味しかったです。


食事を直ぐに済ませたら次は続々と戻ってくる食器の片づけが始まります。

しかも信じられないほど膨大な量でした。


このぐらいの時間になるとパートリーダーのリコさんが遅く起きてきました。

気の強そうなショートカットに赤い口紅、ふくよかな体系は威厳さえ感じえます。

結構長くこの職についているので誰もが口を出すことはできません。

この人は厳しい仕事と比例してとても厳しいパートリーダーです。


「おい新人、エーテル」

ほら来ました。行ったそばから。


「ほんとにどんくさい子だね、こんなのちゃっちゃとするんだよ」

「すいませ、」

私の言葉も言い終わらないうちにさらにお説教は続きます。


「返事は”はい”だよ!これだから今どきの若い奴は、遅いし鈍いし言い訳ばっかだよ」

「だいたい私がアンタぐらいのときはもっとシャキッとしてたよ」

パートリーダーのお説教に付き合うのも仕事のうちです。

私は頷きながら精神がガリガリと減っていくのが分かります。


新人と若い女子にはすこぶる厳しく、若くイケメンにはめっぽう甘いといったなんとも男女不平等なパートリーダーです。


「これが終わったら、次は拭き掃除だよさっさとする!」

パートリーダーは私のすぐそばで叫びました。

ああ、もうすごい怖いです。




朝から昼過ぎまでは休憩もなく働き、大きな休憩がありまた夕方前から働くといった流れです。

深夜手当は+100ですが私にはその時間帯に回ってはきません。

一律800pinです。



夕ご飯とその片付けが終了したら、次は従業員同士の熾烈な競争が始まります。

下っ端従業員に用意された小さな共同のお風呂を目指し、一斉に走り出します。この混雑を避けるため少し時間をおいて空いてから入ろうとすると、寝るときにはだいぶ遅くなりますし私は朝が早いので明日がきつくなります。

周りに譲っていてはいつまで経ってもお風呂に入れません。


お風呂の次は寝る場所です。

私たち従業は共同スペースで支給された敷物をしいてその場所で寝ます。

古株の人たちは決まったスペースでいい敷物をしいて広く寝ています。私はドア近くの風通しのいい、且つ敷物も十分にしけないスペースで縮こまるように横になります。


もうくたくたです。

もう逃げ出してしまいたい。


賃金は日給で払われます。

今日は9600pinでした。肉体労働と合わない賃金だと思います、泣きたくなります。


こんなに働いているのにお値段は据え置きですもの。








「眠れません。。」


周りのイビキも聞こえることに加え、精神的なストレスからか横になっても全然眠れません。


気分転換に外の風に当たってこようと思い、上着を羽織って部屋を後にしました。



「わっ、」

外の風は冷たかったですが、明かりの灯った船が周りにはありとても幻想的でした。

水面に光が反射してキラキラ輝いています。光は船の数だけあるようで、この地域にどれほどの船があるのかにも驚きます。


この景色をもっと上から眺められたらどれほど素敵なんでしょうか。

パートリーダーに減らされた精神力ですが、この風景はとてもいい癒しになりました。



「あ、」

暫く外を眺めていると私に向かって紙飛行機が飛んできました。






―――――――――――――――

ひめさんへ

俺も仕事が決まりました。

目立つことは好きではないので、裏方の仕事です。

一攫千金を狙った歩合制なので成果が出るように頑張ってみます。

―――――――――――――――


内容は事務連絡ですが、非常に元気になれます。

まぁどうせしつじさんの方が絶対に私より稼いで、結局今月分の支払いがたまったら私がバイトを辞めるといういつものパターンになると思います。




―――――――――――――――

しつじさんへ

こっちは完全自給制です。

マロンお嬢様の船で働いています。


野菜の皮むきが上手いと褒められましたが、バイトリーダーは新人の私のやる事なす事に駄目だしをしてきます。

悲しいです。


ご飯はとてもおいしいですが、寝る場所が狭いです。

とりあえず私も頑張ってみます。

―――――――――――――――


私も返事を紙にに書き終わり飛行機型に折りました。使用方法の風のある時と雨が降っていないという条件はクリアしています。


こんな簡易なものが本当にしつじさんの所まで行くのか不安でしたが、ゆっくり空に向かって投げると風に乗るようにふわっと飛んで行きました。



遠くに飛んでいく飛行機を眺めていると、ギシッと後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきました。私は振り返ると、一人の男性が歩いてきました。



「こんばんは」

私は無難に挨拶をします。


「こんばんは」

男性は腰には剣が有り、身なりのいい恰好を見ると従業員では無く、それなりに地位の高い人かお客様なんだろうと思いました。


「あれ、新しい人?」

「はい、少し前からここで働いています。エーテルといいます。」

「俺は剣士のディーン、ここの用心棒さ」

ディーンと言う男性は用心棒だと名乗りましたが、私はこの船に用心棒がいることを初めて聞きました。



「用心棒??」

「この船で雇われてる用心棒。他にも沢山いるよ、船内で客じゃないイカツイ奴とか警備してる風な奴とか見かけなかった?」

「ああ、あの人たちが」

いわれてみれば、話したことはありませんが明らかに船の従業員ではなさそうな人達がいました。



「こんな時間に外に出るなんて危ないよ」

「すいません、、なかなか寝付けなくて」



「結構ここら辺、夜は危ないんだよ」

「そうなんですか?」

「巨大魚とかもそうだけど、特に海賊がね」

まさか夜の船に脅威があるなんて考えもしませんでした。


「俺たちは仕事だから見回ってるけど、外は寒いし早く寝たほうがいいよ」

ディーンさんは寒そうに腕をさすり、ニコリと笑いかけてきました。



「はい、ではおやすみなさい」

私はその後、夜に見た景色のおかげなのかしつじさんとの手紙のおかげなのか、はたまた剣士さんとの会話のおかげか私はすぐに眠る事が出来ました。


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