始まりの画廊
あばばばばばばば
それはいつのことだっただろうか。
純白の空間に点在する絵画と1人の少年。
常に一定の間隔で飾られた絵画たちは例え芸術に疎い人間であっても問答無用に心を揺さぶるであろう名作ばかり。
ソレに対して少年の風貌は一般的であった。
180ほどの身長に少し長めの黒い髪、平凡より少し上程度の顔立ち。
絵画たちとギャップに疑問を抱く人もいるかもしれない。
しかし少年の目は鋭く、たった1つの作品に向けられていた。
「やっちまった・・・」
彼の手に握られているのはカップラーメンの残骸と割られていない割り箸。
ソレに対して少年の見つめる絵画は西洋的な城下町と空を飛ぶ人々が描かれている。
ただひとつ付け足すとするならば 絵画の下部には隠しきれないほど大きなシミ ができていた。
「(術士協会の秘蔵物の警護中にラーメンを絵画にぶちまけたとかどうなるんだ・・・・)」
今年で丁度16歳、転生前を含めて666歳を迎えるこの少年 月島 太陽 は現在人生史上で最大の危機に瀕していた。
彼は世界で5本の指に入る強者である。
それにある分野に絞ればある人物を除けばトップだろう。
しかしそんな彼であっても今の状況はまずいものだった。
仮にもここに収納されている絵は 魔術を極めた往年のダヴィンチ 妖術に手を染めた葛飾北斎 などと芸術的価値に加え術士にとってはこの世の真理への鍵といってもよいものばかりである。
そんな場所の警備を任されるのはおそらく太陽を含めても3人ほどしかいないだろう。
つまりそれだけ重要な存在である彼でもこの状況は申し開きできないだろう。
しかし月島 太陽 という存在であっても世界中で術士の存在が秘匿されている状況で術士協会に頼らずに生きることは不可能だからだろう。
仮に彼が魔術に特化した上で星の配列などの状況を満たしていれば世界を書き換えることもできるのだろうが残念ながら彼は魔術は使えるが魔術師ではなかった。
しかも彼が汚したその絵画の作者名は見間違え出なければ世界最高の魔術師のソレである。
「(隠すか・・)」
もはや彼にはソレしか道は残されていなかった。
見つかるよりはまし、そう思い立った彼は絵画の淵に手をかけて持ち上げる。
「(重っ!!)」
予想より重いその絵画は彼の頭に降りかかった。
しかし絵画は頭に当たることはなかった。
絵画はまるで水面のように水面を立てて彼を頭から飲み込んだのだ。
こうして純白の画廊に倒れた絵画とカップラーメンのごみが残されたのだ。