繋がり
ある男が医者の許を訪れ言った。
「先生、最近どうも妙な夢を見るのです」
「妙な夢ですか…」
男は重苦しい口調で語り出した。
「それは自分が人を殺してしまいそうになる夢なんです。とても恐ろしい事とは知っていますが、殺人衝動を抑えられない」
「なるほど…、もう少し具体的に話して頂けますか」
「はい、その夢を初めて見たのは二週間ほど前でした。私の前を一人の男が歩いており、私はその男を無性に殺したくなる。理由はわかりません。ですが何故か、私は今にも男に飛びかかり、首を絞めてやりたい衝動にかられる」
「その男性は知り合いの方ですか?」
「いえ、何分後ろ姿だけなので、なんとも言えませんが、たぶん知らない人物だと思います」
「そうですか…」
医者はしばらく考えた後、思いもよらぬ言葉を口にした。
「殺してしまいなさい」
「え!?」
「殺してしまって大丈夫です。よろしいですか、夢とは現実世界の不満の現れです。問題は夢ではなく、現実にあり、それを取り除く事が重要なんです。夢の中で殺人を犯して、警察に捕まる事などありえません。ですから、夢世界の欲求はそのまま解放しなさい」
医者の言葉を聞いた男性は、晴れやかな表情になり言った。
「わかりました。先生の言葉を聞いて、なんだかスッとしました」
「患者さんの悩みを解決するのが我々の仕事です。一緒に問題を解決していきましょう。今日はぐっすり眠れるように薬を出しておきます。また、後日いらしてください」
「はい、どうもありがとうございました」
男は礼を言い帰っていった。
その日の夜、悪夢にうなされている医者を、隣で寝ていた男性患者の妻であり、医者の不倫相手である女が揺すり起こし言った。
「ねえ、ちょっと大丈夫!? 酷くうなされていたわよ。まるで誰かに首を絞められているような…」
医者は、乱れる呼吸を整えつつ、自分の首に触れて呟いた。
「恐ろしい夢を見た…。なんて事だ、まさしく、自分の首を絞める事になるとは…」