ケース1:29歳フリーターの話
あのメールのあと、数日が過ぎた。
その後、送られてきたメールには、日時が記されていた。
場所指定がないため、悩んだが、いつも通りに過ごすことにした。
正直なところ、あんなメールに、乗ってしまった自分が、恨めしくは思う。
都会に出てきて、数年。
バイトしながらの生活の日々も、悪くはないし、この生活のおかげで、自分のことが少しわかった気がする。
「気がするだけで、なにも変わってなかったら愉快だな。」
もうそろそろ、実家に帰る事になるかもしれん(年齢的に)
そうなれば、もう独り暮らしはできないかも知れんな。
最後の機会に、あいつにここで会えるかも知れない、なんかドキドキする。
「って、恋人じゃあねーし、ただの友達だし、何を意識しているんだ、落ち着くんだ、あいつは男だぞおれ、大丈夫だオレ、(ぺらっ)うん、俺はノーマル」
「なにしてるんですか?」
ふと気付くと、そこには、懐かしい顔があった。
彼は、一つ年したの友達「佐野信一」通称しんちゃん。
元々は、共通の友達を通じて知り合ったことが、始まりかな。
中学の時に、そいつの家に行ったときに、初めて紹介されて以来、遊ぶときは大体このメンバーで集まって、ゲーム等をして遊んだことは、今でも鮮明に、覚えている。
しかし、高校卒業とともに、都会の方に出てきてからは、なかなか会えない日々が続いた。
そんな最中、あのメールが届いた、普段ならあんなメールには見向きもしないのに、何でだろう?、どうしても会いたかった。
そんなしんちゃんを、最初に見た時、昔のままのしんちゃんに、違和感を感じた。
「本当に、しんちゃん?」
「そだよ」
じぃぃぃぃぃ←疑いの眼差し
「おー、さすがに疑っていますね。」
「信じない訳ではないが、しんちゃん。」
「ん?なに?」
「俺の、キーカードはなにか?」
「きーさんは、『デー〇ンの召喚』だったよね。」
「じゃあ俺が、パックを買う時に見るところは?」
「キャラクターの目を見てたよね。」
唖然としてしまった。
決定!!間違いない、彼は、しんちゃんだ。
「お久しぶり、しんちゃん。」
「お久しぶりです。きーさん。」
久しぶりすぎて少し、照れくさかったが、間違いがなかった、今、ここにいるのは、しんちゃんだ。
「6年ぶり位かなぁ、きーさん全然変わってなくて、ほっとしたよ。」
しんちゃんは、俺の顔を見て安心したようで、昔みた、優しい笑顔を、見せ始めた。
「しんちゃんの方が、ビックリだよ、俺の昔の、イメージそのままだもん。 ちなみに、いくつになったん?」
ずっと、気になっていたことを聞いた。
すると、しんちゃんは、優しく答えてくれた。
「生きていれば、きーさんの一つ下だから、三十路になる一歩まえかな、ちなみにこの体は、きーさんたちと遊んだ頃ぐらいかなぁ。」
知っていた、けどずーーっと、そうでないことを、願いながらも、確かめもせずに、ただ怖くて、そうでないことを夢みていた。
申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。
「ごめん、しんちゃん。」
「?」
意味がわからず、首をかしげるしんちゃんに、俺は言葉を続けた。
「ごめんな、しんちゃんが、なくなった日、実家に帰って来てたんだ。でも、その時は、しんちゃんとは、気づかなかった、実際に知ったのは、ずっと後、それからの俺は、人違いであることを信じた、この年齢になるまで、今も、信じている。」
あの日、葬儀場の前を通った時、まさかっという気持ちでいっぱいになり、確認しようとしたが、本当にだったらとか、違ったら恥ずかしいとか、余計なことを考えてしまった。
それが、今日まで続いて来てしまった、受けとめる勇気を、ずっと誤魔化していた。
だから、今日もしも会えたら、もしも会えたら、
「しんちゃんに、伝えたかったことがある。聞いてくれるかなぁ。」
しんちゃんは、何も言わずに、ただ頷いてくれた。
俺は、しんちゃんに感謝をして、俺の思いをぶつけた。
「好きです、かすたどん。」
「ボケるんかい。」
バシィィーーン
ハリセンの、心地よい音がした。 目覚めてしまうかも知れない。
しんちゃんは、笑顔でハリセンを打ち出してきた。
「ふっ」「ぷっ」
「「ワハハハハハっ」」
どちらから、ともなく笑いがこみ上げてきた。
そこからは、最新のアニメの話とか、近況のやりとり等世間話に、花が咲いた。
久しぶりに話す友との、これが、本当に最後の時間になることを、1分1秒をかみしめて。
「そろそろ時間かな。」
しんちゃんが、おもむろに立ち上がり、お別れを告げた。
「延長は、出来るけど、やめてほしい、これ以上は、きーさんが、危ない。友達として、そんなことはもうしないでほしい、約束して下さい。」
結果的に、俺の身勝手に、死んだしんちゃんを振り回してしまったわけだし、無償という訳ではない、代償をこれから先の人生で、払い続けなくてはならない、友としての、最後の約束。
「しんちゃんの友達として、その約束守るよ絶対!!」
しんちゃんは、納得したように頷き、俺の方へ歩みよった。
「うん。じゃあ、最後は握手で。」
俺も、頷く。規約のひとつに、相手の体に、直接触れたらその時点で、消えてしまうというものだ。
「それじゃあ、さよならは、いやだけど、ちゃんとお別れが、できるチャンスをくれたこの機会に、感謝をして、しんちゃんありがとう、さよなら、しんちゃんと会えてすごく楽しかった。」
すっと、手をさしのべた俺の手に、
「うん、僕も、きーさんやみんなと、遊べてすごく楽しかった、さよならきーさん、会えてすごく嬉しかったよ。」
しんちゃんの手が、触れあった瞬間、しんちゃんは、音もなく消えてしまった。
だが、しんちゃんは、間違いなく、今の瞬間まで、ここにいた。
居なくなったしまった空間に、ぽつんとひとりになって気付く。
「確かに、これは、やらない方が、いいかもな。」
一人になった部屋で、少し泣いたかもしれないな。
それからすぐに、請求書が届いた、バカみたいな額と、代償だが、俺が、生きている間に、少しずつ引かれているらしいから、あまり気にしなくてもいいそうだ。
ちなみに、代償で、支払うはずだった、右腕は、しんちゃんが支払うと、言ってくれたそうで、おかげで代償は視力の低下だけに、収まった。大丈夫かなぁ?聞けば、来世で先天性的に、右腕がない人生を、送るそうだ。
罪悪感がわき上がってくる、やはり、やらなければ良かったと思った。
それから、しばらくたった、ある日、引っ越しの準備の最中、マンガの間にメモ書きが挟まっていた、まさか、
『明日、10時に取りに行く。』
なにをだよ!自分のメモにツッコミをいれて、メモをたたきつけた。
あの日のことを、思い出すと、今でも悲しくなってしまう。
でも、だからと言って、ずっと悲しんでもいられない、しんちゃんに、怒られてしまう。
ふと携帯を見ると、お昼が過ぎていた。
「ご飯は、どうしよっかなぁ?」
そんなことを、考えながら、外に出た。
空は、晴れて、心地よい風が、流れている。
『きーさん』
誰かに、呼ばれた気がして、振り向いても、誰もいない、もう会えなくても、ずっと自分と居てくれる、友達に恥じないように、羨ましがられるように生きてやる。
そう心に、決めた今年の春は、いつもより明るく見えた。




