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温かい家

夕飯の後、アリィはお風呂に入っていた。

肌寒くなってきた空気から、熱い湯が肌に、心に染み渡る。

ドラム缶風呂という簡易な、というより、いかにも貧乏というような風呂。立場が悪い悪魔にとって、何より年頃のアリィにはそれだけでも十分だろう。


「ふぅ…」

ため息をつきながら、アリィはいろいろと思い出していた。


今日会った天使のこと…。

マリアは、実習経験もないのに悪魔消滅を命じられていた。天使学校の教師たちは、もう生徒を駒としか見てないようだ。

「これが天のすることなんだね」

皮肉たっぷりに独り言を呟く。

普通、一般人が状勢の否定、反抗じみたことを言えば、天が罰だといってその人に攻撃するのだが、ここは悪魔の家。結界が張ってあるらしいので、アモスとアリィは愚痴を言ったり、作戦などを立てるときに散々…神でも涙を流しそうなくらい言っている。


そして、お兄ちゃんの背中が脳裏にチラついた。

私は15歳になった。あれから9、10年経つ。

姿どころか、噂も聞いていない。


「…………………いや別に、心配してるわけじゃないから。大嫌いだし。忘れたいのに、6歳くらいまで一緒にいたから記憶が残ってるだけで」

1人でブツブツと言い訳をしていると、ドラム缶を囲っている植木が、ガサッと音を立てた。


「…さっきから気配感じてたから、なんとなく…いや、しっかりと分かってたけどさ、もう出て来たら?」


音がした方を見つめ、アリィはため息まじりに言った。…最近、ため息ばかりついてるきがする。


「だっ…だって、もうアリィおっきくなったし…イチオー遠慮をしてんで…?」

「ふぅーん?遠慮してたら、多分こんなに近くに来ないと思うけどなー」


ガサガサと音を立てながら植木の間から、ステラとミントが出てきた。

アリィはニッコーーーっと二匹に微笑む。


「ア、アリィ、その笑顔はこ、怖い、で?」

「えー。愛嬌ある笑顔だと思うんだけどなー」

棒読みで笑顔を続ける。

ステラは、ハハハ…と苦笑している。

ミントはずっと後ろを向いて、アリィを見ないようにしている。


「ステラはともかく、ミントまで来るとはね。びっくりー」

声に怒りも見え始めた。

「い、いや、ステラが馬鹿なこと言ってたから、やり過ぎないように、見張りを…」

「わ、儂、覗きに来たんとちゃうで!?アリィのちっさい胸なんかキョーミな…」

「え?何?ステラ。聞こえなかったな」

「なんでもないです」

相変わらずニコニコしているアリィの表情と裏腹の声の圧力の重さに、ステラは関西弁が抜けてしまっていた。


「…はぁ、もう。別にステラたちは昔から一緒に入ってたでしょ。今更恥ずかしくなんてないし。寒いでしょ?入れば」


ぱぁっとステラとミントが顔を輝かせ、ピョイッと湯船に飛び込む。

「ぅはぁああああ」

ステラは大きく息を吐き、極楽といった表情だった。

しかし、ミントはまだ恥ずかしそうに、植木をジッと見ている。



「…で?一緒に入りに来たわけじゃないでしょ。最近一緒になんて入ってなかったし。……何の話?」

ミントのサラサラしたたてがみを水で癖をつけて遊びながら、アリィは問うた。


「…うん。アリィのお兄ちゃんの話なんやけど。……話してもええかな?」

「……まぁ、いいけど」


あのな、とステラは話し始めた。




「アリィ、お兄ちゃんに会いとうないか?」






「今日からここがお前の家だ」


そう言ってアモスは、私の頭をくしゃっと撫でた。


全体的に木製の、悪魔の家とは思えないくらい、温かい印象の、アモスの家。

机、椅子、壁などがダークブラウンの色がアモスにぴったりだ。食器棚が黒なのもかっこいい。アリィは、ぐるっと見渡しただけで、この家が好きになった。


ひさしぶりの、家。屋根。

雨風をしのげるだけで、アリィはとても嬉しかった。家にこんなに感謝したことは無かった気がする。当たり前と感じてた。

アモスの家は、リビングの他に2部屋あり、ひとつの部屋は、アモスの部屋。


「もうひとつが、今は散らかっているが、お前の部屋にする」


家の説明をしながら、アモスはその部屋のドアを開ける。


ムワッと、埃の匂いと紙の匂いが混じった空気が開けたドアの隙間から零れでる。

薄暗くて目が慣れるのに時間がかかったが、羊皮紙や本、ペン、万年筆、羽ペン…色んな物が積み重なって今にも崩れそうな山が乗っている小さな机が見えた。

絨毯にも丸めた紙クズが散らばっていた。

掃除しなきゃな、とアモスが言いながら、電気をつける。


「うわぁ…!」

その声は、舞っている埃に対してではなかった。天井に張り巡らされた蜘蛛の巣に対してでもなかった。


壁一面、本棚だった。それも、もう本が入る隙間など埋め尽くされたほどの本の量。ぎっしりと本棚の中でおしくらまんじゅうをしていた。


「すごい…!本がいっぱいある…!」

アリィは、埃がさらに舞うのも気にせず本棚の壁に駆けていき、背伸びをしたり、しゃがんだりして本の背表紙を眺めた。

「ほぅ、本が好きなのか?なんか意外だが」

「大好き!お母さんに、毎晩寝る前に絵本を読んでもらったり、サンタさんからも本をもらったよ!」


でも、そこにある本は英語、フランス語、ドイツ語の本や、見たこともない暗号のような文字もあって、その時の私には到底読めないような難しい本ばかりだった。

でも、厖大な本の量にただただ感動していた。

決して大きくない部屋だが、本棚に余すことなく詰め込まれていた。入り切らなかったんだろうか、本棚の周りにもあちこち本の山ができている。間から抜き取って崩れた形跡もあった。


「っくしゅん!」

「本も、埃沢山被っているだろうな。今夜はリビングのソファで寝ろ。明日片付けることにしよう。とてもじゃないが、今はここには住めん」

アリィの手を引いて、リビングに戻り寝かしつけた。時間的にはもう日の出の時間だが、今日はいろいろとあり過ぎて(深夜にアモスに起こされたのもあるだろうが)疲れたアリィは、アモスがソファに毛布を敷くや否や、バタンと倒れた。ステラとミントは、アリィの横に降り立って、ぽてん、と横になり目を閉じた。


「…寝るのが早いのは、ステラと変わらんな」

リビングの電気を消そうとすると、すうすうと2つの寝息が聞こえ、口元を緩めてアモスは呟いた。

おやすみとミントと交わす。


「こいつが大きくなる前に、いい時代に変わってればいいが」

ふわぁあ、とあくびをしながら、アモスもまた、自分のベッドに寝転んだ。

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