帰宅と説明
「ただいま」
アリィはそう言い、ベージュのソファにポスンと腰掛ける。ステラとミントはアリィの横に寝転び、早くも寝息をたてた。
「おかえり。ロールキャベツできてるぞ」
アモスは分厚い本を読んでいた。
「何を読んでるの?」
「ん?…まぁ、子供に見せるものでは無いな。マルキ・ド・サドなど、外国の本だ。翻訳はしてない」
「…男って暇があればそんなのを見てるの?」
本の内容を知っているアリィは呆れ顔。
「あのな…サドの本は高く評価されているんだぞ?」
「サディズムのもとになった人じゃなかったっけ?」
湯気が出て、美味しそうなパステルグリーンのロールキャベツをお皿に入れながら、アモスと楽しそうに喋るアリィ。
なんてこともない、普通の会話。
しかし、本当に普通の家族だったらどんなにいいか。
「……そういえば、天使に会ったよ。もう天使学校の卒業の時期だったみたい」
先程の天使を消した際に生じた玉をアモスに投げ渡す。
「…そうか」
いくらアモスとの会話がほのぼのしていても、平和とは言えない。
今の神が反省しないと、本当の平和には近付けない。
…もしくは………
「その天使も…可哀想な子だったよ。ほとんど洗脳されてる感じだった。……中身のない、戦争の駒にされてるだけのような子」
もしくは、神を消すか。
簡単に成せることではないけど、天界がこのままだと消すしか方法がない。
「いただきます」
はふはふ、と悪魔の作った料理を食べる。…うん、美味しい。
「…はもふ、ひょーひふまくなっはね」
「食いながら喋んな。そりゃ毎日作ってりゃ上手くなる。…いや待て、何年もツっこまなかったが、ここは女子が作るとか…そんなのは無いのか」
小説とかでも主人公の幼なじみがエプロン姿で作ったりするだろ、とアモスは言った。
「……………………」
「…すいませんでした」
アリィのドン引きした顔を見て、アモスはきまずそうに本に目を戻した。
「ご馳走様。美味しかった」
ものの数分で食べ切ったアリィは自分の部屋へ向かう。居間を出る前に一言、
「アモスは変態なその脳をはやく治したほうがいいよ。そして私の部屋は絶対に覗くな」
アモスにとどめを刺した。
「変態じゃない」
アリィが去った後、ムスっとした顔で本を読みながら、アモスはぽつりと言った。
*
「簡単に説明すると、俺はお前…アリィの契約悪魔…主人のようなものだ。契約者がアリィ。こいつら、ステラとミントはアリィの使い魔でもあるし、俺の使い魔でもある。」
「ツカイマって?」
「アリィや俺に力を貸す悪魔だ。今後役に立つだろう」
「ふーん…」
「俺は、大地の悪魔なんだ。悪魔にも色々な種類があってな…海や風、炎、闇もある。神や天使にも似たようなもんだが、あいつらはその自然のエネルギーやらをプラスのエネルギーに変え、更に電気エネルギーやらに変えて雷などを出す。俺らはマイナスのエネルギーに変える。本当は違いなんかそれだけのことだ」
「ん…うん……」
「…まあ、そのうち分かるようになる。コツとイメージだけ今は覚えておけばいい」
「練習が必要やな!」
もうアリィの膝の上に乗って打ち解けているステラ。ミントも隠れなくなった。
「どうやったら使えるの?もう契約したから使えるの?」
「力は契約に関係無い。そこらへんを歩く一般人も練習すれば使えるぞ。自然のエネルギーは変換しやすいんだ。発電が例にあたる。水力発電は位置エネルギーを、地熱発電は熱エネルギーを変換している」
「へぇ……」
「話がズレたな。俺が大地なら、ステラたちも大地の使い魔だ。こう見えて、ステラとミントはライオンの化身でな。体力を結構消費するが、大きなライオンになれる。その姿が本当の姿なんだが」
「うん」
「アリィや俺は力をそのまま変換して使うこともできるが、使い魔にその力を渡して、更に強力にすることもできる。これは契約者の方が使った方がいいだろう」
「そっか…楽しそう」
アリィは膝の上のステラの頭を撫でる。
「…全然理解してないな」
アモスはあと何回で理解してくれるか、と考えながら、3度目の説明を始めた。