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契約

「…お兄ちゃんを知ってるの?」

ピタッとスープを飲むのを止める。

「……」

「お兄ちゃんは今何処にいるの?…っ!戻らなきゃ!お兄ちゃんがいるかもしれな…」

「お前の兄はもう来ない」


その言葉はベッドから出ようとした私の足を止めた。

「ううん。お兄ちゃんは来る」

そう言って信じてきたんだ。今さら…



「兄は…お前を捨てたんだ」





「…ミント、ステラ。今日も一仕事するよ」

ピリッと人間以外の気配を感じたアリィは少し身構えた。

「「…応」」

2匹は同時に深呼吸し応えた。アリィのスカートが風もないのにはたつく。


『あら。流石にわかっちゃった?まぁ、その方が楽しめるでしょうけど』

突如脳内に女性の声が響く。脳内に直接話しかけられたような感覚。アリィは一層警戒心を高める。


ぱぁっと屋上の空中が光ったと思うと、1人の女性が現れた。

真っ白いベレー帽、真っ白いトレンチコート、真っ白いブーツ…と白づくめの衣装に薄紫のロングヘア。右手には銀の斧を携えている。背中に小さな白い羽が生えているので、天使だと誰が見てもすぐわかるだろう。


「…死神ごっこでも流行ってるの?」

アリィはちょっと呆れた。こんなゴテゴテな衣装、普通の天使はあまり着ない。羽も小さいので新米だろう。

「お黙り!あんな下等生物と同じにしないでちょうだい!貴女を消したらお姉様に認めてもらえるんだから。マリアちゃんと勉強したもの。痛くないように消してやりますわ!」

興奮に満ちた笑みを浮かべて、マリアは斧を掲げアリィに走っていく。


…のせられやすい・天使学校の卒業生・実習経験がない・名前はマリア、と敵に教えたも同然の言葉を聞き、アリィはさらに呆れた。


「…遅い」

ため息をつき、左腕を横に伸ばす。

ステラはアリィの腕に素早く乗る。

マリアは斧を勢い良く振り下ろした。

マリアはそう思っていた。


「…!?」

斧がビクとも動かない。

斧を抑える手は、アリィの手じゃなかった。

アリィの左腕に、3m弱程の青白く光る、青緑のライオンが乗っていた。

マリアはやっと状況を理解し、急いで後方へ引く。が、間に合わなかった。

ライオン…ミントがマリアめがけて細い尻尾を振り下ろす。

軽く当てられたように見えたが、マリアは弧を描いて真っ直ぐフェンスまで飛ばされた。斧はクルクルと回りながらアリィの足元へ滑る。


「うっ……」

マリアはガシャンとフェンスに当たり、痛みより屈辱といった顔をした。

「…何してくれるのよ。貴女たち悪魔なんか、素直に消えればいいのよ!」

コートの胸ポケットから折りたたみ式の短剣を出し、アリィとミントに向かって走る。


学習能力のないそれをミントは、尻尾を首に巻き付け、ひょいっとマリアを持ち上げた。


「ぐっ…な んで…私が負…るのっ…」

ついに負けを認めた天使は苦しそうに、泣きそうになりながら誰かに問う。


「だから遅いって言ったのに。学校でいくら学んでも、テストでいい点が取れても、それを経験に活かさなければ、実力は0と同じ」

アリィは冷たく答えた。

「貴女も…こんな時代に生まれなければ…」


マリアが白い光を放ち始めた。天使が消える前兆だ。

ミントが力を込めた。

「うぅ…かはっ こ…なことしても…いつか……神…まが…悪魔を……」

しゅんっと光がなくなったかと思うと、マリアは消えており、代わりにマリアが居た場所に赤紫の小さな玉が浮いていた。

アリィは左腕を一振りすると、ミントは元の形態に戻った。

玉を取りながら、アリィは2度目のため息をついた。

「もう…ほとんど洗脳よね」

悲しそうな目で言った。


「よし、散歩のつもりが長くなったね、帰ろっか。ステラ。…ステラ?」

返事がないので、ステラを見ると、すうすうと寝息を立てて眠るステラがいた。

「もう…マイペースなんだから」

ステラとミントを抱いて家路につく。



「捨て…た?」

耳を疑った。私を捨てたって…何の冗談…


「…ああ」


ぽすっとベッドに座り、頭の中でいろいろな言葉がグルグルと駆け巡った。


お兄ちゃん…兄はお前を捨てたんだ…待ってたのに…大好きなのに…捨てた…なんで?…私が悪い…お兄ちゃんが悪い…?

やがて涙が溢れてきた。溢れて止まらなくなって、声を押し殺して泣いた。

部屋には私の嗚咽と、降り始めた外の雨しか聞こえなかった。


泣いて泣いて泣き疲れた私はまた眠ってしまったらしく、夜中に悪魔に起こされた。

部屋は薄暗く、ろうそくが13本、3本立てる燭台と悪魔の手に1本あった。

光源はろうそくだけでなかった。

床を見ると、さっきはなかった魔法陣が黄緑に発光していた。

何事かと悪魔に問う。


「お前…天界が酷い状態だと知っているか?」

「え…うん。それで世界が壊れてるってお母さんが言ってた」

「…天界の在り方を元に戻せば、お前の兄に会えるかもしれない」

「…」

「どうした?」

「…夢を見たの。お花畑で、お兄ちゃんと、一緒に遊んでる夢。でも、お兄ちゃんがいきなりどこかに行った。お花も枯れて、寂しかった」

「ああ」

「お兄ちゃんにまた捨てられたくないから、私、お兄ちゃんにもう会いたくない」

「いいのか?」

少しびっくりした様子で悪魔は言う。

「…うん……でもね、天使の世界の事は直したい。皆苦しんでるから…」

「…よし」

悪魔は優しく私の頭を撫でた。優しく笑いながら。

…ずっと、誰かにこうして欲しかったんだ。すごく安心した。


「用意しておいて良かった。お前はこの陣の中に入るなよ」

ろうそくと羊皮紙を2枚持って、悪魔は陣の中心に立った。

「あ、あと言い忘れてたが、俺の名前はアモスだ」


アモスが羊皮紙を陣の上へ落とす。

ゴオッと羊皮紙が燃え散り、ろうそくの火が全て消えた。

人間のアリィでも分かる程空気が変わり、寒気がする。

キィィイイインと大きい音で耳なりがした。


何かくる…!

そう思った瞬間、陣の空中…アモスの目の前に2つの光が現れた。

「久しぶりだな」

アモスが小さく呟く。


『へぇ〜!この子か!なかなか可愛いやん』

『お前煩い』

2つの声は耳鳴りがなる度に聞こえた。

なに…?この声…


「お前ら…契約中なんだから真面目にしろ」

アモスもこの声が聞こえるらしい。

目線の先はあの光。

『まぁええやん』

光が大きくなり、なにかのシルエットの形になった。

光が消えて行き、生物のようなものが現れた。

1つはオレンジのモフモフした生物。

もう1つは青緑のサラサラした生物。


現れるなり、私の方へ飛んできて、嬉しそうに尻尾を振るモフモフ。

照れ臭そうにアモスに隠れるサラサラ。

「儂等は使い魔やねん」

にかっと笑うモフモフ。

ツカイマ…?って何?と目でアモスに訴える。さっきからケイヤクとかなんとか言ってるけど…


「追い追い説明する」

呆れ顔でモフモフを見やり、そう言った。

「そのオレンジのモフモフしたものがステラ、こっちの青緑のサラサラしたものがミント。俺と同じ悪魔だ」

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