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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
複雑な日常と青春
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第八話:アルバイトに費やす青春のある日

 日曜日、今日は近所のファミレスでバイトだ。


 俺はバイト長をしていて、バイト希望者の採用面接をしたりシフト表を作成している。時給は他のバイト生と変わらない。


「あ、店長、おはようございます」


「あいおはよ〜ございまぁす。今日はバイト希望の女の子が来てるから面接してあげてね」


「はぁ〜い」


 女の子かぁ、ちゃんと仕事する人で、すぐに辞めなきゃいいけど。


 というのも、ここでバイトする女子は喋ってばかりでろくに仕事もせず、すぐに辞めていく人が多いのだ。そんな事を考えつつ、その女の子が待つロッカールームに入る。


「お待たせしまし……」


「あー!! 宮下だぁ!!」


「はい、不採用」


 よりによって面接を受けに来たのは無駄に騒がしい仙石原だった。


「はぁ!? まだなんにもしてないじゃん!!」


「いやだってお前いつもうるさいし、喋ってばかりで仕事サボりそうじゃん」


「公私のケジメはちゃんとつけるんですぅ〜」


「じゃあここで働きたい理由は?」


「んとねぇ、車の免許取るお金が欲しいから!」


「しばくぞコラ」


 そう言って入ってきたヤツらがサボってクビになってきたからな。


「えぇ!? なんでぇ!? 立派な動機じゃん!! ってか女の子に暴力はダメだよ!?」


「免許の資金なら他でも稼げるっての」


「じゃあ今から考える」


「いやもういいから帰れ」


 すると仙石原は少し考える間を置いて、流暢に喋り始めた。


「うんとねぇ、じゃあ、ファミリーレストランという空間は老若男女問わずあらゆる世代のお客様に親しまれている場所であり、人々の笑顔が絶えない場所だと思います。私は持ち前の明るい性格でお客様を明るく元気にもてなし、料理のみに満足していただくのではでなく、心も満足していただける仕事をしたいと思い志望致しました!! これでどうだ!!」


「これでどうだ!! は余計ね。はいはい、まぁ良いでしょう」


 というより、正直バイトの面接でここまで立派な台詞が出るとは思わなかった。


「わ〜い、やった〜、愛してるよ!!」


「また軽率にそういう事言う」


「えぇ〜酷ぉ〜い。乙女心が傷ついたぁ〜」


「はいはい。じゃあ制服余ってるから早速仕事してもらうよ。でもその前に接客の基本から練習ね」


 その後、接客の練習やレジの使い方を教えて早速働いてもらうことに。


「そういえば宮下ぁ?」


「ん?」


「ちゃんと毎日ビーズやってるぅ?」


「あぁ、やってる。ってか何なんだよあれは」


「ふふぅん。そのうち教えたげる」


「そのうちって……」


 そのとき、客席の呼び出しボタンが押され、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「じゃあ、最初の一回、行ってくる?」


「うん! 頑張る!」


 俺はレジから仙石原が客の注文を受けているのを遠目で見る。


「お客様お待たせ致しました!」


「おっ! 見かけない子だねぇ。新入りかい?」


「はい!」


「そうかい。頑張ってね」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


「じゃあ注文いいかな?」


 思いの外うまくやっているようで安心した。馴れ馴れしい接客でもしたら後で家でのストレス発散にぶん殴ってやろうかと思ったが殴る理由がない。


「あぁ、宮下もしかして私が馴れ馴れしい接客でもしたら殴ってやろうとか考えてたでしょ〜?」


「あらよくわかりましたね」


「だって、中学の時はイライラした相手なら男女関係なく殴ってたじゃん。私がまだ殴られてないのは奇跡だね!」


「あぁ、ホントに」


 確かに彼女は騒がしくて苦手で厄介だと思うことはあるが、無垢な笑顔を見ると何故か殴る気が失せる。そして何より仙石原のショートヘアで無邪気な顔は可愛い。


「じゃあレジやってみる? 俺が陰で見ててやるから」


「うん! じゃあやってみる!」


「はい。頑張って」


「ありがと! 今日は優しいんだね!」


 うん、やっぱり笑顔は最高の化粧だ。


「俺はいつも優しいよ」


「うわっ! 自分でそういう事言うんだぁ。マジ引くわ〜」


「なっ!?」


「でも分かってるよ私! いつも口数少ないけど、学校の外階段に転がってるカナブン助けてあげてたもんね!」


「うわっ、見てたのかお前!」


 普段大人しくしてる俺は、実は動物や虫が大好きだ。何と言うか、癒される。だから健気でチョコチョコしたカナブンを放っておけなかった。


 こうして今日のバイトは無事終了。俺は家に帰りたくないので苦手な彼女に公園でバイトの事を教えたり雑談をしながら時間を潰す。相手が苦手な人でも正人が居る所に帰るよりマシだ。


「ねぇ? 私のこと名前で呼んでいいよ! 苗字じゃ長いでしょ? オタちゃんにも言っといてね!」


「あ、うん。わかった」


「じゃあ呼んでみて!」


「えと、未砂記?」


 ファーストネームで呼ぶのって、なんか照れくさい。


「うわっ! 好きな人から名前で呼ばれるとドキッとするなぁ!」


「またそうやって公の場で。今まで何回似たような事言ってんだよ」


「んとねぇ、百回くらい」


「はぁ。そんなんじゃホントに好きな人出来た時どうすんの」


「どうするんだろね」


「でも俺も他人の事心配してる場合じゃないか。ってか受験生だし恋愛禁物かな」


「じゃあ私と付き合う?私は専門学校受験だけど、SPIなら少し教えられるよ?」


 SPIとは、主に入社希望者が多い企業で採用される筆記試験問題。リクルートマネジメントソリューションズが開発。ただし、応募が多い会社でも必ずしもこの試験を実施するとは限らない。


「えっ!? マジで!? 付き合うかどうかはともかく教えろ!!」


「ダメ。付き合ってくれなきゃ教えないよ?」


「えっ!?」


 その時の仙石原は少し意地らしい面持ちで、その台詞が異様に似合っていた。

青春っていいですねぇ( ̄▽ ̄;)


でも受験はやだ(´Д`;)

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