第六話:解毒
仙石原さんが教室に入ってきてしばらく、僕たちはイジメについて議論していた。これは仙石原さんが僕を気遣ってのことだろう。
「私さぁ、いっつも思うんだけど、イジメられる原因って何だと思う?」
「んと〜、それは、その人が他と違うから、かなぁ」
「あ〜ぁ、そうかもね。普通と違うだけで攻撃してくる人って多いよね」
「う、うん」
「つまんない人たちだよねぇ。そうやって狭い視界でしか物事見れない人たちって。私はむしろ普通の人なんかつまんないと思うから、個性的で変わってる人の方が好きだな」
「で、でもやっぱりキモいんじゃ…」
「ん? 何が?」
「オタクとか、挙動とか色々…」
「んと、確かに違和感はあるけど、私はオタちゃんをキモいとか思わないよ。それに、そういう人たちも居ないと世の中つまんないよ。それに、オタちゃん居なくなったら悲しむ人だっているよ」
「誰が?」
「ほら、ここにいるよ。あと宮下もね」
今までそんな事を言ってきた人は初めてだった。頭の中の鉛が少し取れた気がした。
「え、そ、そうかなぁ…」
「そうだよ。だから、辛かったら私とか宮下に遠慮なく相談してね。間違っても自殺とかしちゃダメだよ。絶対に」
「えっ…?」
僕が自殺のしようと考えていることなど何故知っている? それとも自殺は定番だから?
「私、泣いちゃうよ? 女の子泣かすなんて最低だからね? オタちゃんが生まれ変わってもまた同じ人生になるように呪いかけちゃうから!」
「や、やめろよ〜」
「ほら、やっぱりそんな事考えてたんだぁ」
「あっ…」
「私に隠し事したって無駄だよ? とにかく自殺はダメ! いいね?」
僕は多分、全てを見透かされていた。一見無駄に騒がしくて子供っぽい彼女は、本当は何か凄い人なのかもしれない。少し話しただけなのに、自殺するのが馬鹿らしく思えてきた。
「でもね、イジメは自分から立ち向かわない限り終わらない。私たちも協力するけど、最後は自分だからね。オーライ?」
「うん、オーライ。今日はありがとう。」
「いいっていいってぇ!! パシフィックガーデン一室でいいよ!」
「は、はぁー!? そんなの買えるわけない! だから女って奴は…」
「冗談だよ! グレートバリアリーフの島ひとつでいいから!」
「そっ、そっちの方が高いよ!」
「えっ? そう? まぁ人生お金じゃないって!」
「いやそれアナタに言いたいよ」
「フフッ、真に受けてるよコイツ…」
「何か言った?」
「ううん、なんでもない! じゃあ島よろしくね!」
「いや、だからそれは!」
こうして僕は一日の終わりを楽しく過ごせた。しかしまだイジメに立ち向かわなければならないのだ。
僕は帰ってから例のビーズを一つだけテグスに通すのだった。
ちなみにパシフィックガーデンとは、海が目の前にある国道沿いのリゾートマンション。サザンオールスターズの楽曲に登場するパシフィックホテルの跡地である。
今回の登場人物にモデルはいませんが、どんな形であれイジメは絶えません。陰口だって立派なイジメです。
イジメられている人で、身近に相談できる相手がいなければ、何か参考になりそうな本を読んでみたり、テレビ番組をみてみるのも良いかもしれません。
自殺はやめましょう。生まれ変わってから同じ人生を繰り返すことになりますよ?