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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
最終章
46/52

第四十六話:『いとしの』『姉妹愛』の裏で

この話は第二十五話『いとしの』と第二十六話『姉妹愛』と連動した話です。

 何もかもが上手く行き過ぎているこの頃、絵里とは一週間に一回だけ僕の部屋に誘い込んで重なり合う。しかし絵里は初めは我慢していたのか、あまり声を出さなかったけれど、二度目以降、馴れてきて僕の行為が激しくなると痛がったり嫌がったりする事が多くなっていた。


 休日、気分転換に近所の緑地や公園を散歩した帰り、住宅街を歩いていると、絵里のお母さんと出くわした。よく絵里の家に遊びに行くから彼女とも顔を合わす事はよくある。


「あら、勇一君、こんにちは」


「どうも、こんにちは」


 互いに愛想良く挨拶を交わした。


「勇一君、いま絵里も末砂記も居ないけど、良ければうちに寄ってかない?」


「あ、はい、じゃあお言葉に甘えて」


 帰った所で僕を待っているのは参考書の山。いつもしっかり勉強しているから今日はもう少しくらい堕落しても良いだろうと思い、家に上げてもらう事にした。


 絵里のお母さんの年齢は見た目と子供の年齢から推測しておそらく三十代半ばくらい。(しわ)一つない、和服の似合いそうな大和撫子だ。きっと娘である絵里や末砂記ちゃんも将来こんな美人になるであろう。


「アイスティーでいいかしら?」


「あ、はい、ありがとうございます」


 リビングのソファーに腰掛け、芝生の庭をぼんやり眺め、絵里のお母さんとアイスティーを待つ。


 しかし、何と言うのだろう、気まずいとも違うし、緊張とも違う、どこかそわそわする。絵里のお母さんと二人だけの空間。


「勇一君、絵里とは上手くやってる?」


「はい、いつもお世話になってます」


「あらあら、そんなに(かしこ)まらなくていいのよ」


「いえ、なんというか、こんな言葉遣いの方が楽なんです」


「そう、なら仕方ないわね」


 すると彼女は立ち上がりこの部屋を出て階段を上って行き、暫くすると少し重たそうな段ボール箱を抱えて戻って来た。それを開けると中にはアルバムが二列に行儀良く平積みされていた。


「これ、絵里が生まれた次の日に撮った写真よ」


 それは病院のベッドで絵里のお母さんが絵里を抱っこしている写真だった。


「絵里ね、生まれてすぐには泣かなかったの。だからやっと初産(ういざん)が終わったのに不安と恐怖でどうしようもなかったわ」


 アルバムのページをめくりながら産後から現在に至る迄を語る絵里のお母さん。母として、娘への愛情が伺える。


「勇一君、何か悩んでる事はない?」


 あらゆる事が上手く行き過ぎている中で悩んでる事と言えば絵里との体の関係だ。しかしそんな事など本人の母親に打ち明けて良いものだろうか。


「なんでもいいのよ?」


 なんでもいいと言われても抵抗あるのが一般的であり僕もその例外ではないのだけど…。いや、(そもそも)そんな事バレてはならないのであって、うん、言えないな。


「いえ、ホントに大丈夫です。今の所は」


 これが妥当な答えだ。きっと。


 それからというものの、絵里のお母さんには同年代とは話しにくい大人だからこそ出来る話や悩みを聞いてもらったり、時々は僕が聞いたり、そういった相談相手としての関係となり、絵里のお母さんではなく、個人として、よし江さんとして接するようになった。ちなみに絵里のお母さんであるよし江さんは自分の名前が気に入らないらしい。


 この名前は彼女の父親の名前『義一(よしかず)』を引き継いだもので、女子に『義』の字は付けにくいという理由で『よし江』となったそうだ。もしかしたら父親と仲が悪いのだろうか。そこまで聞き出すのは釈に触るから止めておこう。


 彼女と接していると、僕の日常とは少し違った上質な世界を垣間見る事が出来てそれが楽しい。僕はそんな彼女をもっとよく知りたいと思うようになり、自然に恋人の絵里と居る時間よりよし江さんと居る時間の方が日増しに長くなっていった。


 ある雨上がりの午後、僕は絵里とのデートの後、よし江さんと二人で横浜の元町を中心に散策する事となった。


 この近辺は中華街やブランド品の店が立ち並んでいるのだが、横浜地方気象台の横を通る階段状の坂を下ると、一日二十杯限定の鶏肉が入ったラーメンを出している店がある。この鶏肉が正に頬が落ちる美味しさなのだ。本当に美味しいものを食べると自然と笑顔になるのは本当だ。僕は横浜にはあまり詳しくないのでこの隠れた名店を案内した。


 ラーメン店以外は全てよし江さんのリードで終わった横浜巡り。気が付けば終電間近の時間だ。公園からベイブリッジを初めとする夜景を少し眺めこの場を去る。


 この時間がずっと続けば良いのに。


「今日は楽しかったわ。ありがとう」


 僕に微笑みかけるよし江さんの表情はどこか絵里を思わせる。絵里のあの笑顔は母親譲りなのか。


「いえ、僕の方こそ」


「良かったら(うち)に泊まっていかない? 家に帰っても誰も居ないのよね?」


 迷惑ではと遠慮しつつ、結局泊めてもらう事になった。仙石原家の姉妹が二階の子供部屋ですっかり寝静まったと思われる頃だった。周囲に騒音は無く、家の中に響くのは僕ら二人の、夜中だから忍ぶような足音だけだった。


 それからはリビングで白ワインと赤ワインを一本ずつ開けた。赤の方はアルコール濃度が濃いらしいが少し高価で熟しているので頂く事にした。ちなみに日本では常識だが未成年の飲酒は禁止されている。


 アルコール濃度が高いせいか、飲んでいるうちにどんどん気分が軽くなっていく。右隣にはよし江さんがどこか寂しそうな表情でソファーの向かいにある窓を見つめていた。軽くなった僕の心を彼女の切ない瞳が引き寄せる。


 ◇◇◇


 娘、絵里の彼氏である川越君とワインを飲んでいたらいつの間にか眠ってしまい、気が付けば朝になっていた。


「あれ?」


 寝ぼけていた気を確かにすると、私と川越君の着衣が乱れていた。


「うそ、これって…」


 何て事をしてしまったのだ。娘の彼氏とそんな事を? しかし記憶がない。酔ってしまった勢いでそんな事をしてしまったのか。私はとりあえず服を服装を調え眠っている川越君を起こす。


 ◇◇◇


 朝、よし江さんが慌てた様子で僕を起こした。


「川越君、あの、早く服着て!」


 見ると僕の着衣は乱れていて、昨夜のままだった。そう、僕は酒に酔った勢いでよし江さんを襲ってしまったのだ。彼女も酔っていたらしく最初は抵抗したが、こちらの流れに引き込むのは容易だった。


 服を着てよし江さんと話してみると、どうも昨夜の事を覚えていないようだった。僕も途中の記憶が所々抜けている。だが絵里が嫌がるので欲求不満だった僕にはとても幸せな時間だった。これも例のビーズの効力なのだろうか。


 だが流石に恋人の母親とそのような関係を持つのはまずい。だから次の恋人を探そう。きっとこれまで有り得ない程のミラクルを起こしたこのビーズが引き寄せてくれる。


 そして次の恋人、いや、そう呼ぶには語弊があるが交際相手はすぐに見付かった。まだ絵里との別れ話は切り出していない。


 それは高校に入学して間もない頃から好きだった絵里と別れるのが惜しいというのもあるけれど、よし江さんとも会えなくなるからだ。それに絵里の妹の末砂記ちゃんとも一緒に遊んであげられなくなるのはやはり惜しい。とりあえず暫く黙っておく事にしよう。

3月22日以来の更新です。仕事で更新が遅れましたがちゃんと完結させます。非常事態が起こらなければm(_ _)m

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