第四十一話:ROOT(ルート),それはあの夜から
夜、私は喫茶店で軽食をしながら小田君に相談に乗ってもらう。
小田君とは同じ小学校に通っていて、高校生になった今でも当時の生真面目さはそのままで親身に話をしてくれる、私の中であらゆる面に於いて最も信頼出来る人となっていた。
「でも初めて聞いた時は驚いたなぁ、そんな繋がりがあったなんて」
「そうだよね。私も小田君がやってるって聞いた時はびっくりしたよ」
小田君や宮下君、大甕さんまでビーズをやっていたなんて。今回はみんな良い人のまま変わらないでいてくれて良かった。本当に良かった。
私が事実を伝えなければならない相手、それは小田君達三人にビーズを配った仙石原さんだった。
そう、仙石原さんよりも早く、ずっと早くビーズのセットを手にした。と言うより、私のあの時の出来事からそれが広がった。
ビーズには人を幸せにする力がある。それは既に三人にも知らされている。
私がこのセットを手にしたのは今から八年前の空気が乾燥して星が綺麗に見えた冬の夜の事。バイオリンの稽古を終え、帰宅途中に駅近くの路地裏をバイオリンの入ったケースを片手に、この場所の空気と夜の暗さが怖いので少し早歩きしている時だった。
「ちょっとお嬢さん?」
パイプ椅子に座り、机に水晶玉を置いた占い師らしき老婆が小学四年生の私を呼び止めた。
「はい?」
私はピタッと立ち止まって老婆に視点を合わせた。こっちへおいでと手招きされるまま、私は水晶玉が置いてある机の前まで引き寄せられた。
「こんな時間までお稽古かい?」
「はい、バイオリンをやっています」
すると老婆は私に自宅の住所を書いて欲しいとメモ用紙をしわしわの中三本の指でテーブルに滑らせ私に差し出した。最初は知らない人に住所を教えるのは危険かもとそれを丁重に拒んだけれど、住所を教えてくれれば私や私の大事な人が幸せになれると言うので、何となく悪い人ではなさそうな老婆を信用して住所を書いてしまった。それ以降、私がその老婆に会う事はなかった。
◇◇◇
数日後、私の元に宅配便でやや大きめの段ボールに入った差出人不明の荷物が届いた。箱を開けてみると、中には約二十センチメートル四方の蓋を被せるタイプの箱が幾つも入っていた。その箱のうち一つには小さな封筒に入った手紙がセロファンテープで貼り付けられていた。小箱を開けると中にはチャック式のビニル袋一杯に入ったビーズとテグスが入っていた。
この手芸用品らしき物が何だか解らないので、とりあえず手紙を読んでみた。
手紙の内容は、この手芸セットで一日一粒ずつテグスにビーズを通して何か好きな物を作ると、一言で言えば、幸せになれるという非科学的で信じるに抵抗のある内容だった。しかしこうも書いてあった。このビーズ細工を作っている途中でそれを投げ出したり壊したりしたら、これまでにない不幸が訪れる事、もし誰かにそれをプレゼントして、その相手が悪人だと周りの人々や関係ない人々まで不幸になる。と。