第四話:ある春の日
僕の名前は小田博文。通称“オタちゃん”。部活は鉄道研究部。好きな車両は以前に東海道本線や横須賀線で活躍していた113系。小さな頃に踏切まで電車をよく見に行くようになってから現在に至るまで、鉄道にハマッっている。これを世間では“鉄”と呼ぶのだろうか。
僕は宮下君同様、クラスメイトの仙石原さんから言われてビーズ細工を作るようになった。高校生といえば、恋愛に情熱を燃やす人が多いと思う。しかし僕はなかなか異性に興味を持つことができない。宮下君にも不思議がられるけど、ホントに興味がない。
◇◇◇
話は今春に遡る。
「あれ? キミ、オタちゃんって呼ばれてる人だよね?」
「う、うん、そうだけど…」
「私、大甕浸地。未砂記たちと部活でバントやってるんだぁ。よろしくね!」
「お、オオミカヒタチ!?」
「そう。電車の運転士やってるお父さんが鉄道好きで、大甕っていう駅を『ひたち』っていう特急が通るからこんな名前にね。子供に一生付き纏う名前だってのにそんな軽率に決めちゃって」
「ハハハ、ま、まぁ…」
「でさでさぁ、オタちゃんも未砂記からビーズセット貰ったの?」
「あ、うん」
「実は私も前に貰って作ってたことあるんだよ!」
「え、じゃあこのビーズの意味知ってるの?」
「うん! まぁね!」
「ど、どういう意味があるの!?」
「うぅ〜ん、それはいずれ未砂記から聞かされると思うよ!それまで頑張って作り続けるんだよ!絶対サボっちゃダメだよ!」
「あ、はい」
それにしても何なのだろうか。このビーズの意味って…。
しかし、僕にはそんな事を気にしている余裕などなかった。