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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
最終章
38/52

第三十八話:それは突然に

 日曜日、冬休みは明日で終わり。それは未砂記との生活に終止符を打つ事を意味していた。半年弱の同棲生活は、俺にとって色々な意味での我慢と、この上ない幸福に満ちた生活だった。


 未砂記の部屋に仕舞ってあるビーズ細工は、いつの間にかウジャウジャという表現が出来る程に増えていた。これは俺の家に持ち帰る。今の俺には何と無くこのビーズの意味が推測出来るが、その結論に自信が無い。


 ◇◇◇


 ガクンッ!!


「こらっ! 何ボーッとしてるんだ!」


「うゎぁぁっ、すんません」


 俺は今、普通マニュアル自動車の教習中で、運転しながらあんな事を考えていたらコース内の上り坂でエンストを起こし、助手席に座る教官に怒られた。そして車は坂を後退していた。


 俺は咄嗟(とっさ)にサイドブレーキを引いて停止させた。この時、教官が助手席のブレーキを踏まなかったのは何故だろう。


 マニュアル車なんて、トラックとかバス以外には殆ど無いよなぁ。未砂記みたいにオートマにしても良かったけど、高校のクラスの男でオートマの奴二人しか居ないし、教習所でオートマ用の原簿を持ってる男は一人しか見た事ない。浮くのがやだ。典型的なブラッドタイプ(オー)の思考だ。例えて言うならマニュアル教習は、平成の子供がそろばん塾に通ってる様な感覚だろう。でもそろばんは頭の体操になるか。


 いや、でもそう考えればマニュアルだってきっと何かの役に立つ筈だ。バスの運転士になりたいと思った時に大型二種が取りやすくなるとか。でも俺にはあんなでかい乗り物を人や自転車が飛び出す路上で動かす度胸ねぇな。


 小さい頃はスヌーピーとその仲間達が描かれたリクライニングシートにテレビ付きの豪華な路線バスに憧れた。あれが来た時は心躍ったな。いや、今でも元スヌーピーバスが来ると得した気分になる。普通のバスと運賃一緒だし。あれ? バスかっけぇ?


 いやでもあの頃はへールポップ彗星が接近して、将来は天文学者になって新しい星を見付けるとかいう夢もあったなぁ。あと高知県の中村に行って昆虫学者になりたいとも思った。


 子供はえぇのぅ、色んな夢があって。あんれ(あれ)? そういえばオーストラリアに行ってカンガルー見るって夢もあったなぁ。でもそれは叶ったか。オマケに十分(じっぷん)十回(じっかい)以上流れ星見れたし。


「ほぁぁっちょっちょっちょっちょっ!! そこそこっ、そこ左っ!」


「あらま、すんません」


 またボーッとしていた。


 未砂記の家に戻り、ネコとソファーで庭を眺めながらウダウダする。何度も説明するが、ネコという名前の猫だ。あまり懐いていないが登録上の飼い主は俺だ。


 しかし俺は本質的に動物が好きなので、近付いてもネコは逃げない。不機嫌だとたまに逃げるけど。ちなみに動物が嫌いな戸籍上俺の父親である正人(まさと)が近付くと逃げる。心が読めるのか、はたまたオーラを読み取っているのか、どちらにしろこの社会で汚された人間にとっては常識を超越したものだ。


 逆に言えば、汚れ無きものには普通に出来る事なのだろう。子供に幽霊や妖精が見えるというのも、子供には汚れが少ないからだ。実際に俺は五歳の時に自分や母親、妹が川の字に三つ並べて寝ている布団の上を右往左往しながら駆ける幽霊だかお化けを見た事がある。その時は金縛りやソイツに俺が起きている事を気付かれるのを恐れ、怖くて思い切り目を閉じた。


「可愛いね、ネコちゃん」


「うぉあっ!」


 びっくりした〜、背後に未砂記が立ってたぁ。


「私、別に脅かしたつもりないよ。またボーッとしてたんだね」


「はい、おっしゃる通りです」


 未砂記と過ごす最後の夜。


 まぁ最後かどうかわからないが、俺は素直に淋しい気分だった。冬休みが終わり、社会人になって、これからは未砂記どころかネコを含む家族や友達にすら会えない。俺が内定した会社は日本の広域に支社があるが、なるべくこの近くに配属して欲しいものだ。そんなこんなで色んな事を考え過ぎて不安で一杯だ。


 俺は未砂記の部屋に入り、今日もテグスにビーズを通した。そろそろこのテグスも一杯になるから次のを用意しようかな。


「優成ぃ」


「うわぁっ!」


 また背後で未砂記が俺を覗き込んでた。


「今度はなんか考えてたんでしょ〜」


 見透かされていた。コイツすげぇなぁ、俺だけじゃなくて、他の人の心理も見事に見抜く。心が綺麗なんだなぁ、子供並みに。フッと笑みを零してしまった。


「あっ、何その人を見下すような視線。私の事馬鹿だとか子供みたいだとか改めて思ったでしょ」


 あぁ、これはいかにもって顔しちゃったから判るよな。


「流石ですねぇ、未砂記様ぁ」


 すると急に未砂記がハハハと笑い出した。


「やっぱり!? 私天才だからね!! 人の心を見抜けるのだよ。ホッホッホッ!!」


 俺の思惑通り、未砂記は調子に乗った。ホッホッホッと言う声は、漫画やドラマに出て来るセレブのオバサンの笑い声と言うより、まるで何かの博士のお爺さんのような声だった。


「優成? ビーズは明日まででいいよ。だから今夜抱き合いながら、ビーズの意味、教えてあげるね」


 えぇぇっ、あぁぁ、そのぉぉぉ、俺はどういう反応をすれば…?


 思わず顔が引き()った。


 それはあまりにも唐突だった。近々教えてくれるとは言っていたけど。


次回、いよいよあのビーズがどんな物なのか公開です(・∀・)





優成がボ〜ッと考えてたス○ーピーバスを知ってる方、神奈川か東京南部在住の方ですね!?

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