第三十三話：聖なる夜に
進路の事でドタバタした秋がいつの間にか過ぎ、季節は冬。俺も未砂記も進路が決まったので、クリスマスはフリーダムだ。クリスマスのブルースでも一曲作ろうかな。
俺の家の改修工事も終わり、三学期が始まる頃にはまたアイツを除く家族との生活が始まる。
「ぐはぁ～、マニュアル難しい」
俺は就職する事になり、早めに車の免許を取らなければならないので、ほぼ毎日教習所へ通う日々が続いていた。
「男はマニュアルだとかクールに言ってたくせにぃ」
「うぜぇ！！ このオートマ女！！ 見てろよ！？」
「何を見てればいいのか分かんないけど、良かった」
未砂記はホッとした笑顔で言った。
「何が？」
その表情で俺に目を合わせた。
「優成さぁ、前より明るくなったよね」
「え？ そう？」
「うん！」
そう言われてみればそうかも知れない。少し肩の荷が軽くなったような感覚はある。本当なら今頃、社会人になるにあたっての不安と憂鬱で一杯であっただろう。まぁ全くないといえば嘘、というより大アリだ。二年前のクリスマスにも思ったけれど、未砂記には人を元気にする力があるのだろう。
今日はクリスマスイヴなので二人で横浜に来ていた。ランドマークの展望台は六十分待ち、プラザでのコンサートはギャラリーが多過ぎて出演者が見えない。立ちっぱなしで次第に腰が痛くなってきた。
ただ穴場の夜景スポットを知っていたり、たまたま通り掛かった所でやっていた大道芸を見れたので、それなりに楽しめた。
そして俺は思っていた事を口にした。
「ぐはぁ～、腰痛い」
未砂記は呆れた表情をした。
「疲れるの早いなぁ」
「でも楽しかった」
未砂記と付き合う前の俺の生活といえば、ただ目の前の課題に追われ、その課題が終わってもまた次の課題が来る、その繰り返しで毎日が憂鬱だった。課題は今でも山の様にあるが、少し力を抜いても良いと彼女が教えてくれた。
未砂記の家に着いて、ビーズを一粒通し、さっさと風呂に入り、窓際の庭に出れる、ちょうどクレ〇ンし〇ちゃんの火燵のある部屋、つまり、リビングのような間取りの部屋にソファーと横百五十センチ、縦五十センチ程のテーブルがあり、ここで少しワインを入れる。こんな同棲生活も、そろそろ終止符を打つ。
「ねぇ優成、今度二人でクリスマスを過ごせるのはいつになるだろうね」
そうだ、俺は来年就職してしまう。クリスマスをこうして二人で過ごせるとは限らない。そう考えると淋しい。俺がこんな気持ちになるなんて、彼女の存在は、いつの間にかこれほどまでに大きくなっていた。
「さぁな、でも来年も一緒に過ごしたい」
何かもっとうまい言葉はないのか？ キレの良い頭脳も語彙力もない俺には、これが一瞬で思い付く精一杯の台詞だった。そもそも一瞬で返事をする必要もない、少し間を置いても構わないのだろうが、気持ちが焦ってしまった。
「うん！ そうだね。私も一緒がいいな」
今宵はクリスマス、未成年なのにアルコールが体内を駆け巡っている、部屋は薄暗い、そんな条件が揃ってか、まがい物の俺も素直な気持ちになれた。すると俺の体は自然に未砂記に寄り添い、抱き寄せていた。
「優成ぃ、二度目だね、こうしてくれるの」
「あぁ」
一度目は、末砂記が俺に気持ちを告白してきた時、衝動的に抱きしめたことがあった。詳しくは第九話で。
「Ｍｅｒｒｙ Ｃｈｒｉｓｔｍａｓ 未砂記？」
「Ｙｅｓ，Ｍｅｒｒｙ Ｃｈｒｉｓｔｍａｓ 優成。でも、初めてだから優しくしてね」
同意を得た俺は、未砂記が纏っている衣を、詳細は公開出来ないが抱き合いながらゆっくり剥がしていった。彼女の華奢な二の腕は、もう少し強く抱きしめたら壊れてしまいそうな感触だった。
やべぇ、可愛すぎる。
未砂記の一連の動作は初めての割にかなり積極的だった。
「あ～あ、傷付いちゃった」
１８歳で傷付いてないのは割と珍しいと思う。しかし男は処女好きが多い。
「お前も楽しんでたろ？ お陰で首筋と下が」
「だって、ずっと好きだった人にやっと抱いて貰えたんだから嬉しいじゃん？」
そっか、コイツ、ずっと俺の事を。
俺なんかの何処が良いんだか。と、つい自虐してしまう。
「ねぇ、優成は今、幸せ？」
重なり合ったまま天井を見つめる未砂記が、小さな谷間に埋もれて何も見えない俺に言葉を掛けた。その時少し彼女の鼓動が早くなった気がした。
「あぁ、今までない程に」
幸せな事ばかりとは行かない事は容易に想像がつく。またきっと何かが襲って来るのだ。でも二人ならそれと闘い、乗り越えられる。
「続けよう、ずっと」
「うん！ 優成の事、幸せにするよ？」
それはこっちの台詞だ。情けないな、俺、女の子にそんな事言われるなんて。
「俺も、未砂記の事、幸せにするから」
未砂記は微笑した。
「私は今でも十分幸せだよ？」
「じゃあもっと幸せにする」
すると未砂記はしばらく黙り込み、滑ったかな？ とか考えて気まずくなったと思った時、その華奢な腕で力いっぱい、けど少し力が抜けた感じで抱きしめられた。ふと顔に目をやると、いつも元気な彼女から、やや大粒の涙が溢れ出ていた。
クリスマスに更新する予定だったのに(´Д`；)
「Christmas in Australia」の製作で目一杯でしたm(_ _)m
という言い訳。
