第二十九話:こうして私は
「ねぇ、なにそれ?」
「償うための道具だよ」
彼は缶の蓋を開けると、中身の液体を自身の足元に撒いた。
この臭いはまさか…。
「これで許してもらえるなんて思ってない。けどこれしか思いつかなかった」
缶の中身は灯油のようだ。彼の手は震えていた。そしてその手でポケットからライターを取り出した。
「本当に悪かった」
「本気なの? 本当にそんな事する気なの?」
その時の私は至って冷静だった。
そして彼は、手を震わせながらオイルのかかった足に着火した。
「うぁぁぁぁ!!」
火はすぐに彼の下半身全体に広がった。苦しむ彼を見て私はふと我に戻った。
「だめ!! 死んじゃだめ!!」
「いいんだ! 君の絵里の、君の姉さんの苦しみに比べれば!!」
「だからって、あなたが死んだってしかたないの!! 早く海に入って!!」
「…」
応じないので上半身にも火が回った彼のまだ無事な手を私は無理矢理海へ引きずり込んだ。
彼は下半身に大火傷、上半身に軽い火傷を負ったが一命は取り留め、近くの病院に入院した。
「どうして僕なんかを助けたんだ?」
「だって、死んだって姉貴に謝罪したことにはならないから。本当に悪いと思ったなら、ちゃんと生きて姿勢を見せて欲しい」
「君、小学生なのに立派だね。分かった。頑張ってみるよ」
私は誰も居ない家に戻り、なぜかふと自分の部屋の机の引き出しを開けた。開けてみるとそこには身に覚えのないビーズのセットが仕舞ってあった。
「なんだろ?」
そのビーズのセットには手紙が付いていた。これは姉貴からのプレゼントらしい。早速その手紙を読んでみる。
「未砂記へ。このビーズには不思議な力があります。少なくとも私はその力を実感しました。それは……中略……でも、もしこのビーズで作った作品を壊したり無くしたりしたら…」
私はこのビーズに秘められた凄い力と、それに伴う絶大なリスクを知った。だからこのビーズを誰かにあげる時は絶対に信用できる人に限って渡すと決めた。
◇◇◇
あれから七年経った現在、彼は会社員として働いているという話を姉貴の友人から聞いた。しかし、もう一人の不倫の張本人である母は未だ消息が掴めないままだ。
舞台は現在に戻り、優成と二人きりの思い出の公園。
「ってのが私の過去かなぁ…」
「うわぁ、なんだか俺の現況なんか屁でもないな」
「そうかな? まぁ背負ってるものは人それぞれだよね!」
◇◇◇
俺のカノジョ、未砂記の過去は俺の近況に比べればかなり壮絶だ。こんな過去があるなら性格が暗くなるどころか人間不信にも成り兼ねない。しかし、少なくとも彼女は俺と知り合った六年前、中学一年生の時から現在に至るまで人一倍明るい性格に伺える。そして個人的に一番気になるのは口数少ない俺なんかを何故好きになったのだろうか。
「あのさぁ、未砂記ってなんで俺のこと好きに…?」
「好きになったからだよ!」
即答! でも答えになってないような…?。
「いや、だからなんで…」
彼女は少し困った顔をした。もしかして俺の事好きじゃないのか?
「う〜んとねぇ、好きになることに理屈なんか要らないよ。でも敢えて言うならちゃんと私の相手してくれるからかな」
「えっ、未砂記、色んな人と話してんじゃん。」
俺がそう言うと、彼女は再び困った表情になった。何かまずかったのだろうか。
今回は文字数調整のためにひとつの話の中に色々詰め込み過ぎてしまったような気がします。
もっと上手く編集出来るよう努めますm(_ _)m