第二十八話:クッキー
夏休みがそろそろ終わる。父親は仕事のために赴任先の大阪へ戻った。家に残ったのは私だけ。この頃、ようやく姉貴がいなくなった実感が沸いて来て、孤独感に浸り始めていた。
私、独りぼっちになっちゃったんだ…。
そんな私を励ましに友達のヒタッチと海老名が来てくれた。
「仙石原、お前は独りぼっちじゃないからな」
「そうだよ。私たちが居るからね」
「うん! 大丈夫だよ! ありがと!」
強がるしかなかった。でも友達の存在は本当に心強かった。
そこで私は、二人に姉貴のクッキーを勧めた。
「これ、姉貴が焼いてくれたクッキーなの。良かったら食べて」
「でも、これがお姉さんの最後のクッキーなんだよね?」
「なんだか食べるの悪いきがするな」
「ううん、一人じゃ美味しいうちに食べ切れないし、姉貴もみんなで食べてもらったほうが嬉しいと思うから」
「うん。分かった。じゃあ、いただきます」
「おう。いただきます」
三人は同時にクッキーをかじった。
「このクッキー、優しい味がする。未砂記への愛情がいっぱい篭ってるんだね」
「だな。なんか俺も泣けてきた…」
私はその瞬間、クッキーの風味に刺激され一気に流せなかった涙が溢れ出てきた。
「姉貴…なんで…なんでよぉ…」
その泣き方は、感情を表に出しやすい私にしては静かだった。
「未砂記…」
「へっ…!?」
浸地は私を抱き寄せ、頭を黙って撫でてくれた。少し気分が落ち着いた。
「未砂記、こんな事しか出来なくてごめんね。」
「せ、仙石原? 俺の胸で泣いてもいいぞ?」
「エッチ」
なぜかその一瞬だけ涙が引いた。
「何? その反応…」
夜、二人は帰り、私は再び独りぼっちに。その時、家の電話が鳴った。
「はい、仙石原です」
「未砂記ちゃんだね?」
姉貴の元カレだ。
「あんたと話す事なんかないから」
「海に来て欲しい。謝りたいんだ」
「そんな事言って、私を殺す気?」
「違う。ただ、未砂記ちゃんに直接謝りたいんだ。だから」
私が殺されれば、姉貴にすぐ会えるかな? そんな気持ちで私は海へ向かった。
夜の海は昼とは一転、波の音が聞こえるだけ。周囲は霞みがかっていて、灯台の光が僅かに届く。
「未砂記ちゃん…」
姉貴の元カレは待ち合わせ場所にどんよりした立ち姿で居た。右手には何か長方形の缶を持っていた。私は息が止まりそうな緊張感で近寄った。
「何? 今更」
「君のお姉さんが死んだ原因にはきっと、僕等の愚行が含まれてる。だから、妹の未砂記ちゃんの前でその罪を償おうと思った」
「そんなこと言ったって、姉貴はもう戻って来ないよ」
「分かってる」
そう言うと彼は缶の蓋を開けた。中身は何?