第二十一話:本能はネコにも俺にも
今回は単純な話ですm(_ _)m毎回複雑な内容だと暗い物語になりがちなので…
今夜は未砂記の家にお泊り。たった二人きりの空間。
深夜、そろそろ寝ようと未砂記は俺を自分の部屋に誘った。俺は座っているソファから立ち上がるのを戸惑った。
「どうしたの?」
「いや、俺、このソファーで寝ようかな」
「じゃあ私もここで寝るぅzzZ」
それじゃ意味ないんだって!
「いやいや付き合い始めて間もない若い男女が一緒に寝るのは…」
「あっ、またエッチな妄想してる」
ニヤリ、未砂記が俺の心を読み取って少々嬉しそうだ。
「妄想じゃ済まないんだよ! 本能が妄想を現実にしちゃうんだよ!」
「きゃ〜、こわ〜い」
こわ〜い、の後に何か言いたそうな、やる気ない口調は、明らかに俺をバカにしている。
「今日、アレ持ってないから尚更ヤバイんだよ」
バカにされて内心半ギレの感情を抑えながら、アレがない事を告げた。
「そっか〜。分かった。じゃあ私は部屋で寝るよ」
未砂記はどこか淋しげな表情だ。
「あ、うん」
「じゃあねぇ。おやすみんみんぜみ〜」
「ミンミンゼミ?」
「そう、ミンミンゼミ! じゃねっ!」
「じゃあ」
未砂記は二階の部屋へ行った。それにしてもあっさり引き下がったなぁ。悪い事しちゃったかな。
◇◇◇
やっぱり私の事好きじゃないのかな? 事件に巻き込んだからって嫌々付き合ってんのかな? 屋根裏で一緒に星見たかったな。おやすみのキス、したかったな。
午前三時、部屋に戻って三時間。私は眠れずに彼の事を考えていました。
優成って、どんな女の子が好きなんだろう? ミンミンゼミみたいに活発な私より、切なく鳴くヒグラシみたいな子の方が好きなのかな? 優成の元カノって、二人とも大人っぽいから、そういう子のほうがいいのかも。
◇◇◇
午前八時。
「ふぁぁぁぁ」
優成は、未砂記の事を考えてムラムラしたり、いっしょに寝なかった罪悪感に浸りつつも、いつの間に眠っていた。
未砂記は優成が眠っている間に布団をかけてくれていた。
「未砂記?」
優成が起きてキッチンを覗くと、未砂記は朝食を作っていた。夜、追い払っちゃったのに本当に悪いなという罪悪感が一層増す優成である。
「おはよ。もうちょっとで出来るから待っててね!」
「布団、サンキュー」
「あっ、ごめん! 暑かった?」
「ううん。んな事ないよ。ホントに」
また優成に恩着せちゃったかな? 熱帯夜に掛け布団なんて余計だよね。未砂記は蒸し暑い熱帯夜に自分の余計なお世話を悔いた。
◇◇◇
「出来たよー! 食べよー!」
「うん。あっ、目玉焼きなら俺でも作れるよ」
パンに目玉焼きとベーコン、そしてスクランブルエッグ。卵料理が二つというのは疑問だが、末砂記が心を込めて作ってくれた。それは伝わって来る。
「マジで!? じゃあ今度作って!」
「うん。目玉焼き作れるって驚くほどでも…」
「じゃあ食べよ!」
「いただきます。」
「いただきます!」
未砂記が作る料理はどれも温かい味がする。冷めた俺を包み込んでくれる優しい味。
「未砂記、色々してくれてありがとう。あと昨日の夜はごめん」
「いいよ! 夜の事は! 私が魅力的過ぎるのがいけないんだから!」
とっさにそんな事を言えるのが凄い。俺だったら自分が魅力的だのカッコイイだの言えない。まぁ、とりあえず許してもらえたのだろう。
午後、俺と未砂記は予定通り動物病院からネコを引き取りに行った。前にも言ったが、『ネコ』は固有名詞だ。うちの猫の名前だ。実はこの猫は捨て猫で、俺と妹で拾ってきた。語る事は沢山あるがそれは別の機会に。
未砂記の家に戻って早速ネコを籠から出した。此処と俺の家は近い。猫は家に執着するというから工事中の俺の家に行かないか心配だ。
「ゥヤーッ! ゥワーン! ォワ〜ン」
初めての場所だから落ち着かないのだろうか。ネコは俺に何か訴えてきた。とりあえずネコに自分の顔を近付けてみる。そして目と目を合わす。
ネコは目を逸らした。
頭を撫でてみる。
ネコは目をつむった。
「こんにちは〜」
ネコに話しかけてみた。
ネコは何も答えずその場を立ち去った。
「ダメだなぁ〜、飼い主さん。ネコちゃんの事分かってないなぁ〜」
「あぁ?」
食ってかかるように返事した。
未砂記はネコに近寄って話しかけた。
どうせ未砂記だって分かってないだろが。
「ネコちゃ〜ん」
未砂記はしゃがんでネコに顔を近付けた。
ズリズリ…。
ネコは未砂記の顔に頭をズリズリした。
…?
未砂記とは初対面の筈…。
俺とは付き合い四年目の筈…。
…!
…?
いやいや…。
優成は混乱した。
「ゥヤーッ」
ネコは何やら未砂記に話しかけた。
「にゃー!」
未砂記はとりあえず返事をした。
ズリズリ…。
俺もネコに話しかけてみる。
「にゃー」
…。
しかし何も起こらなかった。
俺の中で何かが崩れた。
「落ち込むなよ優成ぃ! 大丈夫だよ! ネコちゃん別に優成のこと嫌いじゃないって!」
「ありがとう。その言葉だけでも嬉しいよ」
素直になれずにいられなかった。そして、哀しかった。
◇◇◇
気が付けば夜。
そういえば俺たち受験生なのに勉強してないな…。
そんな事を考えながらアリに家をやられて未砂記の家に荷物を預ける際にニッセンで注文したタンスの上ではネコが尻尾を垂らして黄昏れていた。ニッセンとは無料配布のカタログのことだ。
そのタンスからアンダーウェアを取り出すべく尻尾をよけて引き出しを開け取り出す。そして閉める。
「フシャーッ!」
ガブッ!
「うひゃーっ!?」
「どうしたの!?」
未砂記が隣のリビングから駆け付けた。
フシャーッ! から、うひゃーっ!? までは一秒足らず。
また俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
どうやら引き出しを閉めた時にネコの尻尾を挟んでしまったようだ。
「うわっ! 優成! 右手!」
ポタッ…。
「あ…」
相当強く噛まれたため、俺の右手からは血が滴り落ちていた。
ドタッ! シャンシャンシャンシャンシャン…。
ネコはタンスから降りて鈴の音を鳴らしながらその場を立ち去った。
「あの猫野郎…」
「逃げちゃったね。手当てしてあげるから先ず手洗って来て!」
さっそく手を洗い、未砂記に傷の手当てしてもらう。
「いでっ!」
消毒液が傷に染みる。かなり深くやられたか。ネコめ、後でいっぱい可愛がってやる…。
「あぁっう!」
「変な声出さないの! 男の子でしょ?」
男とかカンケーねぇ、痛いものは痛い。
◇◇◇
夜が更けてもう深夜。
今夜も成り行きでこの家に泊まる事になった俺は、石鹸が染みるのを我慢しつつ風呂に入り、いつも忘れそうになるが、ビーズを一粒通してから屋根裏部屋で星を眺め、家に置いてあるワインを白と赤を一本ずつ呑むことに。おつまみはブルーチーズでシンプルに。
「優成と二人きりで呑むのって初めてだね」
「そうだね。あの時以来だけど、あの時の事は持ち出さないで」
実は中学生の時に未砂記やその仲間たちで呑んだ事がある。
その時のメンバーで男は俺だけという普通なら羨ましい場面だった。しかしその夜、俺は調子に乗ってウイスキーを原液のまま一気呑みして女子数人の前で吐いてしまった。まぁ、なんというか、急性アル中にならなくて良かった。
「はいはい、あの時は凄かったね! アレ処理したの私なんだからね!」
「あらっ! 多大なご迷惑をおかけ致しました!」
◇◇◇
中学生のから私は彼の事が好きでした。好きな人のゲロなら片付けられるでしょ? と、みんなに言われ仕方なく、それはホントに仕方なく。
ワインとブルーチーズ、そして星空がロマンチックな雰囲気を醸し出しています。そのワインを開けて数十分。彼はお酒に弱いみたいで、あっという間に酔ってしまいました。でも酔ってる時の彼はとても素直なのです。
「未砂記ぃ」
彼が私の名を呼んだその時、ロマンチックな雰囲気が一気に様変わりしました。
言うまでもありませんが、未成年の飲酒は法律で禁止されていますので、未成年の読者の方は優成や未砂記の真似はしないでください。