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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
ラブコメ編
20/52

第二十話:裸エプロン

 花火大会の夜、埼玉にある親戚の家に戻るのは面倒なので俺は未砂記の家に一晩泊めてもらう事にした。


 未砂記の家は築十五年程度の一軒家で、茅ヶ崎市海岸地区ではやや広めの五十坪くらい。南側に庭があり、土地全体の面積六十坪くらいになるだろう。


 いま未砂記は入浴中で、家族は他に誰もいない。いや、帰ってこないと断言できる。


 俺は広いリビングのベージュ色で大きなソファーにポツンと座っている。彼女は普段この広い家で一人きりなのか。


 なんか落ち着かない。あまり散らかっていないからか、生活感があまりなく、どこか淋しい。

カノジョの家にふたりきりでお泊りなんてそうそうないシチュエーションなのに、この感覚は何だろう。


 色々考えながら約四十分が過ぎた頃、未砂記はようやく風呂から出て来た。なるべく早く出て来ると言っていたような気がしたがそれは聞き違いだろうか。


 お世話になっている立場なので文句は言わないが、仮にそれを言ったとしても、優成ひとりぼっちで淋しかったんだぁ~、などと図星なツッコミを入れられ、まともな言葉を返せなくなり、そんな事ねぇよ、と分かりやすい返事しか出来なくなってツンデレだとか言われるのがオチだ。


「お待たせぇー!! お風呂入っていいよ!」


「ん~と、あなたの目の前に居るのは誰でしょう?」


「何言ってんの!? 優成でしょ? 彼氏の事忘れるほど馬鹿じゃないよ」


「あ~、なるほど。じゃあ俺の性別は?」


「男の子でしょ? 私レズじゃないよ。そこまで馬鹿にされると傷つくなぁ」


「じゃあその格好は?」


 上半身は大きめの白い無地のシャツにピンクのブラが透けて見える、男の前とはいえ真夏のクソ暑い季節の格好としては割と普通。しかし下半身はおそらくパンツ一枚。シャツが大きいのでパンツはギリギリ見えないチラリズムが男心をくすぐる。


「あっ、もしかしてエッチな気分になっちゃったぁ? 私、大人っぽくてセクシィだからね!!」


 いやいや、あなたの外見は大人っぽくないですよ? 顔は割と童顔だよな。俺はロリコンじゃないけど。


 思う事は色々あるが敢えてスルーして風呂へ。


「うわっシカト!? これが恋人に対する態度ですか!?」


 やはり返せそうな言葉が見付からないのでシカトして風呂に入る。俺って、かなり感じ悪いんだろうなぁ。


 浴室は広く開放感がある。浴槽のお湯はメントール入りのミルキーバスで心地良い。それに風呂独特の匂いも自分の家の正人が腐らせたものより格段に良いものだ。それにさっきまでここには未砂記が…。


 ◇◇◇


「優成? まだ出て来ないの?」


「ん?」


 風呂のモニターの向こうから未砂記が俺を呼んでいる。


「もう一時間以上経ってるよ?」


「はぃ!?」


 要らぬ想像を膨らませているうちにすっかり眠ってしまったようだ。お湯もかなり冷めていた。少し温かいシャワーを浴び、さっさと風呂を出る。


「俺とした事が…」


 とりあえずリビングに戻る。そこには少し色褪せた青いジーンズを履いた未砂記がテーブルの上にみじん切りにされた玉葱の炒飯や、ほうれん草入り卵スープが二人分用意して待っていた。


「遅いよぉ、間抜けな寝顔さん」


 俺は爆睡すると口を開けてしまうのだ。


「見たんだ…。俺の間抜けヅラ。ところでこれ未砂記が?」


「そうだよ!」


 女の子の手作り料理は嬉しいものだ。それにここなら正人が帰って来るのを恐れる事なくゆっくり食事が出来る。一度で二度美味しいとはこの事か。それにしても未砂記が料理出来るなんて、失礼だが意外だ。


「優成のためにいっぱい愛情込めて作ったからいっぱい食べてね!」


「サンキュー。いただきます」


「いえいえそんなご主人様ぁ。私もいただきます!」


「ご主人様?」


 時々変な事を言う子なので本音を言うとそんな事気にも留めていないが敢えて突っ込んでみる。


「優成が絡んできたぁ。珍しい」


 なんだその冷静な反応は!? 俺が絡むのがそんなに意外だったか!?


「うるせぇ」


 それしか返せる言葉がなかった、頭の回転が悪い俺。


「早く食べなよぉ。冷めちゃうよ」


「あ、はい」


 未砂記は俺が一口目のスープを口に運ぶのを興味深そうにじっと見ていた。


「ど~お?」


「美味しい。マジで」


 匂いは美味しそうだが味はどうかと予想していただけに驚いた。


「でしょ!? 良かったね! 良いカノジョが出来て!」


「それを言わなければなぁ」


 食事を終えると未砂記は食器を洗うため台所へ。お世話になっている俺が何もしないのも良くないし、ここまでやらせてしまうと肌がむず痒いので何か手伝おうと後を追った。


「どうしたの? 裸エプロンやってほしいの?」


 その一言で手伝う気をなくした。そして無言でその場を立ち去る。


「あっ! またシカトしたぁー!!」


「何か手伝おうと思って来たの!」


 すると未砂記は急に俺を包むように穏やかな笑みを浮かべながらいった。


「知ってる。優成ってそういう奴だよね。今日くらい何も気にしないでゆっくりしなよ」


「いやでも…」


「いいから! 次からは手伝ってもらうからね!」


 また見透かされた。俺に気遣う事なく手伝いさせないためにわざとあんな事を言ったんだ。


「サンキュー。じゃあお言葉に甘えて」


「じゃあテレビでも見てて! ちょうど今なら『世界遺産』が大画面で見れるよ!」


 実質一人暮らしなのに大画面のテレビ。これは単身赴任の未砂記の父親が送ってきたらしい。きっと彼は未砂記が一人で暮らしている事を知らないのだろう。


 ◇◇◇


「手伝ってもらえば良かったかな?」


 恩着せがましいなぁ、私って。素直に手伝ってもらえば裸エプロンなんて言った意味気付かれなかったよね。


 ◇◇◇


 リビングに戻った俺は早速世界の遺産をフカフカなソファーから大画面で拝む。一度はその遺産の数々を訪れてみたいものだ。それから間もなく未砂記が戻り、俺の隣に座った。


「優成ぃ、明日ネコちゃん退院だからね」


 例の一件で俺の家で飼っているネコが羽アリに襲われて動物病院に入院している。

「おっ、そうか、そりゃ良かった! でもホントにいいの? ここで面倒みてもらって」


 未砂記は以前から家でネコを預かってくれると言ってくれている。


「うん! トイレ外でするんだから全然問題ナッシングだよ!」


うちのネコは家の中で排泄をしない。俺の家と未砂記の家は小学校の学区は違えど程近く、この近辺は縄張りのようだ。


「ねぇ、そろそろ私の部屋、行かない?」


 そういえばそうだった! 寝る部屋一緒じゃん! 他の家族の部屋は一応使ってるみたいだし。やべ、どうしよ。

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