第十五話:再会 格差 芽生え
「オタちゃ〜ん、サイダー買ってぇ♪♪」
「なんで?」
「未砂記たちがラブラブだからぁ、私たちもらぶらぶしよ〜よ〜ぉ」
「サイダーとそれとどんな関係があるの?」
「サイダーを私の谷間に注いで、それをオタちゃんが飲むのっ♪♪」
「まったく、淫らな人だ」
「チェッ、あの男(優成)ならすぐ食らい付いてくるのに」
私とオタちゃんは未砂記と宮下の愛の時間を少しでも増やすためにコンビニでの滞在時間を少しでも長くしようと思って雑誌を立ち読みしたり、オタちゃんに好物の三ツ矢サイダーを集ったりしながらゆっくり買い物をしていた。
「あの〜、そろそろ帰ってもいいんじゃないかな」
家を出て一時間弱。コンビニに居るにもそろそろ限界。
「そうだね! じゃあゆっくり帰ろう」
◇◇◇
結局サイダーを買わされて、大甕さんとコンビニを出ようとした時、一人の女性が僕を呼び止めた。
「あれ? もしかして小田君?」
「えっ!? あの…」
どうやら僕を知っているようだったが、当の僕には見覚えがない。
「オタちゃんの友達?」
「いやその…」
「私のこと忘れちゃったかな?」
忘れた!? やっぱり僕と面識ある… それとも人違い?
「いや、え〜と…」
気持ちが焦ってきた。真面目に思い出せない。あ〜どうしよどうしよど〜しよ… 忘れたなんて失礼だ… 大変だぁ!!
「オタちゃん冷や汗かいてるよ!?」
「同じ学校なのに…」
同じ学校!? うわっ、もっと大変な事になってきたぁーっ!! 大変だ大変だ大変だぁー!! 普段他の人に関心ないから全然わかんない… どうしよどうしよたいへんへんたいたいへんたい!? たいへんたいってなんだーっ!?
「小学校も同じだよ? 中学は一時的に引越してたから違うけど」
あっ!? まさか!? でもあの時と全然違う…。
「あの、もしかして…」
「思い出してくれた?」
「石神井さん?」
「そうだよ。やっと思い出してくれたね」
「いや、あまりにも変わっちゃって… 小学校の時は三つ編みで眼鏡かけてたし…」
彼女の名は石神井さやか。小学校の時はまさに地味そのものだったのに、髪は大甕さんのように長く艶やかでストレート。だだ、色素は大甕さんより少し薄く、二人並ぶと茶色っぽく見える。顔立ちは柔和でおしとやか。決して地味ではなく清楚で大人っぽい、お嬢さまそのもの。そして僕は当時から地味なまま。
「えっと、こんな時間にどうしたの? 僕たちはウチでお泊り会やってるんだ〜」
「えっ!? ふたりきりで!?」
「いやいやいやいやいや、ちっ、違いますっ!!」
「え〜オタちゃんひど〜い。私と暑くて熱い夜を過ごしてくれるんじゃなかったのぉ?」
「なっ!? 何言ってるん…」
「そうなんだ。小田君も変わったんだね」
また大変な事になってきたぁーっ!!
「いやそんな約束してないって!! なんで大甕さんは話を変な方向に持って行くんですか!?」
「面白いから〜」
「やっぱり変わってないね。もし良かったら、私も参加したいかも」
「えっ、石神井さん、でいいんだよね? 家に帰らなくていいの?」
「はい。今夜、家には誰も居ませんので」
石神井さんは少し遠慮気味に二人の様子を伺った。
「じゃあ来なよ! 人数多いほうが楽しいよね!? オタちゃん!?」
「えぇ、まぁ…」
ということで、急遽お泊り会のメンバーが一人増えた。
◇◇◇
「あっ、おかえり」
「ただいま〜」
「ただいま〜、突然だけど、メンバー増えたよ!」
「あ、あの…」
「あれっ!? 石神井さん!?」
「あっ、宮下君、ですよね?」
「あぁ、去年クラス隣だったよね」
石神井さんは清楚で気品があって、話したことはなかったけど俺の好みだった。
「はい。今夜は突然お邪魔してしまってすみません」
「ううん、オタちゃんの家だから気遣いはいらないよ!」
「な、なんだよそれ!? 追い出すよ?」
「女の子には優しくしようよオタちゃん!!」
その言葉によってオタちゃんの心のスイッチが押されたようで、急に男女平等について熱く語り始めた。
「現代は男女平等参画社会ですよ!! レディースデーとか、女性にはデザートサービスとか!! 優遇され過ぎです!!」
すると石神井さんはそれに反論するように切り返した。
「でも女性は家事ロボットとか子供を産む○○とか言われる事もありますよね?」
オタちゃんは呆気なく失速。急に弱気な口調になった。
「た、確かに未だそう言う心ない人も居ますけど…」
「よく言った! 石神井さん!」
浸地は何か勝ち誇ったように石神井さんを褒めたたえた。
「えっ、いえ…」
俺はこの場を治めようと尤もらしい言葉をかける。
「なんかそういうのって複雑だよな。要するに互いを尊重すればいいんだべ?」
「宮下が言うみたいになればいいんだけどね」
「はい」
「そうだよ。男だからとか女だからとか関係ないよ。だから電車には男性専用車も設けてほしいな。この辺りの電車は小田急線以外女性専用車すらないけどね」
男性専用車なんかあったら臭くて呼吸もままならないだろうな。
「ごめん、オタちゃん。私が悪かったよ」
浸地が非を認めたというか納得したのか何なのか、オタちゃんに詫びた。
「私も、変な事言ってしまってごめんなさい」
「い、いや、気にしなくていいよ。僕も急に熱くなっちゃって、ごめん」
浸地を謝らせたオタちゃんは気が重くなってきた。しかし、男女の格差はいつになったら無くなるのだろう。未だに賃金だって同じ仕事をしても女性の方が低いし、亭主関白な家庭もある。夫は出稼ぎして給料が入るけれど、女性は家事をしても給料は貰えない。そもそも、収入で物事を考える世の中が間違っているのかもしれない。
「ところで、なんとここには大和撫子が二人も居ます! 男性のお二人、特に宮下は欲望を制御出来るのかな?」
「な、なんだよ!? 俺には未砂記が…」
「でも、本能は嘘つけないよね?」
浸地の小悪魔的な笑みが、優成の中枢を刺激する。
「そ、そうなんですか!? 男の人って…」
「そ・う・な・の!」
「そ、そんな事ねぇよ… 誤解だ」
口ではそう言いつつ、図星だ。なんてこった。他の女に欲情してしまうとは。ってか浸地の白いネグリジェは俺のツボにどっぷりズッキュンだっての。そして石神井さんは見ているだけで、おいしそ〜。
男とは下劣な生き物だ。しかしここは我慢するしかない!
「オタちゃんは平気だよね?」
「う、うん」
いや、実は平気でなかったりする。何だろう? なんか胸騒ぎがする。しかもそれが快感というか、楽しい? なんだ? この感覚は…?