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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
複雑な日常と青春
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第十三話:愛情と友情

 翌朝、俺は早速未砂記が入院する病院へ行った。部屋は個室だ。


「あの…」


「あ、やっときた。来るの遅いよぉ」


「ごめん、本当に。俺、未砂記と会う資格、あるのかな」


「当たり前じゃん! だって私たち恋人だよ!?」


 未砂記は思いの外元気そうで安心した。それとも繕っているのだろうか。そして俺を歓迎してくれた。俺の心中で感謝と謝罪の気持ちが錯綜していた。その時一瞬で決意が固まった。


 これからは俺が未砂記のために全力で尽くそうと。彼女がそうしてくれたように、この身を捨てる覚悟で。


「私、嬉しかったよ? 私のために泣き叫んでくれたり意地もプライドも全部捨ててくれたんだよね?」


「うん、もうそんなのどうでも良かった。傷、痛まないの?」


「まだ痛いけど、そんな事よりまたこうやって優成と話せる嬉しさの方が大きいよ」


 俺は静かに涙をこぼした。そしてしゃがみ込み顔を沈めた。そんな俺の頭を未砂記は優しく撫でてくれた。


「よしよし、本当に一番辛いのはキミだもんね。心にいっぱい怪我してるもんね。でも大丈夫だよ。他の友達に本音でぶつかる事ができなくても、私だけには遠慮なくぶつかって良いんだからね? これからは何も不安は要らないよ?」


 全てを包み込むようなその優しさが涙に更に拍車をかけ、子供のように泣き崩れた。同時に俺は彼女になら何も包み隠す必要などないという今まで誰にも自分の本当の姿を見せられなかった俺にはこれ以上ない安心感を得た。


「ごめん!! 今までずっと押し退けてきて!! 迷惑だなんて言ってきて!!」


「迷惑かけてきたのは本当だからしょうがないよ。ごめんね。こんな私で、本当に良いかな」


「何言ってんだよ!! それは俺の台詞だろ!! 未砂記の優しさにはずっと前から気付いてたのに!! だからこれからもいっぱい迷惑かけていいから!!」


「ありがとう。私も知ってたよ? キミはホントは優しい人だって。だから命を捨てても良いくらい好きになれた」


「なんか、そういう事言われると恥ずかしいかも」


 すると未砂記は、にんやりとして俺の顔を覗き込んできた。


「わ〜照れたぁ〜」


「う、うるせぇ」


「泣き止んだね。良かった」


 それから暫く他愛のない話で盛り上がり時は昨日とは違い、あっと言う間に過ぎていった。時計を見ると病院に来てからもう数時間余り過ぎていた。


「ねぇ優成? 未砂記、愛してるって言って抱きしめてみて?」


「ここで? いま?」


「うん。ここでいま」


 暫く躊躇したが、このくらいの要求に応えられないなんて情けないし、未砂記を愛してるのは本当だ。俺は思い切って未砂記に抱き着いた。


「未砂記! 愛してる!」


「優成…」


 未砂記が耳元で囁いた。


「ん?」


「後ろ」


「後ろ?」


「うん、振り返ってみて」


 その時、俺の中で時間が止まった。そして、今まで味わったことのない痺れが身体全体に走った。


「へ…? ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「よっ! 普段の態度からは想像もつかないくらい大胆だねぇ!」


「あ、こんにちは、二人とも。お土産持ってきたよ」


 後ろを振り返ると友人の浸地ひたちとオタちゃんがいた。俺の額からは、今までにない大量の冷や汗が流れてきた。


「お、お、おおお前ら、いいっ、いつから居た!?」


「宮下が正に未砂記に抱き着く瞬間だよ。いいなぁ、私も彼氏欲しいなぁ〜」


「ごめんねひたっち〜」


「ってか何で未砂記が入院してんの知ってるんだよ!? マスコミの取材も来てないみたいだし」


「あぁ、それは学校からの連絡だよ。仙石原さんが入院したって、あけぼの(寝台特急)乗ってる時に朝川(あさかわ)先生が電話してきた」


「でもどこの病院かまでは特定出来ないだろ!?」


「それは朝、未砂記からこの病院に居るの聞き出したから分かったんだよ〜」


「あ、そうだったんですか…」


「今日は良いもん見れたなぁ。私も新しい恋しなきゃ!」


「ひたっちガンバ!!」


「サンキュー未砂記! 心の友よっ!」


 正人が捕まった事より未砂記に抱き着いている所を見られた方が恥ずかしいのかもしれない。俺がこの日、過去最高の恥をかいたのは言う間でもない。そしてその噂は、浸地を介して担任の朝川夕子(あさかわゆうこ)を含め、あっという間にクラス全体に広まったという。


 その夜、俺はオタちゃんの家で浸地も一緒に泊まることになった。


「あっ、宮下、ケータイ鳴ってるよ!」


 ケータイの画面を確認すると、どうやら電話は担任からのようだ。


「もしもし、夕子ちゃん?」


「おぅ、色々大変だね。何かあったら相談してね?」


「ありがとう」


「でさ、未砂記ちゃんに抱き着いたの見られたんだって!?」


「えっ!?」


 この後、結構な人数が俺に電話をかけてきたが、誰も正人の事は問わず、未砂記に抱き着いた事だけを問い掛けてきた。これはみんなの優しさなのか、それとも興味本位なのか。違う意味で疲れた一日だった。


 それと、後で聞いた話だが、俺や未砂記の家、学校にも取材陣が押し寄せなかったのは、学校長、会長と、未砂記、浸地、オタちゃんそれぞれのお父さんが各メディアに圧力をかけたらしい。


 この日は一旦家に戻ってビーズを通したのだが、よく見ると、何故か昨日の分のビーズも通されていた。誰がやったのだろうか。俺の背後に何かの気配がしていたが、それはまた別の話。

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